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二つの魂

「これより、臨時の隊主会を始める。」
「待ってください、来ていない方がいらっしゃいますし、その方は確か十番隊の日番谷五席ではありませんか。」

 卯ノ花烈はそう言ってやんわりと微笑むが、有無を言わせない迫力に誰もが押し黙った。

「日番谷、説明せい。」

 山本の言葉に冬獅郎は一歩前にでる。

「分かりました。この度十番隊隊長を任された日番谷冬獅郎です。」

 冬獅郎の言葉に流石の隊長と言えど、驚くものが半数を占め、ある二人は特に関心がないのか表情すら変えていない。

「この場にいない、藍染、市丸の両者はとある死神を殺害し、そして、その時に吐かれた言葉によって尸魂界に謀反する、とはっきりと俺と山本総隊長、京楽隊長、浮竹隊長が耳にしました。」
「真実かっ!」

 顔を顰める砕蜂に冬獅郎は淡々と言う。

「真実だ、しかも、その殺された死神は将来有望と謳われ、そして、今回の件で俺を隊長に、彼女に十三番隊の副隊長にと考えられた人物だ。」
「…日番谷隊長、それはまさか。」

 聡い卯ノ花は気づいたのか、悼むような表情を浮かべた。

「黒崎一護だ。」

 その言葉にこの場にいる全員が息を呑んだ。

「真にかっ!」
「骨があったのにな。惜しい事をする。」
「……本当に、何であの方を。」

 多くの隊長が一護の死を悼む中、山本は軽く驚いていた。

「主らは何ゆえ、あやつの事を知っている?」
「四番隊によく来て、患者の手当てを手伝ってもらいました。」
「こっちの馬鹿どもが突っ込んでいくからな、それで骨があると言うあいつを見つけて、殺し合いを繰り広げたさ。」
「……そうか。」

 知らぬのは自分だけだったのかと、山本は溜息を吐きたくなったが、すぐに気を引き締めた。

「それならば、あの者の実力は分かっておろう。」
「……。」
「あの方は隊長格と並んでもおかしくはない実力の持ち主です。下級の虚や死神では彼女の力の一端を見る事も適わないでしょう。」
「ああ、あいつは俺しか知らなかったが、卍解を会得していた。」
「まあ。」
「そんな…。」

 一護が卍解を会得していた事に気づかなかった多くの隊長に冬獅郎は冷めた目でじっと総隊長を見た。

「総隊長。」
「うむ。お主らはこれを聞いてもらおう、涅。」
「ネム。」
「はい。」

 事前に涅マユリに言っておいたのか、彼は大きな機械をネムに運びこませた。

「マユリ様完了いたしました。」
「ふん、さっさとやりたまえ。」
「はい、マユリ様。」

 ネムはそう言うと再生ボタンを押した。
 そして、大きな機械から流れてきたのは一護と藍染たちのやり取りだった。

「………事情は理解いたしました。ですが、これは本当に黒崎さんがやった事なのでしょうか…。」
「…あいつに間違いない。」
「えっ?」

 確信している冬獅郎は迷わずにそう言った。

「あいつはつまらん事ではそんな事をしない…それに。」
「黒崎の霊圧は消滅したネ。」

 面白くなさそうに言うマユリに冬獅郎は眉間の皺を深くさせたが、マユリはそんな事に気づいていないのか淡々に話す。

「総隊長に頼まれてから、すぐに現世に部下をやったが、残念ながら黒埼は愚かその跡形すら残っていなかったネ。」
「……。」
「黒崎さん……。」
「皆に慕われた良い女人だったのにな…。」
「各自、副隊長以下の者たちに、その事を伝え、そして、あの者たちが帰ってきたら即刻捉えろ、良いな。」
「それじゃ、山爺。」
「解散じゃ。」

 そう言うと真っ先に外に出たのは冬獅郎だった。

「日番谷隊長。」

 凛とした声が冬獅郎を呼び止めた。

「卯ノ花隊長。」
「同じ隊長になられたのですから、隊長はとっても構いませんよ。」
「……何故、俺を呼び止めたんです。」
「黒崎さんとはよくお茶をご一緒にしていたんですよ。」

 唐突に卯ノ花がそんな事を言い始め、冬獅郎は怪訝な表情を浮かべた。

「黒崎さんはよく貴方の事を話していましたよ。………何年か前、彼女はこう漏らした事があるんです。」
「……。」

 いったい一護は卯ノ花に何を漏らしたのか分からず、冬獅郎は眉間に皺を寄せた。

「『いつか、オレは冬獅郎の前からいなくなる日がくるかもしれない。
 その時、あいつはちゃんと生きていてくれるのか……。もし、オレが殺されて復讐を企てようとするんなら、卯ノ花さん、どうか、あいつを止めてください。』と。」
「あいつが…そんな事を……。」
「はい、そして、こうも言っておりました。『もし、オレが先に逝くのならこう伝えてください。「冬獅郎、愛している。だけど、お前はオレを忘れて幸せになってくれ。」』と。」
「――っ!」
「日番谷隊長は如何なされます?」

 卯ノ花は微笑んでいるが、その目は笑っていなかった。もし、冬獅郎が馬鹿な事を言えば彼女の斬魄刀が閃くだろう。

「俺はあいつを忘れるなんて出来ないだろう。」
「……。」
「俺は生涯あいつだけしか愛せない…いや、あいつしか愛したくないんだ。」
「日番谷隊長。」
「卯ノ花隊長。ありがとう。」
「いえ。」

 卯ノ花は本当に無力の自分を悔いていたので、冬獅郎の言葉を本気で否定した。

「私は何もしておりません。」
「あいつが遺言を残すはずがない、と思っていたが…まさか、こんな形で聞くとはな……。」

 確かに一護は遺言など書かないだろう、だから、自分の中で信頼できる人物に言葉を預けたのだ。そして、彼女の読みどおり、その言葉は冬獅郎の元に届いた。

「形に残せば…、俺がそれを大事に抱えるだろう。それを知っているからあいつはこんな形を残したんだろうな。」
「……。」

 冬獅郎は青く澄んだ空を見た。

「日番谷……隊長ですか?」

 凛とした女性が冬獅郎に話しかけてきた。

「……松本副隊長。」

 冬獅郎が振り返ると、そこには元上司だった女性がそこにいた。

「お話はお聞きしました。」
「そうか。」
「それでは私は行きますわね。」
「ああ、本当にありがとう、卯ノ花。」
「いいえ、私は何もしておりません、あの方がすでに用意していたものをお伝えしただけです。」

 卯ノ花がいなくなり、冬獅郎は部下になった松本乱菊を一瞥した。

「すまないな、こんな餓鬼で。」
「いいえ、貴方が頑張っていたのは皆知っていますから。」
「……。」

 自分が頑張ってきた理由が不謹慎なので、冬獅郎は純粋な目を向ける乱菊に対し少々居心地が悪く感じた。

「知っていますよ。一護…、あの子のために隊長頑張っていたんですものね。」
「……知っていたのか。」
「有名でしたから。」

 そう冬獅郎と一護の関係は護廷の内では有名な話で、その中心の人物である冬獅郎も一護それぞれ魅力的で多くの人間が彼らに告白をしたが、二人は決して受けようとしなかった。それでも、その人たちを無碍にせず、そして、互いを互いに想いあっている姿に誰もが憧れていたのだ。

「素晴らしい事だと思いますよ。」
「……隊長としては失格だろう、ただ一人の人物の為にこの力を振るいたいなんてな。」
「…隊長。」
「すまないな、松本副隊長。」
「……。」
「こんな上司で。」
「いいえ、謝るのはあたしの方ですよ。」

 彼女が謝る理由が分からず、冬獅郎は眉間に皺を寄せると、乱菊は遠い目をしながら呟いた。

「一護を傷つけたのはあたしの幼馴染の市丸ギンですから。」
「……。」

 確かに乱菊と市丸ギンは幼馴染だとは知っていたが、それでも何で乱菊が謝るのかその理由が分からなかった。

「あたしがあいつの真意に気づいていたら、きっとこんな事にならなかった。」
「……。」
「あたしがしっかりあいつを見ていれば…あの子は、一護は死ななかったのに……。」

 自分を責める乱菊に冬獅郎は何も言えなかった。もしここで慰めの言葉を言っても彼女は決して受け止めないだろう。
 それは冬獅郎も同じでもし自分があの時、一護の現世行きを止めていれば、せめて何かお守りを渡していたらと思うが、それは不可能な事だっただろう。

「松本。」
「はい。」
「過去を悔やむな、未来を見ろ。」

 自分に言い聞かすように冬獅郎は口を開く。

「あいつは決してお前や俺を恨まない。それは俺たちが自分を責めるのを知っているからだ。」
「隊長…。」
「自分を責めてもあいつは帰ってこないし、それにあいつが傷つくだけなんだ。」
「はい…。」
「ついて来い、松本、一護を殺った、あいつらに制裁を下すために。」
「はい。」

 乱菊は小さな、だけど、器の大きな隊長の後についていった。

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あきゅろす。
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