CONTRAST 3
夢を見た。
自分はいつの間にかベッドに寝ていて、闇の中に、あのポスターのクラウドがたたずんでいた。
暗い窓辺によりかかって。
一人で。
闇に浮かぶ艶やかな瞳の色。
窓の外、遠くを見つめてグラスを持つ手は動かない。
唇は、何かの歌を口ずさんでいるかのようにわずかに動いている。
(クラウド。
そこにいたのか)
なにかが足りない、と思った。
光の筋だ。
あんたの肩に、腕に、その指先に絡みつく、細い銀の光の糸が欠けている。
クラウド、あんた一人じゃ完全じゃない。
彼女が要る…あのコントラストこそ最高だったじゃないか。
ああ、あんたの声だ。
…何かを歌っている?
「……クラウド」
呼んでみて、素直に声が出たのにちょっと驚いた。
無意識に、声は出そうとしても出ないと決め付けていた。
クラウドが気付き、持っていたグラスを窓枠に置いて、黒猫を髣髴させる仕草で音もなく近寄ってきた。
「スコール?」
クラウドの細い指が、スコールの頬に触れる。
ひんやりと気持ちがよかった。
「気分悪いんだろ?
あんた飲みすぎだ」
つっけんどんな口調の裏に、心配してくれているのがわかる。
夢の中なのに、やっぱり彼は優しい。
(夢ならなにを言ってもいいだろうか)
「クラウド…」
「うん?」
伸ばされたスコールの指が、クラウドの腕に食い込む。
クラウドは少し顔をしかめて見せると、ベッドの脇にかがんだ。
「手、痛い。少しゆるめてくれ。
…ひょっとして、あんた妬いてるのか?」
スコールがまじまじとクラウドの顔を見つめているのに気付くと、クラウドは顔を近づけて、そっと彼の頬にキスをした。
(ああ、有り得ない。やっぱり都合のいい夢だ)
スコールは言った。
「俺を、好きか?」
カアッ、とクラウドの白い頬に血が上る。
「な、何を…っ、今さらっ」
「答えてくれ、クラウド」
まっすぐに自分の瞳だけを見つめて真剣に問うスコールから、クラウドは目を逸らせない。
あー、とか、うー、とかブツブツ呟いていたが、やがて。
「…好き、だ…スコール」
照れ隠しのつもりだろうか、なんだか悔しそうにクラウドが言った。
ああよかった、と夢中でクラウドの体を引き寄せながら、スコールはその感触があまりにしっかりしていることに気付いた。
(あれ?なんか
夢にしてはおかしい?)
「あんた、クラウドか?」
目を見張りながら、スコールはつい口を開いた。
きょとんとしていたクラウドの顔が、たちまち憤りに曇る。
「誰のつもりで抱き寄せたんだ、あんた?!」
「うわっ、ちょっと待て!」
すんでの所で飛んできた拳をかわして、目にも止まらぬ早業でクラウドを自分の下に抱きこむ。
と、そのままキスの雨を降らせた。
「ちょっ…待て、スコール。
なんなんだ…わ、ぷ」
くすぐったがってクスクス笑いながら身を捩るクラウドをさらに押さえ込むと、さして嫌がってもいないような抗いを、快く受け流して口づけた。
長い、深い、口づけ。
「ぷは!」
ようやく唇が離れる。
酸欠を起こしかけたクラウドが、紅い顔で抗議した。
「久しぶりなんだ、少しは手加減しろ」
「わかった。久々だから、念入りにな」
「なんなんだ。
今日のあんた、ホントに変だぞ」
「放っておいてくれ。
あんたに置いて行かれて傷心なんだ。
癒しを求めて何が悪い」
ゆるめたスコールの腕をすり抜けてクラウドは立ち上がると、さっき窓際に置いたグラスを取って笑った。
「そんなこと言ってると、プレゼントはお預けだぞ」
「プレゼント?」
「今日だろ。ハッピーバースディ、スコール」
ああ、誕生日なんて、すっかりどこかに吹き飛んでいた。
スコールはベッドから起き上がると、腕を伸ばしてクラウドを引き寄せながら、ささやかな疑問を口にした。
「何かくれるのか?」
「前からあんたが欲しがっていたものだ」
「ああ、じゃ、あんたか」
そんなもの、ずっと前からあんたのものだろう、というクラウドの台詞は、スコールのキスで塞がれてしまう。
そのままクラウドは諦めて目を閉じた。
声にならない抗議の結果、スコールの肩口に赤い筋が三本。
クラウドはベッドの中、眠らずに朝を待った。
ブラインドから漏れてくる光は透明で。
傍らで眠っているスコールの伸びかけの髪は、日に透けて光りを放ち、クラウドの肩に、胸に、と広がっている。
「これじゃいつもと逆だな」
スコールは指を絡めて、クラウドの手を離そうとしない。
確かめて、安心して眠っているのだ。
クラウドはその甲に唇をつけてから、そっと指を外し起き上がった。
「ん……」
スコールが身じろぎしてちょっと呻いた。
が、目は覚まさなかった。
「さて、と。
じゃあ、逆さついでにスコールに朝食でも作ってやるか…」
クラウドは、足をピンと伸ばして立ち上がると、床に散らばっていたスコールのシャツを引っかけた。
「はぁ。昨夜あれだけ張り切ってたから、この分じゃ昼までに起きるかどうか…。
やっぱり無理そうだなァ…」
クラウドはキッチンに立って、コーヒーのフィルターと粉をセットする。
トースターにパンを放り込んで、ほっと息をつくと。
今日、リンダが届けてくれる『物』に思いを巡らせた。
「年代物でプレミア付きのを無理言って譲ってもらったんだ。
パーティーのエスコートぐらいなら、喜んで、だ」
コーヒーメーカーにスイッチを入れて、キッチンカウンターに寄りかかる。
コポコポとお湯の落ちる音が耳に心地よい。
今日も暑くなりそうだ。
「でも、スコール…ひょっとして知らないのかな。
リンダが3人の子持ちだってこと…」
朝日がブラインドで縞模様にけむる中、スコールは夢うつつ。
その日、まだスコールが目覚めないうちに届けられたのは、以前から欲しがっていたハーディ=デイトナ――だった。
END
スコはクラとお出かけしたかったのです。
バイクなら車酔いはないし。ザックスにも張り合ってたり。
時間が許せば、EROも入れたかったです
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