抗いし定め
1
一護は己が死神の力を手に入れた時間に来たと悟った。
あの時と同じ様に亡くなった女の子の頼みを聞き、そして、遅いと言って自分に襲い掛かる父親を倒した。
そして、一護は待っていた。自分の運命を変えた死神を――。
黒い揚羽が目の前を通過した。
「近い…。」
一護は目の前を通っていった死神――朽木ルキアにそっと話しかける。
「何が近いんだ?死神さん?」
「何っ!」
ルキアは驚き、思わず鬼道を放った。
「縛道の一、塞っ!」
一護はタイミングこそは違うが、彼女が放つ技を知っていたので、器用に避けた。
「なっ!」
避けられるとは思わなかったルキアは目を見開いた。
「悪いな、今ここで掴まる訳にはいかない。」
「お前は何者だっ!」
吼えるように叫びルキアに一護は喉の奥で笑った。
「オレか?オレは――。」
名乗りを上げようとした瞬間、下の階から爆音が轟いた。
「くそっ!もう来やがったか!」
「おい、待てっ!」
ルキアが呼び止めているにも拘らず、一護は自室から抜け出した。
「夏梨っ!遊子っ!」
一護がリビングに向かうと案の定、血塗れの父親と双子の片割れの夏梨の姿があった。
「一姉…逃げて…。」
「……。」
今回も自分の心配をする夏梨に一護は唇を噛み、心の中で己の斬魄刀に語りかける。
(いい加減出て来い、おっさん。)
そして、その思いはようやく届いた。
【わたしを使え、一護。】
「――っ!斬月っ!」
一護は前に手を突き出し、そして、虚空から巨大な出刃包丁のような形をした己の斬魄刀、斬月を掴み取る。
その時、一護は馴染みのある死覇装を着ていた。
「久し振りだな…この姿も、斬月も。」
【ああ、久しいな、一護。】
「おっさん、オレの力を使ってくれ、そして、オレに力を貸してくれ。」
【勿論だ。】
斬月の返事に一護は口角を上げた。
【おいおい、オレ様も忘れては困るぜ、相棒。】
「………破月?」
一護は己の内にいた虚の力を持つ自分とは性の違う彼の声が聞こえ、まさか、斬月だけではなく、彼までも現れるとは予想外だった。
「おっさん、もしかしてオレ。」
【ああ、卍解も使えるぞ。相棒。】
斬月に語りかけたにも関わらず、破月が返事をしたので、一護は苦笑する。
「サンキュウな。」
【来るぞ。】
「分かってる。」
久し振りなので、腕が鈍っているのではないかと一護は不安になっていたのだが、そんな心配は一振り目で薙ぎ払われた。
一護の斬撃は虚の腕を切り落とし、そして、空中に投げ出された遊子を霊子の足場を作って受け止める。
「ごめんな、恐い思いをさせて。」
一護は足場を蹴り、遊子を家の中であまり破壊されていない場所に寝かせた。
刹那、虚は啼いた。
「お前は犯してはいけない罪を犯した。」
一護の霊圧が格段に跳ね上がり、ようやく追いついたルキアがそれを見て、瞠目していた。
「オレの家族を傷つけた事だっ!」
一護は容赦なく虚の仮面を真っ二つに斬りつけ、虚は塵のように消えた。
「………ごめんな、遊子…夏梨…。恐い思いをさせてしまったな。」
妹を慈しむ一護の姿にルキアは胸を打たれた。
「貴様……。」
「紹介が遅れたな、死神。」
一護は遊子を抱き上げ、ルキアと向き合う。
「オレは黒崎一護……人間であり、死神の力を持つ者だ。」
「…………人間なのに…死神の力を……。」
驚くルキアに一護は苦笑する。
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