Jealousy Storm
「なんだかこの頃楽しそうだな、あんた」
久しぶりに、制服姿のスコールに会った。
大学の校門の所で帰りに待ち伏せしていた彼は、開口一番いきなりそう言った。
「え、そうか?」
答えながらも俺は首を捻った。何のことだかわからなかったからだ。
そんな俺にスコールが、余計に眉を顰める。
スコールとは幼馴染だ。
俺が小学生の時、幼稚園児だったスコールが隣家に引越してきて、初対面でいきなりプロポーズされたという逸話付きの。
すくすくと、羨ましいを通り越して妬ましい位に成長したスコールは、ご近所でも有名なイケメンだ。
惜しむらくは、その仏頂面だろう。
「あんた。俺と会っていても集中力はないし、四六時中、心ここにあらずって感じだろ」
「え、そうか?」
「彼女でもできたのか?」
その質問にちょっとギクッとした。
クラウド?ともう一度促されてようやく答えた。
「彼女じゃなくって…まぁ、友達だ」
「どんな娘だ?」
「えっと、同じ大学…」
「美人?」
「美人って言うより可愛い感じ…?
その辺よくわからないが」
「俺はわかってる。
…あんた、無意識の面食いだからな」
「ははっ。なんだ、それ?」
夏休み前のこの時期、違う学部の女子から告白された。
一応お断りをしたのだが『友達として、お試し期間でいいから』と押し切られ、彼女と呼べない付き合いを始めてからまだ1週間と経っていなかった。
スコールはどこから知ったんだろう?
「そんな大事なこと、何故今まで俺に黙ってた?」
あ、眉間の皺が深くなってる。
幼馴染のスコールに、なにも報告しなかったことを怒っているのか?
「悪かった。
でも、付き合ってるわけじゃないんだ。
ただの友達でいい、って彼女からも言われたし」
務めて、何でもなく言う。
「じゃ、俺、これから用事があるんで。
またな、スコール」
手を振って行きかけた俺の腕を、スコールが掴んだ。
「な、何だ?」
強い力に驚いて振り向くと、真剣な目で睨んでくるスコールのドアップ。
なまじ整った造りだから、かなり怖い。
「俺も行く」
「えっ」
「デートなんだろう?」
「ち、違う!
テスト前だから一緒に図書館に行こうって…」
「デートじゃないならいいだろう?
行こう」
絶句した俺を引きずって、そのままスコールが歩き出した。
「ス、スコールっ!
また今度じゃダメか?」
明らかに『怒ってるオーラ』を振りまきながら歩くスコール。
引きずられながら歩く俺を、すれ違う人が振り返って行く。
ああ、恥ずかしい。
「急にあんたが行ったら相手が驚くだろう?
説明しておくからまた今度に…」
そう上目遣いに見上げた俺を、彼はじろりと睨んだ。
「なんだ、俺に会わせられないような娘なのか?」
え?なんでそんな言い方されなくちゃならないんだ?
その口調に少しむっとしながらも、俺は何とかスコールを止めようとしていた。
会わせるにしても、まず、こいつの事を説明しなくてはならない。
まあ普通に『幼馴染』と言えばいいだけの話なんだが、この調子だとスコールの方がややこしくしそうだし。
「なぁ、スコール。
何でついて来たがるんだ?」
「俺を差し置いて、あんたに手を出すやつの顔を見たいんだ」
はぁ?
何だ、その「差し置いて」とか「手を出す」って?
わけがわからないスコールの言葉に返事を返せなかった。
そのとき。
「クラウド」
鈴の転がるような声で呼ばれ、彼女が俺たちの方に駈け寄ってきた。
「どうしたんだ、クラウド」
項垂れたままの俺にスコールが問い掛ける。
「…うるさい」
最低な気分だ。
俺を見て嬉しそうに走り寄った彼女は、スコールに気づき、そのまま固まった。
普段の仏頂面はなんなんだ?というくらい見事なまでの笑顔と一緒に、勝手に自己紹介を始めたスコールから一秒たりとも視線を逸らさず、彼女は真っ赤な顔をしていた。
うっとりと見惚れる彼女を、スコールは勝手に適当にあしらって図書館行きを断ると。
事もあろうに『クラウドは俺のものだから手を出すな』なんて言いながら、俺の腰に手を回して。
彼女の目の前でキスされた。
あまりのショックでろくに口も利けなかった俺を引っぱって、スコールは家まで連れて帰ってきた。
なにも言わずに部屋にまで上がりこんだ。
「なかなか可愛い子だったが、まぁ、俺のクラウドの可愛さにはまったく敵わないな」
なんだ、こいつ。
「俺のクラウド」ってなんなんだ?
なんでこんなに楽しそうなんだろう。
俺の、明日からの学生生活を真っ暗闇にしておいて、なんで上機嫌なんだろう。
もしかしてすっごく嫌な奴になってしまったのかも。
「帰れよ。
もう、絶交だ」
顔も上げずに言う。
「何故だ、クラウド?」
いきなり言い出した俺に、慌てる風でもなくスコールが訊く。
「一緒にいたくない」
「俺は居たい。できればずっと」
「嫌だ。もう出てけ。
あんな悪ふざけしやがって、明日からどんな顔して学校に行ったらいいと思ってるんだ?」
ちょっとだけ顔を上げて睨みつけ、きっぱり言ってやった俺の肩に、スコールの手が回される。
「悪ふざけって、キスのことか?」
「…キ…っ…、知るかっ!」
覗きこまれるようにして言われたが、顔が真っ赤になるのを感じてそっぽを向いた。
「悪ふざけじゃない。
確かに、邪魔はしたかもしれないが」
…やっぱり、絶交だ。
意地悪スコール。
小さい頃はこんなヤツじゃなかったのに…。
そんなことを思っているのも知らないで、スコールはグイと俺を引き寄せた。
「クラウドは俺のものだから、誰にも渡さないって決めてるんだ」
「はあ?」
何だ、それ。
そんなの初めて聞いた。
「俺のものって何なんだ?」
こいつ、モテすぎて頭のネジが飛んでんじゃないのか?
肩に回された手に力を入れたスコールが、顔を上げてまじまじと見た俺に笑いかける。
「クラウドに手出ししようと思ったら、まず俺がライバルになるってことだ」
「ふざけるな。
真面目に話してるのにッ」
「本気だ。本気で好きなんだ」
「俺を困らせるのが?」
「まさか」
「……」
「はぁ…。話が全く通じてないな。
俺はクラウドを愛している、って言ってるんだ」
その、そこらの女よりもきれいな顔で微笑まれて、俺は絶望を感じていた。
こいつが言ってることが冗談であろうが本気であろうが、この先には厄介事しか待っていないのが確定しただけだ。
俺はがっくりと肩を落としながらも、何故か自分の心臓がドキドキと早くなるのを感じた。
そんな俺の耳にスコールが囁く。
「大丈夫だ。
クラウドは俺がちゃんと幸せにする」
「……俺はもう十分幸せだから、もう二度と来るな」
「それは俺がいるから幸せなんだろ?」
照れなくていい、なんて的外れな事を言うスコール。
「…るさい」
その横で、やっぱり赤くなってしまう顔を隠すために、俺は一生懸命に俯いて抱えた膝の間に顔を押し付けていた。
END
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