抗いし定め
2
聞きなれた時計のアラームを聞きながら、一護はゆっくりと体を起こした。
「夢か……。」
ずいぶんと懐かしい夢を見た気がした。
「……冬獅郎…。」
恋人の温もりを思い出したくて、己の体を掻き抱いた。
「会いたい…会いたいよ……。」
カレンダーを見なくても分かる、明日はあの日…。
母を二度失ったあの日。
己の力がいたらないために、家族を傷つけた日だった。
「………グッモーニングっ!一護っ!」
いつものように扉を蹴飛ばして現れた父親に一護は近くで寝ていたコンを投げ飛ばした。
「親父、勝手に部屋に入るなっ!」
「べぶっ!」
一護はコンを投げた後素早く近くにあった時計やら何やらを投げて一心を撃退した。
「はぁ……。」
一護は一心を取り敢えず廊下に捨て、着替え始める。
「朝っぱらから元気だな、貴様は。」
「はよ、ルキア。」
押入れからルキアが現れ、一護は特に気にせず、鞄を持つ。
「おはよう。」
「急がねぇと遅刻だぞ?」
「分かっておる。」
「……。」
一護はいつものように妹たちと朝食を食べ、出来るだけ、普段と変わらないように過ごした。
前の時にあの元凶の虚を倒しそこね、冬獅郎に慰められていたが、一護は二度目に母を失ってからあの日が嫌いになった。
だけど、雨だけは嫌いになれなかった。
あの日、冬獅郎が雨は雪にもなると言っていたので、彼女は雨が完全には嫌いにはならない。
雪は冬獅郎を思い出す。
冷たいけど、温かくて、包み込んでくれる優しさを感じるからだ。
「一護、明日休むんだろ?」
「…たつき。」
朝学校に着いたらたつきが声を掛けてきた。
「ああ、いつもの事だしな。」
「そうか、明日のノートとっとくから。」
「サンキュー。」
幼馴染の気遣いに一護は笑みを浮かべた。
「……無理すんなよ。」
理由を知っている幼馴染は心配そうに一護を見たので、彼女は苦笑する。
「別に無理なんかしてないさ。」
「……あんたは本当に。」
「たつきちゃーん、おはよう。」
元気よく教室に入ってきた井上にたつきは一度一護を見た。
一護は言ってやれと言う意味で、手を振ると、たつきは溜息を一つ零した。
「一護、誰もあんたを責めてないんだからね。」
「……。」
お節介な幼馴染に一護は苦笑いをまた浮かべた。
「本当にオレの周りは心配性が多いな。」
前の時は冬獅郎やルキア、乱菊、桃といった面々が心配してくれた。そして、現世の今の中のいいメンバーは昔と同じように自分を心配してくれていた。
「あいつらが無事でいられるように……、オレはオレの命を懸けよう。」
前の自分と同じ心失敗を繰り返さないように一護は少しでも大切な人が傷つかない道を選びたかった。
しかし、完全に芽を摘み取っても、新たな違う芽が出てきそうなので、その辺の微妙な兼ね合いが一護の中で黒く渦を巻いていた。
不安や恐れ…それは、昔以上に大きなものとなっていた。
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