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抗いし定め

 一護はいつでも死神化できるように気を張り詰める。
 その空気がルキアにも伝わっているのか、彼女まで顔を強張らせていた。

「本当に来るのか?」
「ああ、間違いなくな。」

 そして、一護は時計を見た。

「ルキアっ!」
「うむっ!」

 一護の叫びにルキアは応え、一護を死神化させる。
 その瞬間、一護がいた位置に虚の爪が伸ばされるが、すでに、一護の体はベッドの上に傾き、死神化した一護はその虚に斬月を振るった。

「一護、逃げたぞ。」
「分かっている、行くぞっ!」

 一護は腰を落とし、ルキアに背を向ける。

「すまぬ。」

 一護の意図を汲み取り、ルキアは一護の背に乗り、一護はそれ確認し、一気に窓から外へと飛び出した。

「行き先は分かっているのか?」
「こっちの方角で間違いない、それに、あいつは井上の家に向かっているようだからな。」

 微弱な気配を追おうとルキアも必死だったが、流石に瞬歩の速さの中、気を探るのは慣れていなかった。

「一護。」
「黙ってろ、速度を上げる。」

 何か言おうと口を開こうとするルキアを制し、一護は言葉通り瞬歩の速度を上げた。
 そして、井上のアパートに着いた二人の耳に井上の悲鳴が聞こえた。

「一護っ!」
「分かってる。」

 前の時よりも早く着いているのを知っている一護はそれでも急いだ。

「ルキアはたつきを頼む。」
「うむ。」
「オレは井上と井上の兄さんを何とかする。」
「分かった、しくじるんじゃないぞ。」
「誰に言っているんだ。」

 絶対に失敗する気など一護にはなかった。

「なっ!」

 中に入ったルキアは井上の魂魄が抜けている事に気づき、顔を真っ青にさせる。

「大丈夫だ、まだ鎖は切れていないっ!」

 一護の叱責にも似た言葉にルキアはハッとなる。

「一護…。」
「ルキア、お前はたつきの治療に専念してくれ。」
「だが。」
「大丈夫だ、井上はオレが受け持つ。」

 ルキアは一護をじっと見つめ、そして頷いた。

「無茶をするのではないぞ。」
「ああ。」

 一護は頬を緩め、そして、井上の魂魄を襲うとする虚をの目の前に立つ。

「待てよ、井上の兄さん。」
『くっ、黒崎さん?』

 井上が驚いたような表情をするが、一護は、今は虚になってしまった彼を何とかしないといけないと知っていた。

「井上はあんたを忘れたわけじゃない。」
『だが…織姫は……。』
「なら、何で井上はあんたから貰ったその髪飾りを毎日つけているんだと思うんだ?」
『――っ!』

 虚は井上の髪飾りを見て、動揺する。

『……黒崎さん…、どういう事…お兄ちゃん……って。』
「井上、この人はお前の兄の昊さんだ。」
『お兄ちゃん?』
「…すみません。」

 一護は謝ると井上の兄の仮面を切った。

『――っ!お兄ちゃん……。』
『織姫……。』

 現れた顔に井上は目を見張った。

「井上はあんたに心配を掛けさせたくなかったんだよ、だから、毎日笑顔を浮かべていた。」
『…お兄ちゃん…ごめんね…、あの時…。わたし……。』

 小刻みに震える井上に一護は慈愛で満ちた目で、井上の兄を見る。

「あんたはまだ罪を犯していない…だから。」
『……。』

 井上の兄はじっと妹を見つめる。

『織姫……。』
『お兄ちゃん…いってらっしゃい。』

 泣き笑いの表情を浮かべる井上に彼は目を細めた。

『ああ、行ってきます。』
「それじゃ、ごめんな。」

 一護はそう言うと斬月を滑らし、井上の兄を昇華させる。

『いってらっしゃい、お兄ちゃん……。』

 消える兄に対し、井上は涙を流しながら見送った。

「一護…。」
「ルキア、もう大丈夫だ。」

 一護はそっと井上を無事に体に戻し、彼女の傷を癒す。

「黒崎さん、どうして?」
「……。」

 一護は苦笑しながら、そして、記換神機を使う。

「今はまだ忘れていてくれ…。」

 一護はぐったりとした井上を支えた。

「一護、こっちも終わったぞ。」
「そうか、それじゃ、帰るか。」

 一護はまず一つ目が終わった、と思った、そして、次に起こるだろう出来事に顔を歪ませるのだった。

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