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スコールと二人で過ごした日々は、まだ短い。
その時間を、大事な人と一緒に過ごせていることを、誰にともなく感謝したいと思うのはなぜなんだろう。
そんな事を考えている自分にふと気付いた。
人恋しくなってしまうこの寒い季節のせいかもしれない、とちょっと苦笑が浮かんだ。


「どうした?」


手にしていた黒いファーコートを羽織りながら出てきたスコールは、玄関先でブーツを履いて待っていたクラウドに言う。


「今、笑ってただろう?」
「そうか?」


行こう、そう言うとクラウドは玄関のドアを開けて、まだ何か言いたそうなスコールを促した。




クリスマスの浮き立った華やかさも、正月の賑やかさも終えた今、二人はなんとなく落ち着きを取り戻しつつある街に出かけた。


「あ」
「ああ、寒いと思ったら雪だ」


フワフワと舞い降り始めた冬の妖精たちを見上げて、クラウドとスコールは白い息を吐いた。
どんよりとした鉛色の空からは、チラチラと白い花びらが舞い降りてくる。
街を行く人々は、各々に足を止めて上を見上げたり、足早に家路を急いだりしている。
でも、雪はまだまだフワフワと少なく、アスファルトの地面につくとすぐに溶けてなくなってしまう。


「こう見ると綺麗だな」
「うん」
「でも、積もると明日の朝が大変そうだ」
「こういう雪は積もらないよ」


クラウドは言いながら、雪片を受け止めるように手の平を差し出す。
その上に舞い降りた結晶は、手の中に吸い込まれるように溶けて水滴になった。


「俺の故郷じゃ、冬になると氷混じりの硬い雪が降るんだ。
その雪も、山からの強い風で吹き飛ばされてしまうから、ほとんど積もらないんだけどな」


彼方此方に吹き溜まりはできるけど、とクラウドは言葉を続ける。
スコールは、なんとなく残念そうに呟いて空を見上げるクラウドをしばらく見つめていたが、ふと気がついたように言った。


「あんた手袋は?」
「え?…ああ、ない」


ぴっ、と手を振って手の平に付いた水滴を払うと、クラウドは冷たくなった手を無造作にポケットに突っ込んだ。


「この前はしてただろう?」


スコールが訊くと、…まぁ、とクラウドは外方を向いて言葉を濁した。
スコールは重ねて訊いた。


「どうしたんだ?」
「……なくした」


クラウドはバツが悪そうに小さな声で答える。


「捜したのか?」
「……一応」
「どこにもないのか?」
「……多分」
「どこかで買おう。このままじゃ寒いだろう」
「いらない」
「そういう問題じゃない」
「……だから言いたくなかったのに。
平気なんだ、寒さには強いから。バイク用のはあるし」


頑なに首を横に振るクラウドに、スコールは少し考えてから言った。


「この天気だ、今日の買い物はやめておこうか。急ぎじゃない」
「あのな。そこまで俺は柔じゃないんだぞ」
「じゃ、俺のを使えばいい」
「あんたのは合わないから嫌だ。大丈夫、雪が降ってた方が暖かいんだ」
「…クラウド」


気がかりな風で名を呼ぶスコールに、もう一度『平気だ』と言ってクラウドは先に歩き出した。
ショッピングモールで手早く買い物を済ませて外に出たときも、まだ雪は降っていた。
先ほどよりも少し降りが強くなってきたようで、視界のあちこちが白くなり始めている。
道の端や、街路樹の根元あたりは、もう白く積もり始めていた。
そのまま歩き出そうとしたクラウドを、スコールが呼んで止めた。


「クラウド」
「平気だ。どうせすぐ春が来る」
「これからが一番寒い時期じゃないか。引き返して買ってこよう。すぐそこだ」
「いらないってば。スコール、あんたいつからそんな心配性になった?」
「元からだ」


キッパリと言い切るスコールに、クラウドはしかめっ面で肩を竦める。
スコールはなおも気がかりそうだが、それを見ない振りでクラウドは口を開く。


「いいから。で、次はどこに行くんだっけ?」


クラウド自身はまったく平気そうな顔をしているが、荷物を持つ彼の手の甲は赤く、指先は反対に白くなってきている。
スコールは、そんなクラウドの凍えた手を見るのが嫌だった。


「クラウド」
「うん?」
「やっぱり、俺のでいいからはめててくれ。
見てる俺が寒いんだ」


スコールはポケットから手袋を出すと、半ば無理矢理クラウドに手渡した。
クラウドはちょっと眉をしかめて手袋を押し返そうとする。クラウドにしてみれば、自分の手より一回り大きな手袋に少なからず同性としての複雑さもあった。


「……あんたが寒いのは嫌だ」
「寒くない。大きいかもしれないが、我慢してはめておいてくれ」


スコールは続けてクラウドの顔を覗きこんだ。
少しムッとしたクラウドが手袋を突き返そうとしたとき。スコールは、思いついたように口を開いた。


「じゃ、こっちだけ貰う」
「え?」


そう言うとクラウドの手から、ヒョイと手袋の右手を取って自分の手にはめる。
クラウドは文句を言うタイミングをずらされて、そんなスコールを見つめた。
スコールは続けてクラウドの荷物を持つと、空いた彼の左手にもう一つの手袋をはめた。
そして、自分の左手でクラウドの素の右手を取り、しっかり繋いだまま自分のコートのポケットに入れた。


「ベタだが…これなら温かいだろう」


驚いて見上げたクラウドの瞳に、スコールの照れたような笑みと一緒に舞い降りる白い花びらが映る。
ポケットの中で繋がれたままの手にキュと力を込めて、スコールはもう一度微笑んだ。


「実は、一度はやってみたかった」
「……あんた、恥ずかしい…」


クラウドはマフラーに紅く染まった顔をうずめて、口の中でもごもごと呟いた。

どうして、こいつはいつもクールなくせに、こうやって人目も憚らずにこういうことができるんだろう。
気がつかないうちに望んでいたかもしれない事を、こうしてさらりとやってのけられると、とても複雑な気分になる。
…なんだかちょっと憎らしくも思える。
けれど、このドキドキしてる感じは、もしかしたら自分で思ってる以上に嬉しいのかもしれない。


「大丈夫だ。みんな雪で足元しか見ていない」
「でも、荷物…」
「いい。行くぞ」


スコールはそう言うとゆっくりと歩き始めた。
雪の積もり始めた歩道を滑らないように確かめながら歩く。
歩きながらクラウドは、スコールの横顔をチラチラと見上げた。
コートのポケットの中で繋いだままの冷たい手が、スコールの熱と共にだんだん温もりを取り戻してくるにつれ、なんとなく恥ずかしさも湧きあがってきてしまう。


「…スコール」


決して少なくない通行人たちが、なんだか自分たちの方ばかりを見ているような気がして、もう一度クラウドは小さな声で彼を呼んだ。
スコールがそれに気付いて、なんだ?と彼の方を向いた。
言おうとしていた事とは別に、彼の前髪に降りかかった雪が溶けて顔に雫が落ちそうになっているのにクラウドは気付いた。
気になって、つい左手を伸ばして払おうとした。
その途中で手が止まる。



今。

キス
したい・・・



クラウドは唐突にそう思った。思った途端に、自分の頬が一気に紅くなるのがわかった。
咄嗟に、それがどんなに不自然なことかわかっているのに、伸ばした左手で自分の顔を隠しながら逸らしてしまった。

今、ここでキスしたい…。
つい、そう思ってしまって恥ずかしい。
もし、自分からキスしたら、きっとスコールはとてもびっくりするだろう。
でも、驚いてもきっとすぐに喜んで応じてくれるんだろう。
どんなに周囲に人がいたとしても、それが例え車の行き交う交差点のど真ん中だったとしても、スコールは自分に対する愛情表現だけは惜しむことがない。

けれど、自分にはそんなこととてもじゃないが無理だ。
できそうにない。


「クラウド?」


スコールの、自分に呼びかける時にだけ使われる柔らかな声音を聞いたら余計にダメだった。
もう、勘のいい彼にもとっくにわかってしまったのだろう。
そう思うと、クラウドはまともに彼の顔を見ることも出来ない。
思わず、ポケットの中の繋がれた手を離そうとした。
その手をスコールの手がしっかりと握り直す。


「……離してくれ」


真っ赤な顔のまま俯いて、固まったように動けないでいるクラウドの耳元で、スコールは囁いた。


「顔、上げて」
「そっ…」


そんなことできない、とクラウドは口の中でもごもごと呟いて首を横に振った。
顔を上げれば、きっとここで彼にキスされるだろう事なんてわかってる。
だから、できるわけない。
そんなクラウドにスコールはさらりと言った。


「なら、いい。もう帰ろう」
「え?」


スコールが簡単に引き下がった事に驚いて、クラウドはつい顔を上げる。
その頬に軽くスコールの唇が触れた。


「なっ、なにっ!?」
「ああ、雪がついてたんだ」
「嘘つけ!」


赤い顔をさらに赤くして言い募るクラウドに、スコールはニヤと音の出そうな笑顔を向けた。
なんだか嫌な予感がする。


「ここで俺がこれ以上の事をしたら、あんたに殴られるだけだろう?
残りの買い物なんかいいから、今すぐ帰るぞ。
あんたからその気になってくれるなんて、こんなチャンス滅多に無いんだ。みすみす逃すような事をしたくない」
「ばッ……!」


なんて恥ずかしい事をサラッと言うんだ、とクラウドはいつにない満面の笑みを見せるスコールを睨みつけた。
が、彼は全く堪えてはいない。
そのままスコールはクラウドを促して、帰路につこうと足早に歩き出す。
ややあって、クラウドの不満そうな声がした。


「……ほんとに帰るのか?」
「ああ。帰ったら手だけなんて言わずに、あんたの全部を暖めてやる」
「……莫迦」


真っ赤になった顔をマフラーに埋めて隠しながらも、クラウドはポケットの中のスコールの手をぎゅうっと握りしめた。








fin

20000を踏んで下さったハルタ様のリク。
『スコクラで初詣に行く話か、同棲パロでとにかくラブラブなスコとクラが読みたいです』と頂きました。
自分なりにラブ度を上げてみましたが、いかがでしたか?
…物足りないかもしれませんが、どうぞお受け取りくださいませ。
リクエスト、ありがとうございました!
これからも頑張りますv


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あきゅろす。
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