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Brother(仮称)1





その日、クラウドは母親の訃報を受けて、その人が住んでいた家を初めて訪れた。






彼と母親は5年前、クラウドの高校の卒業式の日に別れたきりだった。

クラウドの父親は、彼が生まれる前に亡くなっていた。母は女手ひとつで彼を大切に育ててくれた。
クラウドが中学生の時にその母に再婚話が出た。
相手の人は穏やかでとても優しい人だった。
義父になる伴侶を見つけて、結婚し幸せになってくれるならと心から祝福を贈った。
体が弱い母親が、自分のために無理な仕事を続けなくていいことも本当に嬉しかった。

でも、人見知りの激しかったクラウドは、何度か会ったその人とはどうしても打ち解けることができなかった。
その人にも小学生の連れ子が一人いたと聞いた。
母の話では、その子はよく懐いてくれたと言っていたから心配はなかっただろう。

クラウドは、新婚家庭の邪魔をしたくなかったので、遠方の寮のある学校に行った。
母親は、わざわざそんな遠くに行く事はないのに…と嘆きながらも、幾度となく会いに来てくれた。


クラウドが大学進学の道を選ばなかった事を、母はその高校の卒業式当日まで反対していた。


「私がこれまでやってこれたのは、あなたがいたからなのよ。
クラウドを大学まで行かせたい、不自由はさせたくない、って夢があったから頑張って来れたの」


そう言った。
息子と離れているということで、ずいぶん母親は寂しかったようだった。


「あなたとは何年もずっと離れていたんだし、今度こそみんなで一緒にくらしたいの。
クラウドが、人一倍気を使ってくれる子なのはわかっているつもりよ。
でも、家族なんだから遠慮なんかしないで。
お願い」


そう、涙を浮かべて懇願された。
それでも今、クラウドは母親にこれ以上の負担はかけたくなかった。
さらに、義父はとても優しい人だったけれど、今さらながらの自分との同居は望んでいないだろうこともわかっていた。


もう大丈夫だ。心配要らない。
もう十分に独り立ちして働ける年齢なのだから、と言っても母は納得しないだろう。
ずっと離れていた上に、18になった今でも補導されそうになる童顔が災いしてか、きっと彼女の中では自分はまだ幼い子供のままなのだ。
母親に縋り付いては泣いていた、あの小さい頃のままなのだ。


だから、黙って家を出ることにした。

高校の卒業式の日、目立たないようにこっそり荷物をまとめた。携帯は枕の下に隠してきた。
卒業式を見せて、卒業証書を預かって貰った。
その後、友達と帰るからと言って母親を先に帰した。

そして、その足で町を離れた。



それから一度も戻っていない。










次からスコールの出番。まぁ、まったり進めます。


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