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あんたはペット 6






スコールが暮らすこのマンションは、バラム市街の中心から少し外れた静かな場所にある。
少し古いがその分間取りは広くとられ、手入れがしっかりされていてセキュリティも良い。
さらに、家賃が安いので気に入っている。


大きくリビングの窓を開けると、風が部屋のこもった空気を一掃していった。
二日間降り続いた雨がようやく上がったのだ。
数週間ぶりでやっと取れた休日に、天気が回復したのでスコールはホッとしていた。
雨上がりの空を眺め、一つ伸びをして澄んだ空気を吸い込んだ。


「クラウド」


スコールは、リビングのソファーベッドで眠る彼を呼んだ。
でも動かない。

今朝、彼を起こすのはこれが3度目だ。
普段の日なら、声だけかけて自分は早々に家を出てしまうので、朝食はキッチンのテーブルに置いたままだ。
今日やっと、クラウドの寝起きの悪さを知ったスコールだった。

(…まだ起きない。
こいつはいつも何時まで寝てるんだ?
まぁ、寝顔は可愛いからずっと見ててもいいんだが…)

スコールはそっと毛布をずらしてクラウドの顔を覗きこむ。
長い睫毛が陰を落とし、あどけなさと同時になんだか艶かしさも垣間見えてドキッとする。
誰に誤魔化すわけでもないのに、スコールは思わず咳払いして周囲を見回してしまった。
その音で、クラウドはようやっとゴソゴソと身動ぎしだした。


「ク、クラウド。雨、上がったぞ」
「……ん…わ…、た…」
「そろそろ起きろ。朝メシが冷める」
「……ん…」
「食べなくていいのか?」
「…や、だ。…たべる」
「じゃ、起きろ」
「…うん。おきる、から」


ボーっとしながらも、クラウドはもそもそと起き上がった。
奔放に跳ねまくった髪が、やっぱり例のヒナを思い起こさせる。


「………おきた」
「ああ。顔、洗ってこいよ」


薄いカーテンだけを閉めて、スコールはキッチンへと向かった。

淹れたばかりのコーヒーの香ばしい香りが漂っている。
今日は時間があるのでしっかり食べようと、テーブルには普段のトーストと目玉焼きの他にも皿が並んでいた。
目玉焼きの卵はとろりと半熟で、ソーセージとカリカリに焼かれたベーコンはほんのりカレー風味だ。
野菜スープと、レタスとトマトのサラダと、フルーツを入れたヨーグルト。
クラウドのお気に入りの大きなビンに入ったマーマレードは、エルオーネに送って貰った物だ。
薄くカリッとキツネ色のトーストを焼いて、バターの香りの温かなクロワッサンを保温器からお皿に盛って、スコールはそろそろかと廊下の向こうに目をやった。


「ふぁ〜…おはよ」


あくび混じりの声で言いながら、クラウドが洗面所から出てきて席に座る。
スコールは、おはようと返事をしながら彼の前にコーヒーのマグを置いた。


「思ったより早かったな」
「誰かさんが、しつっこーく起こしてくれたおかげだ。
あれ、時間は?こんなにゆっくりしてていいのか?」
「今日は休みだ」
「ふーん。
じゃ、いただきます」

(え!それだけか?
なんかこう、もっとリアクションがあってもいいんじゃないか?
今日はずっと一緒にいられて嬉しいとか、一緒にどっか行きたいとかなんとか…)


第三者が聞いたら速攻で突っ込まれそうな事をスコールは思っていた。
が、口に出すことはなかったので食卓は平和だった。
仕方なくスコールは自分も食べだした。

クラウドは、トーストにバターを塗りマーマレードをたっぷりと乗せて齧りつき、これやっぱ美味いな、とちょっと嬉しそうに言った。

(ああ。幸せそうに食うよな、コイツ。
最近ちょっとだけだが笑ってくれるようになったし。
餌付けは正解だったな…)


その時。

『ピンポーン』

玄関からの呼び出し音が響く。
クラウドと顔を見合わせた後、スコールは重い腰を上げて、ノロノロと外部応対用の受話器を取った。


「はい?」
『スッコーール!!セルフィちゃんとアービンだよ〜!
開けて開けて!!』
「………そんなヤツ知らん」
『あーー!もうスコールってば、クラちゃん独り占めはズルイ〜!!
開けてくれなきゃ、ここで騒いじゃうからねッ!
おっはよーみなさーーん!
いい朝ですねえーーッ』
『ちょっ、セルフィーー!』


頭痛を堪えて、スコールは仕方なくドアのロックを開けた。
間もなく、二人が駆け込んできた。


「やっほー!セルフィちゃんだよ〜!
おはよ、スコール。
おはよ、クラちゃん。今日も綺麗だね!」
「……誰のことだ」
「やーん、クラちゃん朝っぱらから不機嫌。
やっぱ、うるさ〜〜い旦那さんの所為で寝不足〜??
…じゃないね、お肌ツヤツヤすべすべだもん。
羨ましいぞ!」
「………」
「おい」

(朝っぱらから騒がしい。
クラウドがどん引いてるじゃないか)

「あ、朝ゴハンだ。おいしそ〜!!
ね、ね、クラちゃん。アタシも一緒していーい?」

(俺は無視か)

「……クラちゃんはやめろ」
「だって、クラウド、なんでしょ?」
「…そうだが」
「じゃー、やっぱり、クラちゃんね!
あたし、セルフィ。こっちはアービン。
はんちょの仲間でね〜〜」


一方的な会話をクラウドにし掛けているセルフィ。
彼女に訊いても埒が明かないので、隣のアーヴァインを鋭く睨んで言った。
アーヴァインはだらだらと汗をかいている。


「……何しに来た?」
「お、おはようスコール。
お休みのところ、ごめんね!
や〜、一応僕は止めたんだけど…ホントだよ!
でも、ほら、どうしても新婚家庭にお邪魔――じゃなくって、クラちゃんに用事があるって言うから…っ!!」
「……お前までクラちゃんとか呼ぶな」
「あああっ!
ゴメン、ゴメンねスコール!」
「もういい!
おい。セルフィ、何しに来――」



『ピンポーン』

また、玄関からの呼び出し音が鳴って、皆がちょっと黙った。
スコールは、静かにしてろよ、と言いながら不機嫌を隠そうともせずに受話器を取った。


「はい?」
『そちらにクラウド・ストライフさんがいらっしゃいますね。
会わせて頂きたいのですが』

(!!)

「何か勘違いしてないか?」
『いいえ。失礼ですが調べさせて頂きました。
証拠の写真、ご覧になりますか?』



スコールはストーカーを舐めていた自分を深く後悔した。










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あきゅろす。
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