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Coffee (拍手Log)






キッチンでいれたばかりのコーヒーを、持って行く前にちょっと味見した。


「…っ!」


ちょっと熱過ぎた。舌を少し火傷してしまったみたいだ。
こんな熱いものをよく飲むなと思いながら、自分の分には氷を入れて、もう一度唇を舐めた。

クラウドは根っからの暑がりだ。夏場はいつも気だるそうに見える。
だが、エアコンでキンキンに冷えた部屋で温かいものを飲むのが好きだと言うから、仕方がない。
熱いコーヒーを右手に、冷たい自分の分を左手に持って、零さないように慎重にドアを開けた。


「ク…」


クラウド、と声をかけようとしてドアの間から見えてきたのは、部屋の真ん中に置いてあるテーブルに突っ伏した背中。
その手の下にはノートや教科書が散らばり、テーブルの下のラグには落ちたシャープペンシルが転がってるのが見える。

(勉強するから教えてくれ、って自分から押しかけてきたのに、もう寝てるのか…)

心の中でため息をつきながら、起こさないように静かに入った。
テーブルを占領している腕の所為でコーヒーの置き場もない。
仕方ないから床にマグを置いた。


文系が苦手で、特に古典が駄目だと言ってた彼。
文字を見ると眠くなると言っていたのは本当だったようだ。
これなら授業中寝っぱなしなのも頷ける、と苦笑した。
奔放に見えて実は柔らかな金の髪と彼の腕に隠れて、そのいつもの無表情が見えないのがなぜか寂しい。
そうして、頭の下に引く左手のその爪が、少しギザギザになっていることに気がついた。
クラウドの癖だ。
小さい頃は考え事をすると無意識に爪を齧ってしまう癖があった、と以前どこかで聞いたような気がする。
自分では直ったと思っているが、たまに深く何かを考えているとその癖が出てしまってることに、彼は気付いていない。


「…そんなに難しかったか?」
「……」
「クラウド?」
「……」


ぐっすり眠っている。

(まったく。人の気も知らないでコイツは…!)

つい、そう思ってしまった自分に苦笑を漏らす。

(…知らないのは当たり前だ。
彼には何も言っていないのだから)

ため息をついて、もう一度その動かない手を見つめた。
いつからだろう、この手に触れたいと思うようになったのは。


(起きるかもしれない。
この状態で起きたら、言い訳の仕様もない)

そう思いながらも、自分の手が勝手に伸びてクラウドの細い手に触れる。
ギザギザの爪をそっと指先で辿る。

彼はまだ起きない。
規則正しい寝息はまだ続いている。

触れても起きないのなら、そこにキスをしても起きないだろうか。



――起きるなよ。


さっき火傷した場所にチリッと痛みが走った。
でも熱いのはきっと、火傷の所為じゃない。







時計を見上げると、ちょっと長い休憩時間になってしまっていた。
本当にそろそろ起こさないといけない。
冷めないうちに、このコーヒーを飲ませないと。
そうして、また新しい問題を解かせよう。


「起きろ、クラウド」


考え込んで、思わず爪を噛んでしまうような難しい問題を。






END



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