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クラ誕 2011
(高校生×社会人)







誕生日に何が欲しいかと、彼がスコールに訊かれたのは四日ほど前の事だった。
久々の休みの日曜、会って食事をして抱きあって、駅の雑踏でもう別れるという寸前に問われたそれ。
クラウドの返事はあっさりしたものだった。


「なにって…別に」
「何もないのか?」
「ああ、特に思いつかないが」


いやにあっさりと返された彼の答えを聞いて、そういえばクラウドにはあまり物欲というものが無かったんだとスコールは思った。
多分、学生の自分に金銭的遠慮とか、年下の自分に負い目があるように年上としての負い目とか、そういうものも入っているのだろう。
でも、それはそれとして、誕生日くらいは何かを贈りたいと思う。
その為にバイトを入れたりして金銭的余裕はできたのだが、いざプレゼントについて考えると、スコールにはどうにも名案が浮かばない。


「何か、無いのか?」


いつもと違うスコールの困ったような声に、クラウドは口元に手をやって考えた。
それから何か思い出したように微笑んで、少しスコールの傍に寄り、小さな声で悪戯っぽく言った。


「じゃ、あんたの気持ちを言葉にして、俺にくれればいい」


『約束な』クラウドはスコールにそう告げて、すれ違いざまに手の甲でポンと彼の肩をたたき、駅の改札を抜け去ってゆく。
そのクラウドにつられて思わず手を上げながらも、スコールは告げられた言葉の意味を考えていた。

スコールは、周囲が呆れるほどクラウドが好きだ。ベタ惚れだ。
だが、思い返してみれば付き合って欲しいと告白した時以来、一度もその気持ちを言葉にはしていないことに気がついた。
傍に居れば自ずと伝わると、互いに伝わっていると思っていた。
必要以上に喋らない自分たちが、圧倒的に言葉足らずなのは彼に言われるまでもなくわかっている。
と同時に、果たして今まで伝えてきたつもりになっていた自分の気持ちは、本当に彼に伝わっていたのだろうかと、そんな不安までが頭を擡げた。







数日後の誕生日当日、ケーキと料理が用意されたスコールの部屋に、夜になって会社帰りのクラウドはやってきた。
彼は明日から夏休みだが、下手をすれば休日出勤もあると言っていた。


「悪い。遅くなったな」
「おかえり。大丈夫だったのか?」


いつもより心なしか大き目のバッグを持った彼は、玄関まで出迎えてくれたスコールに、少し照れたような顔で頷いた。


「携帯、休み明けまで電源入れないから大丈夫だ」
「そうか。お疲れ…」
「俺はいいけど、あんたは」


なんだかこの数日で、クラウドに対する今までの自分を色々考えすぎて、スコールの口調はやや固めだった。
が、クラウドは気にする風もなくバッグをスコールに渡して奥に入って行った。


「先にシャワー使ってくれ。用意するから」
「ありがとう」


それから、クラウドがシャワーを浴びている間にスコールは夕食の仕上げをした。
そこにはいつもの二人の日常があるが、テーブルの上に並んでいるものは、スコールにとっての一大イベントなのでいつもよりも手が込んでいる。
スコールは、いつにない緊張感を持っていた。
でも、シャワーから出て来たクラウドは、普段と変わらないように見えた。


「お待たせ。さっぱりした」
「ああ」


クラウドが席につくのもそこそこに、スコールはテーブルに置かれたボックスからホールケーキを取り出す。


「へー。随分おおきいの買ったんだな」
「店員さんにろうそくが全部立つヤツを、って言ったらこれになった」


つき合い始めてから二度目の誕生日、だけれどこうやってバースデーケーキを囲むのは初めてだった。
去年の誕生日は、お互いの誕生日を知らずに夏が終わってしまった。
それに比べたら、今年はなんて幸せなんだろうとスコールは思う。
ふたりでろうそくを分け合ってさしていき、そこに炎を点す。
部屋の灯りを落とすと、揺らめくオレンジの炎の色がぼんやりと辺りを照らした。


「こういうのって何年ぶりかな。
なんか…照れくさい」


そう言って嬉しそうに微笑むクラウドを、ろうそくの炎越しに、優しい笑顔が見つめていた。
柔らかな光の中で、少しの間、互いに無言で見詰め合う。


「クラウド?」
「あ、うん……なんか、火、消したくなくて」
「何故?」
「火が消えて、あんたの顔が見えなくなるのが…ちょっと」


少し戸惑うようなクラウドの表情。
こんな時、この人は迷子の子供のような顔をする。
とてもじゃないが年上に見えないその表情を、スコールは密かに気に入っている。
スコールはそっと手を伸ばして、テーブルに置かれたクラウドの手に重ねた。


「大丈夫だ。
火が消えても、あんた一人じゃない」


テーブル越しに、ケーキを挟んで手を繋ぐ。
クラウドがちょっと笑った。
そんな事をして、火を吹き消した。


「誕生日おめでとう、クラウド」


暗闇に声が響き、そして、クラウドの身体がふわっと宙に浮く。


「な、なに!?スコール!?」


驚くクラウドには構わずに、スコールは暗闇の中で彼を抱えて慣れた室内を奥へと進む。
スコールがどういうつもりなのかはすぐに判って『ちょっと待てケーキが!』とか『腹が減ってるんだ!』とか、一応口にはするが、言いながらもクラウドは半ば諦めていた。
そのまま寝室へのドアをくぐり、ふたりしてベッドに倒れこむ。


「スコール!」
「なんだ?」
「なんか、忘れてるだろ」


そう言って、スコールを押し止めようとするクラウドには構わずに、スコールはその身体を抱きしめる。


「プレゼントだろ。
俺がどれだけあんたを好きか、言わなくても判ってる筈だ」


カーテンを通して薄く月灯りが射す部屋の中で、スコールの指先が肌をなぞり、クラウドの耳元で熱い掠れた声が囁く。


「…っああ、知ってる。
あんたが俺にベタ惚れなのも、俺以外は全然目に入ってない事も、
全部、知ってる…っ」
「クラウド」


確かにそうだ、と反論もしないスコールに、クラウドが言葉を重ねる。


「でも『好きだ』ってあんたの声で、あんたに言われるのが、俺はすごく嬉しい。
幸せな気持ちになるんだ……わかるか?」


そう言って両手でスコールの頭を引き寄せ、小さな声で『好きだ』と彼の耳元で囁くクラウド。
な?と、言ってふわりと微笑む。


「わかった」
「うん」
「……好きだ、クラウド。
あんたを、愛してる」


初めて『愛してる』と言った。
これからは言葉を惜しまずに、あんたを愛おしいと思う気持ちを、もっともっと口にしよう。


「生まれてきてくれて、本当にありがとう」


囁かれて、クラウドの白磁の顔がみるみる朱に染まってゆくのを、スコールの蕩ける様な優しい笑顔が見つめ続けていた。









クラウド、お誕生日おめでとう!
本当はもっと話を膨らませるはずだったんですが、タイムリミットで短めです。ゴメン。
でも、愛はいーーっぱい込めてv

Happy Birthday to Cloud!



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