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あんたはペット 4






昼休みを少し回ったガーデンの食堂は、生徒の姿もまばらで静かになる。

スコールやキスティスといったSeedの面々は、主にこの時間に昼を取ることにしていた。


(『動物の力を治療に応用した、アニマルセラピーが注目されています』
『普段の生活でも動物と触れ合うことで、落ち着きを取り戻したり、安らぎを与えられるとペットを飼う人も少なくありません。
動物のぬくもりや、温かさ、柔らかさが、ストレスを受けてとがった心を丸くしてくれるのかもしれません』)

(と言っても、簡単に触らせてはくれそうにないな。
野生動物は人に馴れないっていうし、セラピーになるのか?
あいつは静かで、部屋にいても邪魔にならないからいい。
でも、意思の疎通って大切だよな)


スコールは、眉間にいつも以上に皺を刻んで本を睨みつけ、違う本に手を伸ばした。




「…スコールはさっきから何を熱心に読んでいるの?」
「アレ」

セルフィは顎をしゃくってテーブルに積んである本の題名を読み上げる。


「えーっと、
『ペットの飼い方』
『ペットと暮らす〜お世話の仕方としつけ〜』
『わんこのきもち』
『にゃんこのきもち』
『リラックス空間〜ペットのいる生活』
で。今、読んでるのが『ペットグッズセレクション』だって。
…なに買うつもりなんだろ??」

「スコール、ペットなんか飼えるの?」
「………」
「聞こえてないって。
あのね、はんちょ、ポチちゃんと暮らすんだって〜」
「ポチ…って、ええッ!?
だって、普通の人間なんでしょ!?」
「うん。金髪碧眼の、すーーっっっごい美人!
あの目はマジヤバイよ〜。
見られるとなんだかこっちまでドキドキしちゃうもん」
「スコール!本当なの!?」


キスティスに叫ばれて、ようやくスコールは本から視線を上げた。眉間に皺を寄せている。


「どういうこと!?
アーヴァインが言ってたあの噂は、本当に本当だったの?
リノアはどうするのよ?
あなた、魔女の騎士でしょ!」
「………。
話が見えないんだが…」
「スコール!」

「まーまー。ちょっと待って」


一方的なキスティスの声に、やけにノンビリとした声でセルフィが割って入った。


「ねーねーはんちょ、ポチちゃんとはうまくいってる〜?」
「ぽちじゃなくって、クラウドだ」
「へ〜。じゃクラちゃんだね。
どう、クラちゃん慣れた〜?」
「いや…それが」


あんまり喋ってくれない…、となんだか侘びしそうにスコールは呟いて視線を落とした。
スコールの様子に、ああやっぱりコミュニケーションとれてないんだ、とセルフィは思った。
だってスコールだ。自分から話し掛けたりしてないだろうし、言い方だって端的で愛想もない。
あれから3日経つ。そうは見えないけれど、スコールは相当テンパってるんだろう。
だからこんなに本読んで勉強してるんだねぇ、とセルフィはちょっとスコールが可哀相になった。
そこで、突っ込もうとしているキスティスを止めて、言った。


「はんちょ、クラちゃんと仲良くしたいんだよね?
だったら、やっぱりゴハンで釣らなくっちゃ〜!
美味しいもの食べさせてあげるとか、好きなもの作ってあげるとか。
そうすれば馴れてくるって!」
「…そうか!それだ!」
「ちょっと、セルフィ!!
スコールも、なにを本気にしてるの!?」
「お互いの同意があるんなら罪にはなんないよ〜」
「そういう問題じゃ――」


二人とも、根本的に何かが間違ってる!とキスティスは切実に思った。
そうして懸命に諌めようとするが、彼らには全く届かない。
スコールは立ち上がって本をまとめると、助かった、とセルフィに言い残して颯爽と去って行った。


そうして、食堂に残された二人。


「……どうするつもり?」
「え、あ、あはははは!
まぁいいやん、はんちょ幸せそうで〜」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「だいじょぶだいじょぶ。
はんちょだって、ちゃんとわかってるって!
んじゃ、ごちそうさま〜〜!!」
「あ!ちょっと――」


いつの間にかすっかり空になっている食器の乗ったお盆を持ち、セルフィは脱兎のごとくキスティスから逃げ出した。

キスティスは大きな溜息を吐いた。






その夜。


「ただいまクラウド。
あんた夕食のリクエストはあるか?」
「お、おかえり…。なんだ突然?」
「あんたの好物を作ろうと思ったんだが。
何が食べたい?」
「……や、特に」
「なにが好きだ? 夕飯じゃなくても、何でもいいぞ。
俺が作れるかはわからないが、何かないのか?」


スコールが尚も重ねて言うとクラウドは少し考えてから言った。


「…あんたの作るメシはどれも美味いから、なんでもいい」
「そ、そうか……わかった」

(あー…嬉しいような、なんだかガッカリ哀しいような…複雑な気分だな。
喜ぶ顔が見たかったのに)


あからさまに落胆したスコールは、キッチンに行こうとぎくしゃく歩き出した。
それをクラウドは呼び止め、なんだか少し慌たように付け加えた。


「ああ、そうだ。甘いもの」
「え?」
「甘い物が食べたいんだ。ドーナッツとかチョコとかバームクーヘンとか」
「あんた、甘党だったのか」
「……悪いか」
「いや、悪くない。
悪くないが、俺が食わないからうちにはその類がないんだ。
明日でもいいか?」
「いや、わざわざ買うならいらない。
いいから忘れてくれ」
「………」
「あんた、くれぐれも買ってなんてくるなよ。
いいな?」


そう念を押して、クラウドはリビングに戻ってしまった。


(そうか、甘党なのか。
とりあえず、好物がわかってよかった。
土産だな。さて、どうするか…。
俺は詳しくないから、明日詳しそうなセルフィなりアーヴァインなりに訊くか。
なにがいい…やっぱり甘い物といえばケーキか?
アイスなんかも食べるだろうか…)

キッチンに向かって意気揚々と歩き出すスコールは聞いちゃいなかった。






翌日。
両の手に洋菓子店の袋を下げたスコールが、足取りも軽く帰宅するのをたまたま見てしまったキスティスは、見た事を後悔し、深い深い溜息を吐いた。

(なに、あれ。いそいそと。
あれじゃ、新婚家庭のダンナじゃないの!)

(スコール、変わったのね…。
願わくは、リノアには知られないでいて欲しいものだわ…)

その願いが虚しいだろうことは、彼女が一番良くわかっていたかもしれない。










★オマケ★


「美味いか?」
「…ん(もぐもぐもぐ)」
「まだあるからたくさん食ってくれ」
「…ん」
「ところで…その」
「…ん?(はぐはぐはぐ)」
「…えっと、なぁ、あんた。
その…もう少し綺麗に食ったほうがいいんじゃないか…?」
「…ん。何が?」
「バームクーへン。
周りから剥いで食うのは止めたほうがいい」
「何で?普通こうするだろ」
「普通な訳あるか!明らかに変だろ?」
「えっ!?だって、バウムクーヘンはこうやって食う物だって教わったぞ」
「誰がそんなウソを!?
まぁ、家の中だけなら構わないだろうが、癖になって外でしたら恥ずかしいぞ」
「!!!………(あのヤローー!!!)」
「ク、クラウド?」
「………ごちそうさま」


(ヤバイ、言いすぎた…。
せっかく嬉しそうにしてたのに…。
ちょっと笑ってくれてたのに…。
ああ…)









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