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三秒の幸福論




朝、目を開けたらなぜかスコールの顔があった。
周りを見渡すと、見慣れない場所にいた。

あれ?夢か?何だこれは?
一瞬考えて。
ああ、そうだ。思い出した。
昨日は、初めてこいつのマンションに泊まったんだった。


初めてスコールの手料理を二人で食べて、
初めてスコールの家の風呂に入って、
初めてスコールのベッドに入って、

それで初めて。
スコールと。………。

うわーーー!!
駄目だ、恥ずかしい!
これ以上は俺の口からは言えない。



「おい。何一人で赤くなってるんだ」


急に低い声がしたので目線を上げると、スコールが目を覚ましていた。
まだぼんやりしているが、寝起きでも綺麗な顔だな。
でも、近い。近すぎだ!
ああ。そうか。そうだった。
同じベッドで眠るってこういうことだったんだよな。
なんて、なんて、照れくさい。


「お、起きてたのか…」
「あんたが蒲団バタバタ叩いて暴れだした辺りからな」


と言うことは、俺のうろたえっぷりは見られていた、と。
……くそ。
恥ずかしい。


「起きていたなら、声くらい掛けてくれてもいいだろ」
「いや、なんか面白かったから」


ムッとしていたら、誤魔化すように指先で頬を撫でられて、それからキスが降ってきた。
余計に頬に血が上ってしまう。


「クラウド、あんたは何時に出るんだ?」


言われて思い出す。
そうだった、今日は平日。こいつは学校。俺は会社だ。
もう少し余韻を楽しんでたかったな、なんて柄にもなく思った。


「そうだな…ここの方が近いから、7時半くらいでも大丈夫だ」
「じゃあ俺の方が少し先だな。あんた、合鍵あるのか?」
「…あ、ある、けど」


『合鍵』って響きだけでもなんだか落ち着かない。
何だか、俺は一人でドキドキしたり緊張したりしている。
スコールはいつもと変わらない。
いつも通り、普通で、年下の癖になんか余裕で。なんだかちょっと口惜しいような寂しいような…。

ああ。
舞い上がってうろたえていたのは俺だけなんだ。
そうか。
スコールにとっては、あんまりたいしたことじゃ無かったんだ。
そうか……そうか。

………。

黙っていたら、スコールが覗きこんできて、言った。


「どうした?」
「……いや」
「言ってくれ、クラウド。でないと一日中気になる」
「……なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないだろう」


スコールの視線に射貫かれる。
そうやって、あんたにジッと見つめられるのに俺が弱いって事、知らないだろ。
クラウド、と促すようにもう一度名前が呼ばれて、もう駄目だと思った。


「なんか…その…。あんたは普通だな、って思ったんだ。
だから、ちょっと…」
「え?」
「あ、あんたは…いつも通りだから、なんか……悔しくて…」


寂しい、やっとそれだけ言ってスコールと視線を合わせたら、ふいっと視線を外されてしまった。


ああ。なんだ。
やっぱり、がっかりしているのか。
俺なんかと、こんな関係になって後悔しているんだ。
どう見たって、失望させたんだよな…これは。

そりゃそうか。
どうこう言ったって男同士だもんな。
やっぱり。

脱力。

情けなくなった。居た堪れなくなった。
これ以上、スコールの表情を見たくなくて思いっきり背を向けた。
一人で嬉しがって舞い上がってた分、本当に情けない気持ちでいっぱいだ。
なんだか涙まで出てきそう――。

と、どん底まで落ちそうになっていたら、突然スコールが後ろから腕を回して俺を強く抱きしめて来た。


「あんた、莫迦か!!
照れ隠しに決まってるだろう!!」


驚いて思わず振り返ると、スコールが見たことも無い顔をしていた。
照れたような、怒ったような、情けないような、とにかく今まで見たことない複雑な顔だ。
スコールもこんな顔するんだ。
それは嬉しい驚きで、さっきまでのちょっと悲しかった気持ちはどこかに行ってしまっていた。


「あんたがあまりにも意識してたから必死で普通にしてたのに、こっちまで恥ずかしくなるだろうが!」


そう言ったスコールは耳まで赤かったので、俺はこの先もずっとこいつのことが好きだと思った。

さっきの寂しさの反動で、笑いが込み上げて来る。
堪えきれずにクスクスと笑っていたら、笑うな、とスコールが眉間の皺を深くして睨んでくる。彼の腕の力が強くなった。

それから何となくスコールの顔が近づいてきてキスされて、抱き込まれてる身体がベッドに沈められて、あれ?これはちょっとヤバイんじゃないか?と思っているうちに、スコールの手があらぬ所で不埒な動きをし始める。

『ちょっと待て今何時だと思っているんだもう朝なんだぞ時間はいいのかあんたは俺よりも早く出るんだろう遅刻するぞ朝メシはどうしてくれるんだだから待てってばこれ以上は困るあんたの手はヤバイんだって』

と言おうとしたのに、全部が吐息と音の羅列に変わっ
てしまった。




そうこうしている内に、いつの間にかスコールが学校に行く時間ギリギリだ。
朝メシは各自でコンビニ調達にして、二人して慌てて支度をする。

そうか。一緒に暮らしたらこんな感じなのかもな。
ちょっと想像した。


「行ってらっしゃい」


靴を履き終えたスコールに、鞄を渡してやって玄関先でそう言ったら、スコールの動きがピタと止まった。
え。なにか変だったか?


「スコール?」


腕をぐいと引かれ、抱き寄せられてキスされた。
これってもしかして俗に言う『行ってらっしゃいのキス』ってヤツ??
――どこの新婚バカップルだよ!


「新婚みたいだな。
あんた、今日も来てくれるんだろう?」


思った事を言い当てられて返事ができないうちにもう一度軽くキスされて。
早く夜になればいいな、とスコールは言い残し、颯爽と出て行った。



そうだな。
今日こそは残業しないように、俺も頑張ってこよう。







fin.


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