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87記念日 (2011)







皆から多少離れた木陰で、スコールは一人佇んでいた。
以前はこうして一人で居るのが楽だった。
が、今は――。


「スコール。こんな所にいたのか」
「ああ、悪い。捜したか」
「いや。ちょっといいか?」
「ああ」


クラウドはスコールの隣に座り『あんたに訊きたい事があったんだ』と言った。


「スコール。あんたは俺なんかのどこがよかったんだ?
身体か?」


唐突なクラウドの話題。
スコールは驚き、そのすぐ後で溜息を吐きたくなったが、そこは我慢した。
問いかけてくる当の本人はいたって本気で、それを面白がっていろいろ吹き込んでくる周囲の奴らが問題なのだから。


何だかんだの末、やっとクラウドと所謂『恋人』と呼ばれる関係になって知ったが。
事、色事に関してだけ言うと、クラウドはかなり疎かった。
彼は理由について言葉を濁しているが、どうやら彼の性格と周囲の環境が災いしたらしい。
(まぁ、俺にとっては本当に幸いだった)

つい先日も『あんたはキスが上手いのか?』とクラウドは気真面目な顔で訊いてきた。
話を聞いてみれば、俺とクラウドがこういう関係になったのを嗅ぎ付けたバッツとジタンに、そう訊かれたとか。
何と答えたのかと問えば『わからない』と言ったそうだ。
『嘘のつきようがないから本当のことを言っただけだ。
キスなんて、母さんから頬にされたのと、スコールのしか知らないからわからない』そうだ。
それ以来、わからない事には返事をせずに必ず自分に訊くように、とスコールはクラウドに念を押して言っておいた。
それがよかったようだ。




「今度は誰に何を言われたんだ?
またバッツとジタンか?
それともティーダとか…まさか」
「フリオニールだ」
「え?」
「フリオが、スコールはなんでクラウドと付き合ってるんだろうな、って」


あいつまでがもしかしてクラウドを狙ってるのか?とは口に出せないスコールの心の声。
フリオニールが言いたかったのは、クラウドに言った正反対の事で
『なんでクラウドはスコールなんかと付き合ってるんだ?』だ。
絶対そうだ。

クラウドはいまだに自分が、ストーカーを筆頭にいろいろな奴らに狙われているとは思ったこともない様で、それもスコールの頭痛の種になっている。
多少の自覚はして欲しい。
でも、わざわざクラウドにそれを教えてライバルを増やそうとも思わない。
が、ここらでいいかげん邪魔な奴らを葬ってしまおうか、とスコールは眉間の皺を深くしてそう思う。……意外と本気のようだ。


「スコール。なぁ。
俺のどこがよくてあんたは…」


ちょっと考えに浸ってしまったスコールを、自分のどこが気に入ってるかを考えていると思ったクラウドは、急かすように下から覗きこんだ。
ハッとしてスコールは思わず鼻を押さえる。
大丈夫だ、まだ鼻血は出てない…。
上目遣いで首をかしげる様子は、手を出すな!と言う方が無理なくらい可愛いと思う。
スコールは理性が飛びそうになって、慌てて咄嗟に目を閉じてしまった。


「スコール?」


こらえようとしたのに、自分を呼ぶクラウドの柔らかな声音が理性を飛ばしてしまうのを感じた。
いけないいけない、今日はすぐ傍に皆も居るんだ…。
ゆっくりと目を開けて、覗きこんでいるクラウドの澄んだ瞳を見た。
心なしかいつもの無表情ではなく、期待に満ちて輝いてる気がする。

くらっときた。


「今、キスしてもいいか?」


返事も待たずにスコールはクラウドを引き寄せ、唇をふさいだ。
クラウドが焦って離れようと手を突っぱねるのも構わずに抱きしめ、それでも幾らかの残った理性をかき集めて、触れるだけのキスだ。
何度も繰り返して…。
髪に、額に、瞼に、頬に…そしてまた唇に…と。
何度でも繰り返されるキスに、上気してほんのりと頬を紅く染めたクラウドの潤んだ瞳がスコールを見つめた。
ちょっとすねた様に唇を尖らせて言う。


「ず、るい…誤魔化す気か?」
「ち、ちがう。あんたがあんまり可愛かったか――」


ゲシ。
入った。(どこに?)
これは痛い。


「っつーーーっ…!」
「可愛くなんかない」
「……わ、悪かった…ッ」


禁句だった。
でも、そんな顔されると余計に困る。
実際、耳を紅くして怒った顔しても、そんなの可愛いだけなんだから仕方ないじゃないか。
と、スコールは思ったが、流石にこれ以上口には出さなかった。
そして急いで、拗ねてそっぽを向くクラウドの目を覗きこんでささやいた。


「俺があんたのどこがいいと思ってるか、わからないか?」
「どうせ身体なんだろう」
「それは誰に吹き込まれたんだ?
フリオニールじゃないだろ」
「………」
「ティーダあたりか、アイツめ…じゃなくて。
クラウド。
そうだ、当ててみてくれ」
「え?」
「俺は、あんたの、どこが好きだと思う?」
「う……す、好きって…」
「当ててくれ」
「……わかった。
…じゃ無難なところで、目、とか?」


俺はこの目は好きじゃないが、と呟くクラウドをスルーして、スコールはゆっくりとクラウドの瞼に唇を落とした。
くすぐったがってクラウドが身じろぐのを押さえて、わざとチュと音を立てた。


「そこも好きだけどな。
…他にはどこだと思う?」


クラウドはちょっと考えていた。
どうやら俺の意図は解ったようで、俺を見て悪戯っぽくニッと笑う。


「…ここ?」


自分の頬を指差す。
スコールはクラウドの頬に唇を寄せ、そっと触れた。
クラウドはくすぐったがって、ふふっと笑いを洩らした。
触れた頬の柔らかさと体温と…自分の腕の中で笑うクラウドに、スコールは自分もくすぐったさを感じた。
スコールはなおも訊く。


「どこだ?」
「う〜…ええと。……ここ?」


クラウドはしばらく考えていたが、どこにしても恥ずかしくなっていく事に気付いたらしく、グローブを外した自分の左手を指差した。
なんか当初の目的から外れていくようだ、とスコールは思いながら、クラウドの左手をとって手の甲に口づけた。
それから、急に悪戯を思いついたように手の甲をペロと舐めた。


「ひゃっ!」


ビックリしたクラウドが手を引こうとするのを押しとどめて、スコールはさらに指の間に舌を這わせ、薬指の先を軽く口に含む。


「ちょっ、やめろ…っスコール!」


クラウドは真っ赤になって手を引こうとするが、スコールが手首を押さえたままなので動かす事ができない。
なおもスコールは手の甲から薬指にキスを落とし、舌を這わせて指に軽く歯を立てた。


「あ…ちょっ。やめ…っ!
離せってば!」


クラウドは感じてしまったらしく、つい洩らしてしまった声が恥ずかしくて、真っ赤になってスコールを睨みつけた。
スコールは薬指に唇をつけたままで、嬉しそうに笑った。
一瞬、クラウドは毒気を抜かれて次の文句が出てこなかった。


「左手の薬指って、心臓に一番近い指だって知ってるか?」
「…あ、ああ…」
「だから結婚するときに此処に誓いの指輪をするんだ。
俺の心臓(こころ)はあんたに縛られてます。
その証しです。…みたいに」
「そう、か…」
「でも、クラウド」


やっぱり彼には、全部言わないとわからないだろうか。
もうちょっと察して欲しいんだが…とスコールは心の中でため息を吐いた。
こういう話題でなければ、良かれ悪しかれあんなに頭が働くのに。
まぁ、真っ白な彼を俺の色に染めていけると思えば、それはそれで嬉しいが。


「指輪なんかなくても、俺はもう囚われ縛られている。
とっくの昔、あんたに逢った日からだ」
「ス…コール…」
「俺があんたのどこを好きかわかっただろ?」
「…スコール」


真剣さを潜めた瞳でスコールはそう言うと、クラウドを胸に抱き込んでハァと息を吐いた。
随分と喋り過ぎてしまった気がする。
顔が熱い、とスコールは思った。


「スコール?」
「あー……しばらく、このままで」
「スコール?」
「…あんたに顔を見られたくないんだ」
「俺は、見たい」
「…多分、今のあんたと同じ顔だ」
「…そうか。余計見たいな」
「勘弁してくれ」


クラウドは紅くなってしまった頬をゴシゴシと手の甲で擦ると、強くなった腕の力に逆らわず、大人しくスコールの身体に寄りかかって。
クスリ、と微笑った。







おしまい



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あきゅろす。
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