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あんたはペット 10







「…あのね。もう一回落ち着いて冷静に話してくれる?」


キスティスは、コーヒーを啜りながら横目でスコールを睨んだ。
何故かついて来たセルフィも、横でニヤニヤと笑っている。


「ゼルが言っていたんだ」
「うん、実家の隣の家のネコが行方不明なんですってね。
それはわかったわ」
「行方不明になるのは、何でだと思う?」
「さぁ?」


そんなの猫に聞いて!
キスティスは、コーヒーに普段は入れないミルクと砂糖をたっぷり入れてかき混ぜた。
きっとこれから、とても疲れることになるだろう。


「死ぬのを飼い主に見られたくないらしいんだ」
「……」


・・・・・・。
キスティスは思った。
……あなた馬鹿なの?
頭は良いはずなのに…おバカなの?
ああ、ちょっと前まではこんな人じゃなかった筈なのに!

それが、さっきからスコールが気にしている事に、どう関係があるのかは言わなくてもわかるというものだが。
スコールの所にいた子が、居なくなってしまったことは聞いていた。
三日前から魂が抜けたみたいにフラフラになってたと思ったら、いきなり深刻な顔をしたスコールに呼ばれたので、何事かと思えばゼルの隣家のペットの話。

ぐふ、という音が漏れ、セルフィは口を押さえて涙目になっている。
――これは確実に笑いを堪えている。

ぷつん、と何かが切れる音がして、とうとうキスティスは人目も憚らず叫んだ。


「馬鹿で、しかもスコールだなんて!!」
「ぶぁはははは〜!!
はんちょ、バカ以下〜〜!!」
「当然よ!」


キスティスはグイとコーヒーをあおり、鼻息も荒く吐き捨てると、荒々しく置いたせいで少し零れてしまったソーサー上のコーヒーを拭き取る。
怒っていてもマナーは完璧だ。


「だからってポチちゃんと結び付けてどうするの!?」
「ポチじゃない、クラウドだ!」
「論点はそこじゃないでしょ!」
「だって…!!」
「だっても明後日もありますか!
彼は人間です!」


冷静な判断ってものが欠如しちゃって、これが俗に言う『ペットロス』なのかしら。
いいえ、何かが違う気がする…とキスティスは思った。


「クラちゃん見て動物に見えるのは、はんちょだけだよ〜。
確かに、むっちゃカワイイけどさ」
「動物じゃない。ペットだ」
「スコール!!」
「一緒やん」
「違う」


スコールはそれだけ呟いたが、睨むキスティスの剣幕に圧されて押し黙った。
しかし、こちらを見つめる目に不満がアリアリだ。
心の中での反論はもの凄いのだろう。
キスティスは頭痛がガンガンとしていた。


「聞いてくれ。
もしかして、アイツも死にに行ったんだったらどうしよう…。
なにか重い病気を持っていたかもしれないじゃないか」


ちょっと待って!
なんでそんな話になるの?


「…必ず帰って来るとは、一言も言ってないんだ」


がっくりと項垂れるスコール。
もうセルフィは大っぴらにゲラゲラと笑っている。

完全にペット扱いしてるけれど、何度も言うように彼は人間だ。
自分の意思で、自分の足で、どこにでも行けるし何でもできる。
確かに、話題の彼のことをキスティスは見たことがないが、セルフィの話ではもの凄い美少年ってことらしい。
キスティスの悪い予感は途切れない。
どうやってみても、これは……本人に自覚がないだけで『○わずらい』ってものでは?

キスティスは、自分を落ち着かせるためにコーヒーをもう一口啜った。
甘い。
甘さがカンに触る。
波紋を描くコーヒーを見詰めながら、ここまで耐えてる自分は偉い、とキスティスは思った。



「ねえ、スコール。
彼を、迎えに行きたいの?」
「……」
「捜すってどこ捜す気だったのよ。
当てはあるの?」
「…ない、が…
このままじゃいられない」


セルフィはニヤリと悪く笑んで、眉根を寄せたスコールに聞いた。


「はんちょ、はんちょ。
じゃ、まず保健所でも行ってみる?」
「…あ!」
「セルフィ!!スコールも頷かない!
冗談に決まってるでしょ?!」


変だわ。完全に、変。
変と言えば、スコールがこんな風に私たちに話して来ること自体が変だ。
ああ、でも、今回の件、最初っからスコールはおかしかったんだっけ…。


キスティスは、一連の出来事をセルフィから聞いていた。
クラウドが三日前に出て行ったと聞いた時、自分の家に帰ったのだと思った。
彼には何か複雑な事情があるのだろう、とも思った。
問題を直視できず、家に居たくないから逃げて出てきた――途中、ストーカーだ何だと色々すったもんだはあった様だが。
スコールの所でなにか踏ん切りが付いたから、自分で問題に取り組もうと出て行ったんじゃないか、と思っていた。


「ね、スコール。
待つのは駄目なの?
クラウドは自分の意思で出て行ったんでしょう?」
「………」


すっかり黙り込んでしまったスコール。
キスティスは溜息をついた。
それを潮に、スコールは黙ったまま立ち上がると、二人に背を向けて食堂の扉に向かって歩き出した。
そこに、今まで大口を開けて笑っていたセルフィが、真面目な顔になってスコールの背中に声をかける。


「はんちょが毎日ご飯作って、クラちゃん待ってるって知ってたから黙ってたけど。
はんちょは、ペットのクラちゃんに帰ってきて欲しいんだよね?
同居人とか、友達じゃダメ?」


セルフィの言葉に、スコールは背を向けたまま一瞬足を止めた。


「なんでペットなの?
今度はんちょに会いに来るのが、人間のクラちゃんだったらどうするん?」


再び歩き出し遠ざかるスコールから応えは無かった。










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