ちょっと待て!そっちは未知の領域だ!
昼休み。
いつの間にかクラウドの姿が見当たらない。
またあの変態教師にどこかに連れ込まれそうになっているのか?と焦って彼を捜していた。
廊下を走っている時に、担任教師のウォーリアに呼び止められたので『廊下は走るな』と注意を受けるのかと思った。
でも、よくよく考えてみればバッツやジタンも一緒に走っていたし、ティーダに至ってはボール投げまでしていた。
俺だけ呼びとめられたのだからそんな訳はない。
放課後まで待って、わざわざ出向いた職員室。
「最近、授業中ぼんやりしてる事が多いと先生方に指摘されてな。
何かあったのなら相談に乗ろう」
注意を促すというよりは、むしろ気遣わしげにライト先生はのたまった。
別になにも、と答えると先生は少し考えた後で、善処しなさい、と言った。
なんだかな…。
叱るならもっとビシっと叱ってくれ。
くそ。
なんだか面白くなかった。
職員室から教室に鞄を取りに戻ると、クラウドが一人、机で寝ていた。
こちらが声をかける前にむくりと起き上がって、向こうが口を開いた。
「なんだったんだ?」
きっと他のヤツが同じことを言えば、親身な台詞にはとうてい聞こえない。
クラウドだからこそ、なんだ心配して待っててくれてたのか、と思えるから不思議だ。
それなのに俺の口からは素っ気無い応えしか出てこない。
「別に…」
「何もなかったら呼ばれないだろう」
その通りだ。
それでも言わないつもりで黙っていたら、クラウドは肩を竦めてさっさと帰り支度を始めてしまった。
俺はちょっと慌てた。
「授業中ぼんやりしてたと怒られたんだ」
「へー。珍しい」
「…笑うな」
「笑ってない。暇なんだな、Wolも」
バッツとかティーダとかもっと悲惨だし、俺なんかいつも寝てるのにな…と呟くクラウドを見て、俺は心の中でホッとする。
サラッと流して欲しい俺の気持ちを汲んでくれて、呼び出し食らってなんとなく一人では帰りたくないと思う俺を待っててくれた。
いつも口数は多くないけれど、クラウドは不思議なくらい俺の気持ちをわかってくれる。
傍にいると安心する。気が休まってイライラがなくなる。
俺もクラウドにとってそんな存在になれればいい、といつも思ってる。
…そんな事、口にして言えやしないが。
「あんたはいつも成績が良過ぎるから。それで周囲に期待されてるんだな」
「…勝手に期待されても迷惑なだけだ」
「でも、最近ぼんやりはしてるだろう」
「は?」
「なんだ、自分で気付いてなかったのか?」
そう言って口元だけで笑ったクラウドに、思わず目を奪われた。
只でさえ美しく光る髪なのに、窓越しに教室に入って来た夕日に照らされ、一層きらきらしてる髪。
透き通るようなその白い肌までもが艶かしく見える。
オレンジ色に染まる教室にクラウドまで溶け込んでしまいそうな……。
「…ール…スコール?」
「あ、ああ…悪い」
「なんだ。やっぱりぼんやりしてるじゃないか」
「……いや」
首を傾げるクラウドを見てると、何だかいてもたっても居られなくなって来た。
自分で把握出来ないところで、何か、とんでもないモノが生まれている様な気がしてならない。
ワクワクしてくるような、けれど、実態が掴めずイライラするような…?
皆のいう“ぼんやりしてる俺”っていうのは、多分、こういう状態の事なんだろう。
なんて事だ。他人にまで見破られるほどなのか。
「なんでもない。
帰ろう、クラウド」
「あ、ああ」
きっぱり言って踵を返し、鞄を掴んで歩き出した俺の後ろを、クラウドが追ってきた。
ワクワクしてくるような、イライラするような、何か、とんでもないモノ。
・・・・・・まさか、な?
泣きたい気分でそう思った。
いや、願った。
end
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