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なんとなくXmas (スコクラ←セフィ)


それは、クリスマスを数日後に控えたある日のこと。
夕食後、いつものようにリビングのソファーで寛いでいると、『話がある』とスコールが隣に座った。


「待ち合わせ?」
「そう。デートだ。クリスマスだからな」


真顔で言うスコールに、クラウドの頭の上で??が飛び交った。


「なんで待ち合わせなんだ?住処も大学も一緒なのに、待ち合わせっていうのは無駄じゃないか。
クリスマスだったら家で――」
「それが駄目なんだ」


言葉を遮って人さし指をクラウドの目の前に突き出し、何時に無いほどの真面目な顔でスコールは言った。


「愛情のマンネリ化っていうのは、そこから始まるんだ。
時には新鮮な気持ちにならなくちゃいけない。やっぱりイベントは大事にしないとな」


きっぱりと言い切ってうんうんと頷くスコールに、クラウドは心中で溜息をついた。
また、バッツとジタンから色々吹き込まれて来たのか…クラウドは思う。
面白がってあの手この手でスコールを焚き付ける悪友たちの顔が浮かぶ。
そもそもここの所、自分がザックスの手伝いのバイトで忙しくて、だいぶスコールを放っておいてしまったからこうなったんだろう。
さらに、放って置いた分スコールにはたっぷり時間があったので、イベントの下調べも相当していそうだ。今回はヤケに力が入っている。

……ああ憂鬱だ。
聞き入れてやらないと、こいつは落ち込むか拗ねるかする。絶対する。
どちらにしても面倒なことに変わりない。


「同じ家から出て行くんだぞ。それでも待ち合わせする気なのか?」
「当然だ。任せろ、もうプランは練ってある」
「スコール…まだOKしてない」
「待ち合わせはホテルのラウンジだ。そこなら周囲がさほど煩くもないだろう。
食事は、この前セシルが美味しいと言っていたイタリアンに予約を入れてもらった。
あとは…やっぱり夜景を見たいか。あんた、どこか希望はあるか?」
「だから、ちょっと待て!」


どこのマニュアルに書いてあったデートコースだ!!
――クラウドは思う。
こいつはバリバリの理系の癖に、ものすごいロマンチストで情熱的だ。
普段クールぶっていても、その実はこういうイベントが大好きなのだ。百歩譲ってそれは仕方がない。
が、付き合わされるこっちの身にもなって欲しいものだ。


「スコール、聞け」
「楽しみだな、クラウド」
「だから聞け!…って…」

「やれやれだ…」


いつも通りを装いつつも妙に浮かれまくっているスコールを尻目に、クラウドは大きなため息を吐いた。







という訳で、まったく同じエリアを行動範囲とする俺とスコールは、(不毛ながら)15分の時間差を置いて待ち合わせ場所であるホテルのラウンジに向かった。
当然のごとく先について待っているであろうスコールは、筋書き通りに俺が現れるまでに窓際の席を陣取っている事だろう。

何がクリスマスだか……ため息が出る。
俺は、自慢じゃないが現実主義者だ。
なんで、このくそ寒いのにクリスマスを祝うために外に出なければならないんだ?
それも男同士でだぞ。カップルだらけの浮き立った街で目立つことこの上ないじゃないか。
セシルから、折角だからドレスアップして行ってあげてね、と言われたが、ドレスアップってなんだ??
どう考えても、俺がそんな服を持っていないことはスコールも知っている筈だ。
せいぜい就活スーツぐらいしか持ってないので、それで我慢してもらうことにしよう。


スコールが出てからきっかり15分後。
俺はスーツの上にダッフルコートを着てマンションの階段を下りて行った。
ここから歩いて駅に出て、電車に乗って某ホテルのラウンジまで30分かからないぐらいか。
電車は嫌だが、今日は飲むのだろうからフェンリルで行くわけにもいかない。
もう一度時計を見ながら、マンションのエントランスを出る。

と。


「クラウド」


後ろから誰かに呼ばれた。
この声は――。


「セフィロス?」


振り返ると、セフィロスが高そうな車に寄りかかって立っていた。

こいつは俺の高校の教師だった。
その頃の俺は、最初のうちはちょっとだけこいつに憧れたりしていたんだが、それも今となっては遠い昔話だ。


「なんであんたがここに?」
「冷たいな、元恋人に」
「誰がだ。あんたと付き合った覚えなんかない」


なぜか気に入られて、付き纏われた覚えならある。
誤解を招くような発言もなんだか懐かしいかもしれない。この人は相変わらずなんだなぁ、と思った。


「まぁいい。お前を待っていた。クラウド、頼みがある」
「忙しいんだ。俺はこれから出かける所で――」
「ほんの20〜30分でいい。付き合え」


訳もわからぬうちに、スイと腕を取られて連れて行かれそうになる。


「ちょっと待てよ!俺にだって予定があるんだ」
「なんでも屋なんだろう?依頼だ」
「俺はバイトでたまにザックスを手伝ってるだけだし、今日は休みだ」
「まぁいい。とにかく乗れ」
「なんで命令口調なんだよ。もうあんたは担任でもないんだし、俺とは関係な――」
「クラウド」
「な…」


セフィロスに翠の瞳でじっと見つめられて、なんだか落ち着かない気分になってしまう。
ああ…あの頃はこの綺麗な顔に惹かれたんだっけ。
……でも性格破綻者だったからなぁ…本当に気付いてよかった。


「……ホントに20分?」
「ああ。用事が済めば目的地まで送ろう。お前もその方がいいだろう?」


セフィロスが目で車の方をチラと見る。俺の乗り物酔いの事を言われてるとすぐに分かった。そう言えば、この人の運転では酔った事がなかったんだ、と思い出す。
ちょっと抵抗を止めたら、そのままずるずると引きずられるように車に乗せられた。
まぁ、行く方向は同じらしいからいいか…と車の中で話を聞く。

セフィロス曰く。

「今日、パーティがある。約束をしていた女の到着が遅れるので、彼女のドレスを先に選んでおく必要があってな。
そういえば、お前の体形が彼女と殆ど同じだと思い出した。試着を頼む。」
「な、何で俺なんだ!?他にも似たような女、あんたならたくさん知っているだろ!
俺は男だ、ドレスを着るなんて冗談じゃない!」
「今日は何の日だ?
自分が誘われたわけでもないのに、服だけ選んではいさよなら、なんてどこの女に言える。
だからお前なんだ、クラウド」
「…嫌だ」
「乗りかかった船だと思え、クラウド」
「…うう…くそ。あんた偉そうに…」


俺の背を冷や汗が伝った。
その間にもセフィロスの車はどんどん目的地に近づいている。


「せっかくのイヴだ。他人の幸せの手伝いもよかろう?」
「……わかった。でも、ほんの少しだけだ」


スコールに電話してちょっと遅れるって言わなければ…。
ああ、あいつが怒る姿が目に浮かぶ。

車の中、とりあえずスコールの携帯に電話を入れようとした。
が、なぜか留守電になっている。
そうか。面白がって邪魔をしようとする奴らがいるから、今は切ってあるのかもしれない。メッセージをとりあえず入れた。
ホテルの電話番号を調べて呼び出してもらうとか…と考えて焦っているうちに、セフィロスの目的地に着いたようだ。車がどこかの地下駐車場に滑り込み、エンジンが切れた。

どっちにしろ仕方がないので、とりあえずさっさと済まそうとセフィロスについて行く。
着いたのは某高級ブランドのブティックだった。
40がらみの化粧をビシッと決めたきれいな女性が、愛想よく俺たちを迎えた。


「頼んでおいた物を」


セフィロスはそれだけ言った。
すぐに何人もの店員に囲まれ、いきなり俺は着せ替え人形と化した。


「セフィロス!なんでッ!?」


コートを剥ぎ取られ、脱がされそうになった服を必死で押さえて俺が叫んでも止めようともしない。
皆、意に介さずといった感じで、ドレスをとっかえひっかえ持ってくる。
セフィロスは大きなソファーに座り、楽しげにこちらを見ているだけだった。


「セフィローース!」
「ああ、やっぱり紫はよく似合うな。黒は当たり前すぎる」
「深紅のドレスも素敵ですわ。肌が白くていらっしゃるからお似合いです」
「こちらの淡い薔薇色も、可愛らしいお顔の色を綺麗に見せますし…こちらのクリーム系は髪をアップになさると首から鎖骨が際立ちます」
「わーっ!やめろっ!」
「静かにしろ、クラウド」
「こんなことされて黙っていられるかっ!?俺は帰るぞッ!」


そう叫んだ俺は、抵抗の甲斐も無く店長らしき女性とあと数人にムリヤリ試着室に引きずり込まれ、着替えさせられた。
抵抗しようにも、相手が女性では遠慮が先に立って大暴れすることも出来ない。
ここまで計算して謀られたのか…とセフィロスに怒りが湧く。
女性二人がかりで押さえつけられて、髪をいじられ付け毛だなんだで騒がれ、オマケに化粧までされてセフィロスの待つ店内に押し戻される。
店内の人間がみな、ハッと一瞬静まり返った気がした。


「クラウド…」


俺の名を呼んだセフィロスが僅かに固まった気がした。
??なんで?
俺は男だというのに、店のマネージャーらしき女性は、顔色一つ変えずにひと言言った。


「とてもよくお似合いです」


一瞬、自分の置かれている状況を忘れて、流石プロだなぁ…と思ってしまった。



「綺麗だ」


立ち上がり、にっこりと微笑んで、セフィロスが俺に言う。
俺は思いっきりムカついて、仏頂面でセフィロスを睨み上げた。


「俺を騙したのか!?」
「いいや。途中で変更しただけだ。女が乗る飛行機が間に合わないらしい。
この際、お前に付き合ってもらう」
「俺、俺はッ――!」


本当に頭に来て、思わず言葉に詰まってしまった。
頬がカァッと熱くなる。
スコールを待たせているのに!


「ああ、もちろん知っている。例の子供だろう?
だが、今日はお前を帰さないでこのまま略奪することにしよう」


ニヤリとセフィロスに微笑まれて、はらわたが煮えくり返った。


「最初からそのつもりだったのかッ!?」
「しー…皆が見てるぞ。お前は目立つ」


ファーを羽織らされて、セフィロスに手を掴まれて店を出る。
ハイヒールが痛くて歩きにくくて、支えてもらわなければふらつきそうになる。
女はよくこんなものを履いて歩けるものだ。これも逃げられないようにと計算しての事なのだろうか?

店の前に黒塗りの外車が停まっていた。
運転手がセフィロスの姿を見て、慌てたように出てきてドアを開けようとする。
どうしよう。服も携帯も店に置きっぱなしだ。
早く逃げなければ…スコールのところに本当に行けなくなる。


「あっ痛っ…!ちょっと待って」
「どうした?」
「足が…踵の所がすごく痛い。靴のサイズが合わないのかも…」
「見せてみろ」
「うん」


俺はかがみこんで片方の靴を脱ぐと。
覗き込んできたセフィロスの顔を思い切りヒールで殴って、そのまま走り出した。


「クラウド!」


セフィロスの声を無視し、ブレーキの音と怒声を浴びながら、道路をムリヤリ横断して反対車線に逃げる。
グッドタイミングで走って来たタクシーに手を上げて停めると、もう片方のヒールも道路に脱ぎ捨てて乗り込み、運転手に行き先を告げた。
そうしてようやくスコールの待つホテルへと向かう事が出来たのだ。









クラウド。
どうしたんだ?
事故だろうか?それとも…。

もう、約束の時間を1時間以上過ぎている。スコールは心配で何度も電話した。
が、帰ってくるのは留守番電話のメッセージだけ。
自分の留守電には、ちょっと遅れる、とだけメッセージが入っていた。

何かあったんだろうか?
事故で電車が止まったんだろうか?トラブルに巻き込まれたんだろうか…?

そんな心配から、時間が経つごとに。

このまま、来ないのか?
嫌がるクラウドを無理に外に連れ出そうとしたから、怒ったんだろうか?
俺とクリスマスを過ごすのがイヤなんだろうか?
クラウドは俺のことを嫌いになった?
それとも…誰かと…他の誰かと過ごす約束でもあったのか?


スコールは、どんどん暗い考えに侵されていく。
周りを見れば、クリスマスで華やかに着飾った男女で溢れている。
その彼らは、スコールの方をチラチラ見て、気の毒そうに面白そうに笑っている……気がする。
落ち込みに拍車がかかった。

そのとき。


「スコール!」


ホテルのラウンジのざわめきを通り抜ける声。
周りの騒音が何事かと一瞬やむ。
ハッと顔を上げると、ラウンジの入り口から走ってくるクラウドの姿があった。


「クラウド!」


スコールは思わず立ち上がった。
ドレス姿のクラウドが、息を切らせてスコールの腕に飛び込む。
スコールは思い切りクラウドを抱きしめた。


「悪い。遅くなった」
「クラウド…どうして…。それより、その格好は?」
「話は後だ。ここは素直に“俺も今来たとこだ”って言え」
「え、ああ。い、今来たところだ、クラウド」


スコールは微妙な顔で言った。


「ゴメン。携帯忘れた上に、電車が遅れたんだ…」


わざとらしく言い訳の言葉を口にするクラウドと、心中複雑なスコール。
スコールはそれが嘘だろうとはわかったが、時間が惜しいので今はそれ以上追求する事はやめた。後で訊けば解ることだろう、と早々に結論付ける。

そうして、クラウドのドレス姿を堪能する事にした。


「クラウド、そのドレス、似合ってる。誰よりもあんたが一番綺麗だ」
「ああ…あんまり嬉しくはないが…。
ドレスアップして来てくれとセシルに言わせたのは、あんただろ。
どうだ、合格か?」
「あ、ああ。でも…」


スコールは、クラウドの上から下までをもう一度じっと見て言った。


「どうして靴を履いてないんだ?」


クラウドは自分の足元を見て笑い出した。
そうして、訳のわからないままでいるスコールを見て、言う。


「いや。ここに来る途中で会った王子のところで、片方の靴を落として来てしまったんだ。
でも、そこから童話みたいに足が付いたらヤバイから、もう片方も脱いで置いてきた」
「…クラウド。それって?」
「わからないか?」


クラウドは少し頬を赤らめながら、スコールにイタズラっぽく言った。


「簡単に言えば、まぁ…俺の王子はもういるから、他の奴に迎えに来られても困るってことだ」


クラウドは言って、恥ずかしそうにちょっと笑った。
スコールの顔がぱっと輝く。


「メリークリスマス、スコール」
「メリークリスマス、クラウド…愛してる」
「ああ。プレゼントは、んー…とりあえず、タクシー待たせてるから代金払って、どこかで靴を買ってくれ」


スコールは笑って「了解」と言った。







MERRY CHRISTMAS!


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