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キスのお題 2
★僕らは5回のキスをする
『二度めのキスは衝動的に』







世の中には、知らない方がいいって事が割とある。

けれど、人なんてバカなものだから、知らなかったり教えてもらえなかったりする事を、どんな手段をとっても知ろうとしてしまうものだ。
それは頭が良かろうが良くなかろうが一緒だ。

それが自分の首を絞めることになるのにも、全く気がつかないのだ。
そんなどうしようもない奴が、俺のすぐ身近にも居たりする。






「クラウド、なぜ俺を避ける?」

びっくりした。
いつもお互い喋ってるわけでもなく、コミュニケーションが取れてるとは言い難いのに、俺のごく微妙な避けぶりに気がついていたなんて…。
スコールの観察眼を見くびっていたかもしれない。
その点については、心の中だけで謝っておく。


「なんの話だ?」
「しらばっくれるな」
「だから、何のことだ?
避けてなんていないだろう。
ここのところ、皆で行動しているから、毎日一緒にいるんだし」
「そうだ。だから、最初はアンタが変だって気付かなかった。
次には、忙しすぎて具合でも悪くしたのかと思って心配したんだ」
「それは悪かった。
でも、避けてるなんてあんたの勘違いじゃないか?」
「嘘だ」
「……身に覚えがないな」


腕組みをして首をかしげ、体ごと横を向く。

俺は先日、酔ったこいつの所為で偶発的に『知らなくてもいいこと』を知ってしまった。
知ってしまったら、周囲の奴らの『気遣い』と言う名のお節介にも気がついてしまった。
あいつらは、スコールと二人きりにされた俺に、いったい何を求めているんだろう。

でも、きっとスコールはまだ何も知らない。
だから、あくまでもとぼける事にしよう。
っていうか…こっちは親切心でやってるのに、少しはわかってくれてもいいんじゃないか?
それに俺だって、この先の事を考えると、何もかもを考えずに突き進むには途惑いがありすぎる。
こういうのは初期症状のうちに手を打ったほうがいいんだ。


「クラウド。嘘吐きだな、あんた。
今だって、こうやって話してるのに目も合わせないじゃないか。
それが避けてる態度でなくて何だっていうんだ」


ぎく。
ああ、やっぱりするどいな、微妙に視線を合わせてないのがバレてたなんて。
こんなに喋るスコールって言うのも珍しい。


「この前の…あの酔った日の夜からだ、あんたが俺を避けだしたのは。
俺はそんなに怒らせるくらい、あんたに迷惑をかけたのか?」
「や…」
「俺のことがそんなに鬱陶しいならそう言えばいい。
妙に避けるなんて、あんたらしくもない。
嫌なら徹底的に嫌えばいいだろう!
莫迦か、あんたは!」
「ば、莫迦って…」


どっちがだ!と、思わず顔を上げてスコールを思い切り睨みつけてしまった。


「……やっとこっちを見たな」


そう呟いたスコールは、怒っているとか拗ねているとか言うよりも、なんだかホッとしているように見えた。
さっきは自分から「嫌なら徹底的に嫌えばいい」とか言っていたくせに、その情けない顔は反則だ。


ああ。
そういえばホントに、久々にスコールを直視しているかもしれない。

気持ちが乱れるから、見たくなかった。
今までの関係が崩れるから、見たくなかった。
失いたくないから、見たくなかった。
それは今でも変わらない。

自覚してしまったから。
見つめだしたら止められなくなるから、やっぱり見て居たくない。
なくしたくないから、壊したくないから……
好きだから避けてるんじゃないか!
俺のその必死の努力を知りもしないで、この身勝手な大バカ小僧は!




「……莫迦はどっちだ」

ボソッと。
つい。
口から出てしまった。


「え?」
「莫迦はあんただ、って言ったんだ!
いつもいつも嫌ってほど鈍感なくせに、なんでそんな都合が悪いところだけ気がつく!?
避けなきゃならないから、避けてるに決まってるじゃないか。
見て見ぬ振りくらいしろ、莫迦!」


なんで。
なんで俺が、こんな努力してると思ってるんだ。
なんで俺が、よりにもよって。
同性で、年下で、自分の気持ちにまで疎い、スコールなんかを好きにならなきゃいけなかったんだ。
このまま視線で殺してやりたい位の気持ちになって、スコールを睨みつける。


「……俺は鈍感じゃない」


憮然とした声で言われて、睨み返された。
なんだ、その顔は。
なんだか本格的に腹が立ってきた。


「そんなこと、今はどうでもいいんだ。
そこが論点じゃないんだから!」
「じゃ、どこだって言うんだ!?
あんたがハッキリ言わないからわからないんだろ!」
「ほら、見ろ!そこが鈍感だって言うんだ!
少しは察しろ!!」
「鈍感はどっちだ!
あんたが俺を避けるから、俺がどれだけ傷ついたか!
俺が…俺は…っ」
「それくらい我慢しろ。
被害を必要最小限に止めようとしてる俺の努力だ!」
「被害ってなんだ!?むしろ俺が被っているじゃないか!
俺を無視することの、どこが努力なんだ!?」
「立派な努力だ!」
「なんの努力だ!
そんなくだらない!」


……あああ。なんか本当にムカついた。

なにが『くだらない』だ。
あんたに何がわかるって言うんだ、鈍感スコール!

まだ文句が言い足りないなら、俺だって言うぞ!?
本当に。
本当にあんたを突き落とす一言を、言うからな!?




「うるさい!
あんたが気になるからに決まってるだろう!
バカッ!鈍感ッ!!!」
「気になるってどうい――」


スコールは言いかけて止まり、俺の目の前で口も目を見開いたまま固まった。
俺も、衝動的に言ってしまってから、急激に頭に上っていた血の気が引いて冷静になった。
しまった、と思ったがもう遅い。
フォローのしようもない。
あっという間に、サーッと血の気が引っ込んで自分の顔が真っ青になったのがわかる。

ああ、もう駄目だ・・・。
何もかもお終いだ。

なにか言わなくてはいけない俺の唇は、情けない事に震えたまま声が出ない。

俺の目はただただ、スコールを映すことだけを求めてジッと彼を直視したままだった。


「……ス」
「クラウド」


ようやく絞り出そうとした声は、彼の名を紡ぐ前に本人に遮られた。
腕をぐいと引かれ、勢いがついて身体がぶつかりそうになる。
視点がぼやけるくらい、スコールの綺麗な顔が近い。
声が出ない。唇に温かい感触。

もしかして。
これは。


「!!!」


柔らかく啄ばまれて、あの日の感覚が甦ってくる。
身体が震えて、力が抜ける。
思わずスコールに縋り付いてしまったら、ますます強く抱きこまれた。

唇が離れてからも、スコールの腕が離れることはなかった。












『 二度めのキスは衝動的に 』




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