Run a fever (拍手log)
(学生×会社員)
朝、目が覚めた。
隣を見るとクラウドがいない。
いつも寝坊な彼なのに珍しいこともあるものだ、と時計を見て驚いた。
もう、10時だ。
まずい、いくら休みだからって寝過ごした。
ベッドから降りると、少し足元がふわふわした。
キッチンにクラウドはいた。
シンクに寄りかかってコーヒーを飲んでいる。
窓から射し込んだ光にクラウドの髪が輝いて見える。
口元に薄っすらと浮かんだ笑み、そして吸い込まれそうな蒼の瞳。
毎日のことなのに、しばしスコールは見とれてしまっていた。
「おはよう。今朝はよく寝てたな」
「…はよう。起こしてくれれば…」
「あれ?…あんた、声」
喋るとちょっと咽喉に絡まるカンジがする。
なんだかクラウドの声が遠くに聞こえた。
何だこれは。
「スコール?」
おかしい。
ちょっと身体が軋む感じだ。
これだけ寝たのに疲れが抜けてないのか?
「ちょっとゴメン」
目の前に移動してきたクラウドの手が伸びてきて、俺の額に触れた。
彼は体温が低いので、ひんやりと冷たくて気持ちが良い。
クラウドが俺の顔を見ながら頷いた。
「やっぱり熱があるな。
風邪か」
「熱?俺は風邪なんて何年もひいたことないって言ったが」
「はいはい。自分が風邪ひいたって信じたくないのはわかるよ。
でも、事実なんだから仕方がないだろ。
間違いなく熱がある。
ベッドに戻れ、スコール」
「いや、なんにしろ大したことはない。
朝飯を食ったら出掛けるぞ」
「え?どこに?」
「どこ、って買物に行くんだろう」
昨日、服が見たいって言ってたじゃないか。
セールが今週までだって。
あと、新しく見つけたシルバーアクセの店に連れて行くって約束してただろう。
「なにを言ってる。いいからさっさと寝ろ」
「なにを、ってあんたが――」
「ダメだ、スコール」
言葉を遮られてまで否定されてしまった。
クラウドは、怒るというよりも困ったような顔をしている。
仕方がない。
彼を困らせたい訳じゃないんだから。
「……なら一人で行ってくるといい。
あんた、久しぶりの休みだし、楽しみにしてたんだろ」
そう言ったら、クラウドがちょっと変な顔をした。
ハァと溜息をひとつ。
そうして、俺の額をぺちんと叩いた。
何か変な事を言っただろうか。
訳がわからないと顔に出たのだろう、彼は俺の額にかかる髪を指先でチョイチョイと撫でた。
「久しぶりに、あんたと出かけるから楽しみにしてたんだ。
…一緒じゃないなら、また今度でいい」
なんだかぶっきらぼうな早口でそう言われた。
クラウドのほんのり紅くなった頬を見て、なんだそういうことか、と納得してから。
すごく嬉しい事を言ってもらった気がして、一気に俺の顔が熱くなってきた。
「…そうか。すまない。考えなしだった」
「分かれば宜しい。
ハイ、さっさとベッドに移動!」
クラウドが俺の背中を押してベッドへ追い立てる。
やっぱり彼の手は心地良くて、この人が傍に居れば風邪なんて直ぐ治るんだろうと思った。
それからクラウドは甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれている。
体温計で熱を測って、額に冷えピタを張り付けて。
コンビニまで走って、薬だ、水だ、スポーツ飲料だ、お粥だ、と動き回っている。
…なんか、嫁さんみたいだ。
「……クラウド」
「何だ? 水なら今持ってくる」
「あんた、嫁に来るか?」
一瞬絶句した後。
「よ、嫁はアンタの方だろ。
俺は料理もできないし…。
養ってやろうか、スコール」
「夜だけ立場を逆転するなら――」
それもいい、と笑ったら。
「あんた、熱で頭沸いてる」
そう言って、急いで後ろを向いてしまったクラウドの耳が、風邪の俺に負けないくらい真っ赤になっていて。
それが可愛くて仕方がない俺は、風邪じゃなくてやっぱり彼に熱を上げているんだ、と思った。
END
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