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抗いし定め

 一護はゆっくりと歩き続ける。
 果てのない道にうんざりしながらも、彼女は諦める事をしなかった。それは仲間の為であり、自分の所為で命を落とした母へのせめてもの償いだった。

「いつまで続くんだろうな。」
『足を止めるのか?』

 一瞬懐かしい声が聞こえた気がして、一護は振り返るがそこには誰もいなかった。

「当然だよな……。」

 あいつはオレの存在自体を知らないんだから…。そう呟く一護はまだ歩き続けるそれは修羅の道でも彼女はその足を止める事はないだろう。

【おい、なにボーとしている。】

 怪訝な表情を浮かべるのはもう一人の自分であり、自分とは全く異なる存在である破月だった。

「破月。」
【珍しいな、お前がこっち(精神世界)に来るなんてな。】
「仕方ないだろう、向こうでだとまともに特訓が出来ないんだからな。」
【まあ、そうだよな。】

 肩を竦めてみせる彼に一護はようやく足を止めた。

【だけど、特訓なのにボーっとしてんだ?】
「……。」

 破月の言葉に一護は押し黙る。

「別にいいだろ。」
【はー、本当にお前は嘘が吐けないよな。】
「うっせー。」

 一護は破月をジロリと睨んで背中にある斬月の柄を握った。

「てめぇはそんな事を言うためにオレに近づいたのかよ?」
【いいや、相手がいる方がいいだろ?】
「……んじゃ、頼むかな。」

 ニヤリと口角を上げ、一護は斬月を構えた。

【そんじゃ、行くぜっ!】
「かかって来い。」

 一護は先攻を相手に譲り、隙なく気を張り詰めた。

【流石相棒だ、長い間戦わなかったのに、全然衰えていないな。】
「そうか?」

 破月の斬撃を受け流しながら、一護は微かに首を傾げた。
 一護は未だに自分が完全ではないと思っていた。一番力があった時期に比べ、今は衰えているように思うのだ。
 それでも、初めて力を手に入れたあの時よりもずっと強いのだが…。一護はそれだけでは皆を救えない事を知っていた。

【なあ、相棒】
「ん?」
【相棒は恐れていないのか?】
「……。」

 何を急に言い出すのかと一護は眉を寄せるが、破月は真剣な目でこっちを見ていた。

【たとえ、藍染を倒しても、もう一度お前は四十六室…いや、尸魂界に殺されるかもしれないんだぞ。】
「そうかも知れないな。」

 静かな声で一護は破月の言葉に同意した。

「それでも、オレは仲間を…失いたくないんだ。」
【お前の仲間は死に逝くお前に何もしなかったぞ!】
「そんな事はない。あいつらはギリギリまでオレを死なせない方法を考えてくれたじゃないか。」
【それでも、お前が死んだら意味がないじゃねぇかよ。】
「そんな事ないさ……。」

 一護は一度目の人生を思い出し、クスリと微笑んだ。

「オレ自身は受け止めている。」
【………嘘吐くなよ。】

 眉を寄せる破月に一護は一気に斬月を振り上げ、破月の斬月を跳ね飛ばした。

「勝負あったな。」
【くそ…。】

 顔を顰める破月に一護は背を向ける。

「サンキューな、相手してくれて。」
【なあ、相棒。】
「何だよ?」
【……嘘吐くなよ。】
「……。」

 一護は振り返り、破月をまるで母か姉のような慈愛に満ちた目で見た。

「なぁ、破月。」
【……。】
「破月は自分が死んでも守りたい存在はあるか?」
【……。】

 一護の言葉に破月は答えなかったが、それでも、一護はその答えを知っていた。

「あるだろ?」
【……。】
「それがオレにとって、現世であり、尸魂界であり、仲間であり、家族であり、愛する人なんだよ。」
【…てめぇは背負いすぎなんだよ。】
「そうかもしれないな。」

 破月の言葉に一護は苦笑する。

「それでも、背負う事を選んだのは他でもないオレなんだよ。」
【……てめぇは馬鹿だ、本物の馬鹿だ。】
「そうかもな。」

 一護はゆっくりと足を踏み出す。

「それでも、こんな馬鹿な奴がオレなんだよ。」
【……好きにやればいいさ。】
「破月?」

 いつもならもっと攻撃的な言葉を投げつけそうな彼が今日は珍しく投げやりのような言葉を口にした。

【てめぇにいくら言っても無駄だからな。】
「サンキュー、破月。」

 一護は口元を緩め、そっと精神世界から現実に戻っていった。

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あきゅろす。
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