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Brother(仮称)2






訃報がクラウドの元に届いたのは、母親の葬儀から一ケ月も後のことだった。
遺産相続の関係で肉親を探していた、と言う弁護士からの手紙は切羽詰っていて、苦労してクラウドを探し出したことが伺えた。
連絡を入れたら、その後すぐに年配の弁護士が訪ねて来た。

母の死には相当ショックだったが、もう一つ驚いた事に、義父は二年も前に交通事故で亡くなっていた。
母はその所為もあって入退院を繰り返していたと言う。
母親亡き今は、高校生の子供だけが広い一軒家で暮らしているらしい。
その子供がまだ未成年の上、義父のほうにも近親の身内と呼べる者がいなかった為、彼の兄である自分にすべてを託したいという母親の遺言状がある、と弁護士は言うのだ。

本当に本当に、自分には甘い母だったのだ。








「どうかしましたか?」

ぼんやりと追憶に浸ってしまっていると、その少年は眉根を寄せた表情でクラウドを見た。


「いや…なんでも」


クラウドは軽く首を振って答えた。
今、クラウドの前にはダークブラウンの髪に青藍の目をした17歳の精悍な少年…いや青年が座っている。
名前は『スコール・レオンハート』、クラウドの血の繋がらない弟だ。
未成年と言うには語弊がありすぎる大人びて落ち着いた表情。
『はじめまして』と立ち上がって挨拶してきた時には、すっかり見下ろされてしまった。
クラウドにとっては、たった一人残された身内だ。

弁護士は二人を引き合わせた後、いろいろ手続きもあるのでまた連絡いたします、と帰って行った。



「兄さん…あの、今後の事なんですが」


スコールの声が静まり返ったリビングに響く。
『兄さん』なんて呼ばれ慣れなくて、気恥ずかしくなる。
目を遣ると、仏頂面で真っ直ぐにこちらを見てくる蒼い眼があった。


「俺はここで暮らしたいと思っています。
今の学校を変わりたくはないし、環境も変えたくはない。
ただ、母さんは全てをあなたに任せなさいと言っていたので…」


彼はクラウドを伺うように言葉を濁した。

つまり、『自分はこのままでいたいが、家主が今まで会った事もない兄になったのでどうなるのか』と言うことだろう。
まぁ、仏頂面なのも無理はない、とクラウドは自分の無表情を棚に上げて思った。
住み慣れた家がいきなり現れたヤツのものになって、さらに主導権もそいつにあるとなったら反感を感じないわけがない。


「アンタはこのままここに住めばいいだろう。
俺はそれで構わない。
誰も住まないと家が傷むと言うしな」
「…でもそれじゃ、兄さんは、どうするんですか?」
「俺は今まで通り、会社の寮で暮らす。
ああ、それから…『兄さん』じゃなくてクラウドでいい」


ついでに敬語もナシだ、とも言う。
スコールは無表情だったが、若干呼びにくそうに『兄さん』と言ってるように思えたし、一応は兄弟なのだから敬語も変だろうと思ったからだ。


「でも…」
「そうしてくれないか」


スコールはしばらく黙った後、『わかった』と頷いた。
また、しばらくの沈黙が降りたが、それを不快には思わなかった。




「…クラウド」


口を開いたのはスコールだった。先ほどと表情は変わらないが、さほど話し辛そうにはしていないように思う。


「うちの学校は一人暮らしは駄目なんだ」
「そうなのか」
「ああ。この一ヵ月は葬儀だなんだでゴタついていたから免除してもらっていた。
あんたが見つかって、一緒に住むのでなければ、たぶん今の学校には居られない」
「寮か何かはないのか?」
「ない。自宅通学だけだ」
「あー、そうか…」


クラウドが向かいに座るスコールを覗き込むように見上げると、彼は露骨に眉間に皺を寄せて、こっちを睨むように見ていた。
自分から言い出したのにそこまで不機嫌な顔しなくても…と思いながら、クラウドは口を開いた。



「…じゃ、一緒に住むか」









こうして、奇妙な同居生活が始まった。












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