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キスのお題 1
★僕らは5回のキスをする
『一度めのキスは半ば事故』







「ほら、スコール。歩けるか?」
「…だいじょ、だ…」


酔っ払いの大丈夫ほど当てにならないものはない、とクラウドは思った。
まぁ、未成年に飲ませてしまったのだから、仕方がないことなのだけれど。






クラウドがこの世界に来て、体感で半年あまりは経ったように思う。
その間、皆の記憶が定かでないのも手伝って、仲間同士で親しくなるというにも時間がかかった。
(勿論、例外はいるが)

スコールとは、お互いに無口なことも手伝って、あまり話したことがなかった。
あちこちで行きあっても、別に自分の事を特別に気にかけている風もなく、かと言って無視して置かれる訳でもなく…。
気が付けばバッツやジタンと共に話の輪に加わったり、何となく係わってきていたように思う。

そうして、気がつけばなぜかスコールは自分の傍にいることが増えて。
その彼を、いつものように『興味ない』とばかりに突っぱねない自分がいる。
居なければ居ないでいいのに、近くに居ればいつの間にか目で追ったりしている。

なんだか、おかしい。
スコールと係わると調子が狂うような…。




そんなある日。
今日は久々に皆が集まり、珍しく気分転換の名目で酒を飲むことになった。
自分は多分、ウォーリアに次いで年長でとっくに成人している。
が、まだ仲間の中には未成年者も多い。
飲めるのは、バッツ、セシル、フリオ、それにウォーリアと俺くらいらしい。
そうして、皆の年齢を改めて知る事になった。
若年層が多いのもさることながら、スコールの年齢をそこで初めて知って驚いた。
本人は、
『まだ若かったんだ!』
とか
『そうか、そうか、苦労したんだなァ』
などと周囲に言われ、かなり気分を害していたようだ。


飲み始めてしばらくは良かった。
そのうちに、ウォーリアに見つからないように飲む未成年者と、飲ませる悪い大人が出始めた。
俺ももう少し気を遣ってればよかったのだ。
でも、久々に飲む酒は美味くて、ついつい近くにいたセシルとティナとルーネスを相手にのんびり話していた。
そのうちに、かなり時間が過ぎてしまった。



「なーなー!飲み比べしよ〜ぜぇ〜!」
「他のヤツを誘え」
「だって、他なんていねーもん」


酒ビンを持って笑う、悪い大人の見本であるバッツの言葉に、ようやっと周囲を見回した。
気が付けば死屍累々――酔い潰れた奴らが転がっている。
ウォーリアは開始早々、よって集って潰されたようで、だからこの惨状なのだろう。


「あら!」
「気がつかなかった」
「うわー酷いね、これは」
「だろだろ!
酷いよな〜、俺一人を残して寝ちまうなんて。
最初にウォルが潰れたのはよかったんだけど、その後すぐ野ばらたちも撃沈しちまったんだよ。
だからさ、クラウドとセシル、飲もうぜ〜!」


飲み比べしよ〜よ〜、と上機嫌で笑うバッツを見て、セシルがハァと溜息を吐いた。


「僕たちが潰れたら、誰がここを収拾するんだい?」
「んなん、転がしておけばいいじゃん!
大丈夫、大丈夫」
「バカバッツ!適当な事言わないでよね」
「このままで、風邪ひいちゃったら大変よね」
「……そろそろお開きだな」

クラウドの言葉を潮に、片付けは明日の朝でいいよね、とセシルが立ち上がった。
異を唱えてブーイングをするバッツを、セシルが(コワイ)笑顔で促して、各々を起こしてテントまで運ぶ事になった。


「ウォルは僕が連れて行くから、バッツはフリオを頼むよ。
ティナとオニオンはジタンとティーダを起こしてみて。
起きなければ、後で僕が運ぶから」
「クラウドは、スコール任せたぜッ!」


バッツはそう言うと、さっさとフリオニールを揺り起こしだした。
ティナがジタンに声をかけようとすると、ルーネスが彼をガンと蹴っ飛ばし、イテー何すんだ!と声がした。
クラウドは、さてスコールはどこだ…と見回した。
そして、焚き火から少し離れた木の下に蹲る彼を見つけた。


「スコール、スコール?」


……返事がない。
ただの屍のようだ。
屍なら本当は放っておくに限るのだが、任されてしまったからそう言うわけにもいかない。


「スコール、ほら。
テントで寝よう。な?」
「……ん…」
「起きろ。大丈夫か?」
「……ん…」
「立てるか?」
「……ん…」


動かない。
返事だけでやっぱり屍だった。
完全に潰れているなら背負ってもいいが、途中で起きて暴れられると厄介だ。
仕方なく、酔いと眠気でふらつくスコールに肩を貸し、引きずるように歩かせてテントに戻ることにした。


「スコール寝るなよ?
さっさと歩け。さすがに重い」
「…あ……クラ、ド…?」
「そうだ。大丈夫か?」
「……クラウド…」
「もう少しだから」
「…ん…クラ…ド…」
「すぐそこだ。がんばれ」


声をかけながらだと、意外とスコールはすんなり歩いてくれた。
名前を呼ばれ続けるのにはいささか参ったが。
肩を貸しながら、いやに長く思えるテントまでの距離を歩いて、ようやっと引きずってテントに引っ張り込んだ。
途端にスコールは崩れそうになる。
それを支えようとした俺は、一緒になってよろめいてしまった。


「スコール、しっかりしろ!
あと2歩歩け――うわっ!」


俺はスコールを敷いてある毛布に転がそうとした。
が、スコールが俺の肩にかけた手を離さなかったので、結果、スコールの上に俺が圧し掛かる形で、二人でそこに倒れこんでしまった。


「…ん……クラ、ド…?」


その勢いで、半分眠っていたと見えたスコールがうすく目をあけた。


「ああ、すまない。
流石に痛かったよな?
今退くから…」


慌てる俺の腰に、なにを思ったかスコールの手がスルリと伸びて、俺が動こうとするのを押さえた。
そのままクルリと体勢を入れ替えるようにして俺を毛布に押し付け、抱き込んでくる。


「ちょ、スコールっ!
しっかりしろ。
あんた、誰かと間違えてるだろう!?」


抱きしめてくる腕を力いっぱい押し返しながら、俺は叫んだ。
それには答えずに、スコールは顔を近づけてきた。


「ちょ、っ!
なに、ス――…んんっ…!」


スコールを何とかして正気づかせようと叫びかけた俺の唇は、彼のそれに塞がれてしまった。
ためらいもなく舌がスルッと滑り込んでくる。
あまりの驚きに固まってしまった俺の縮こまっている舌に、熱いそれは絡み付いてきた。
そのまま優しく吸われる。
舌の熱さに俺の頭の芯がじんじんして、ぼうっとなりそうになった。


「ふ……、んぐーー…っ!」


ハッと気がついて、俺は腕を思いっきり突っ張ってスコールを押し返した。


「なに、するっ…!」


一旦離れたスコールの唇は、また俺の様子をうかがうように軽く合わされてから、舌先でペロと唇を舐めてきた。
ゾクッとしたものが背筋を駆け上がって、ヒュッと息を呑み込んだ。
そのまま俺は動けなくなった。
またスコールの舌が入ってくる。
俺はそれを必死に押し返した。


「…ん、ふぅっ……」


スコールに上顎の裏を舌先でなぞられて、思わず鼻にかかったような甘い声が漏れてしまう。
そんな自分に混乱しながらも、不思議と嫌悪感を感じてはいないことに、俺はまだ気づいてなかった。

舌が口腔を隅々まで犯す。
唾液のクチュクチュ言う音がテントの中に響いて、唇の端からつうっと零れ落ちる。
恥ずかしさと混乱で頭の中が真っ白になる。


「…ん…んぅ…っ」


押し返していた腕からだんだんと力が抜ける。
痺れるような甘い感覚が、俺の身体を這い上がった。
無意識に手が掴まるものを探して、スコールのシャツの端を掴んだ時、彼の舌がするっと引かれた。

え…?
と、思った途端に、俺の上に彼の体重がずしりと圧し掛かった。


「…スコ、ル…?」
「……すー……」


呼んでもスコールは身動き一つしない。
どうやら眠ってしまったらしい。
俺はそのまま思いっきり脱力した。


「っくそ、重い!
ふん、んーーっ!」


俺はジタバタしながらスコールを押しのけて、ようやっと下から抜け出した。


「はぁーー…なんなんだ、もう」


スコールはもう、すーすーと寝息をたててグッスリと眠り込んでいる。
どうせ明日の朝になったら、何も覚えてもいないんだろう。
そう考えて綺麗な寝顔を見ていたら、思わずムカムカして、俺は彼の頭をグーで思いっきりボカッと殴った。

あまりのことに気力も何もなくなって、そのままテントをフラフラと出て行った。







翌朝。
結局、一晩中ふらふらして寝ないまま朝を迎えた。
目を閉じるとスコールの唇の感触がよみがえって来てしまう。
訳もわからず、ドキドキしてきてしまう。
そんな自分が変で、でもスコールは何も知らないで寝てるんだろうと思うと、なんだか腹も立った。
そんなこんなで眠る気にもなれず、その日は寝不足のままいつもの木の下に座っていた。



「やっぱり、ここか」


昼過ぎ、思ったよりも早くスコールが起きだしてきた。
俺を探してたような口調で、姿を見つけて傍に寄ってきた。
俺はちょっと頬に血が上ってきそうに感じて、そっぽを向きながら、なにか用か、と素っ気無く言った。


「あんたに世話をかけたって聞いたんだ。
すまなかった」
「いや…」


スコールの視線を横顔に受けながら答える。
視線を外したままスコールに言った。


「大丈夫なのか?
飲みすぎだったろう」
「ああ。その…二日酔いでちょっと…」


バツが悪そうな顔をしてスコールが隣に座った。
早く行ってくれ、と思っていたのに、去る気はないようだ。
スコールは、しばらくしてから歯切れ悪く話しだした。


「それと、あの…」
「うん?」
「訊きたいことが…」
「ああ」
「実は、頭の上の所だけ痛いんだ。
どうやら、コブが出来てるようで…。
俺は、酔って転んだのか?」


まさか、自分が殴ったからだとも言えず、俺は『さぁ?』とだけ言った。
やっぱり何も覚えていなさそうだ。
スコールは話を続けた。


「あと…昨夜、俺はどんな感じだったんだ?
その…フリオが潰れて、ジタンとバッツが騒いでたあたりまでは覚えてるんだが。
どうも、途中から記憶が……」


悪い、とまたスコールが言った。


「いや。俺は離れた所にいたから、あんたたちの事は直接見ていない。
あんたが眠っていたから、起こしてテントまで連れ帰っただけだ。
足元が危なかったんでな」
「そうか。すまなかった。
…なんていうか、何も覚えてないのが…。
他になにか迷惑かけてなかったか?」


ああ、本当にアレを覚えていないんだ、と思った。


「いや、酔ってたんだから仕方ない――」


そう言いかけて、何故だかわからないけれど、俺はまた胸がムカムカしてきた。


「それにしてもスコール。
あんたってキス魔だったのか。
ちっとも知らなかった」
「え? え??
ええええーーーッ!!?
なんだ、それはっ!?」


普段の不機嫌そうなポーカーフェイスは何処へやら。
俺は、驚いて目を丸くしてるスコールの顔を見て、ちょっとスッキリした。


「ほっ、本当か!?
ちょ…っ、クラウド、あのっ…」


誰と?とか、どこで?とか言って、慌てまくってるスコール。
それを尻目に、俺はさっさと立ち上がり服を軽く払った。


「戻るぞ」


返事を待たずに背を向けた。
背中に俺を呼ぶスコールの焦った声を聞きながら、ちょっとだけ頬の筋肉が緩んだ。







『一度めのキスは半ば事故』



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