CONTRAST 2
カーテンの隙間から漏れる日差しに目を射られて、クラウドは目を覚ました。
まだ、ボーッとしてまとまらない思考を何とか取り戻そうと、頭を振りながらキッチンへ歩く。
冷蔵庫から水のボトルを出すと、飲みながらまたベッドへと舞い戻った。
両足を放り投げるようにして乱れたシーツの上に腰を下ろすと、ボトルの中身が飛び散ってシーツの上に大きくシミを作った。
「あ…っと…」
(まぁ、水だし大丈夫か。
…あれ、スコールは出かけてるのかな?)
シーツのシミを手でごしごし擦りながら、クラウドは時計を見た。
3時40分。
(12時間も寝たんだ…。とにかくこれで仕事も一段落だ)
深いため息と共にボトルをサイドテーブルに置くと、もう一度ベッドに横になる。
(あー嫌な仕事だった。
まぁ、良かったこともあったからいいが…)
目を閉じてうとうとしかけた時、カチリと鍵の音がして玄関ドアが開き、何かをドサリと置く音がした。
すぐに見慣れたアンバーが顔をのぞかせ、クラウドが起きているのを見つけると、嬉しそうに笑った。
つい、つられる様にクラウドにも笑みが浮かぶ。
「起きてたのか?夜まで寝てるかと思った」
「つい、さっき起きた。買い物だったのか」
ああ、とスコールは楽しそうに頷くと、買い物袋を指差してみせる。
「買い物済ませてきた。用意が出来たら呼ぶから…」
「あ、悪い。俺、これからちょっと用事がある」
「久々だから……えっ??」
クラウドの言った事を理解するのに多少の時間がかかって、まだ信じられないといった顔でスコールの口から出た言葉。
「なぜだ!?クラウドッ!!」
あまりにも予想外の展開だった。
シャワーを浴びて、鏡の前でタキシードに着替えるクラウドを恨めしそうに見ながら、スコールはもう一度同じ単語を口にする。
「クラウド」
「だから、ちょっと用事があるんだ。
すぐ戻る」
「なんで、そんな格好なんだ?」
「パーティーなんだ」
「あんた、パーティーなんて嫌いだろう」
「ああ」
鏡越しに視線を投げ、振り向きもしないで髪を梳かしながらクラウドが答えた。
「三週間ぶりだ。
久しぶりの二人そろってのオフだ」
「すまない。約束なんだ」
「……」
「本当に悪いが、時間がないんだ」
「……嫌だ」
「ああ、あんたの言いたい事はわかってる。
大丈夫、早く帰るから」
「……誰と行くんだ。断れ。
どうせ次の打ち合わせもあるから、なんて言われて、あのハリネズミに誘われただけだろ」
「違う」
「じゃ、あの気障ったらしい英雄か」
「なんであの人が…」
「まさかと思うが、この間チラッと共演しただけの露出狂――」
「あんたなぁ!」
振り向いてスコールに文句を言おうとしたクラウドは、隙を付かれてスコールの唇に文句を塞がれた。
すかさずクラウドの蹴りが入る。
「あんた、俺が男だってこと忘れちゃいないか?」
みぞおちを押さえながらソファーと仲良しになったスコールに、クラウドの一言。
スコールの体が一瞬、ギクリと強張った。
「……ま、さか、例の化粧品のポスター、の…?」
「よくわかったな。リンダ・ホワイトって言うんだ。
かなりの美人だろう?」
「参った。マズイよな、ちょっと…」
クラウドが出て行った後、まだ、ソファーと仲良しのままの格好で、スコールは呟いた。
のろのろと手を伸ばし、クラウドが昨夜放り出していった、丸めたポスターを広げてみる。
あ、の、ポスターだ。
彼が誰と会おうと、よもやそれが巷で言う軽いデートであっても、それはたいした問題じゃなかった…筈だった。
俺が心配性だと思っているクラウドは、誰と会う予定だとかきちんと言ってくれる。
結局は二人とも相手をちゃんと認めていて、お互いが無くてはならない存在だからとわかっていたからだ。
「今回ばかりは……」
自分が嫉妬深いのは自覚していた。
でも、本気で危機を感じたことなんか無かった。
いや、嫉妬というのも当たっていない気がした。
とにかく、限りなく情けなくなってきてしまい、スコールは何かひどく取り残されたような気分だった。
(このポスターが悪いんだ!
あまりにも、いい感じ過ぎて)
憤りとも、なんともつかない感情が込み上げてくる。
グラスにクラッシュアイス、事務所の社長からくすねた高いブランデーの封を切って注ぐ。
スコールは一人で飲み始めた。
この際、未成年だとか何だとかは言ってられない。
とてもじゃないが、飲まずにはいられないのだ。
こんな感情生まれて初めてで、スコールはどうしていいかわからずにもて余していた。
(ひょっとしたらはもう、クラウドは戻ってこないかもしれない…。
そうだ、彼は自由で、俺も自由。
止める権利なんて無いんだよな)
グラスの中身を煽って、また注ぐ。
アルコールでだんだん思考が散乱していく。
(あの美しいプラチナブロンドの『リンダ』だっけ…クラウドは彼女を好きなんだろうか)
(彼女はどうだろう?クラウドを愛してるかもしれない。
そうしたら、俺はどうなるんだ)
(別に俺だって根っからのゲイな訳じゃない。
たまたま彼が男だっただけの話だ。
男でなくちゃ駄目じゃないが…クラウドでなきゃ駄目だ)
何度も何度も同じ思考が繰り返しては消え、また繰り返す。
スコールはいつの間にか、うとうとしていた。
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