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二つの魂

 丁度冬獅郎は一番隊に呼ばれていた。

「何で、八番隊長と十三番隊長がいるんですか。」
「酷い言われようだね。」
「まあまあ、そうだ、お菓子はいるか?」

 冬獅郎の言葉に傷付く事なく、二人はニコニコと微笑んでいるものだから、彼は眉間に皺を寄せた。

「いりません、と言うか、何で俺が呼ばれたのですか?」
「それはじゃな――。」

 山本元柳斎重國の言葉が丁度冬獅郎が持ち歩いていた、伝令神機によって、遮られた。

「すみません。」

 冬獅郎はそれを切ろうとしたが、画面を見て、思わず通話ボタンを押し、他の者にも聞こえるようにそのボタンを押した。

『何で、あんたがこんな場所にいるんだ。』
『君を始末するためだよ。』
「えっ、この声……。」
「確か先生の隊の子の。」
「黒崎一護じゃな。」

 伝令神機から漏れる声に三人は驚くが、冬獅郎はもう一人の声の方に殺気を覚えた。

『……五番隊長さんが、何でこんな十席を殺そうとするんだ。』
『君はもう既に、卍解を会得しているからね。』
『……。』

 聞こえる声が尋常じゃないものだから、四人は真剣にその声に耳を傾けた。

『それじゃ、遠慮なく行くぜ。』
『やれるかな?』
『やってやるさ、卍解…っ!天鎖斬月っ!』
「どう言う事じゃ、日番谷。」

 何故自分たちにコレを聞かせるのかと山本は冬獅郎を睨んだ。

「黒崎は…一護は決して個人的な理由で俺に連絡を取りません、勿論、俺も、互いに何かあった時の為に持ち歩いているんです、それを伝えるために。」
「成程…、だが、信じられない。」

 頷く浮竹に冬獅郎は睨んだ。

「あいつを疑うのか。」
「いや、そうじゃないが……。」
「まあまあ、日番谷くん、霊圧を抑えて。」

 仲介する京楽に冬獅郎は一瞥し、すぐに、伝令神機に耳を傾けた。

『それが君の卍解か。』
『ああ。』
『甘いね。』
『――っ!』
『月牙天衝っ!』
『なっ!』
『射殺せ、神槍。』
『なっ!』

 冬獅郎は爪を食い込ませ、己を律する。そうでもしないと、気が狂いそうになるのだ。

『お前は…市丸…ギン……。』
『藍染隊長も苦戦しているようですね。』
『ギン、楽しんでいたのに何を勝手に、手を出しているんだい?』
『おやおや、すみませんね。』
『まぁ、いい、もう飽きた所だしね。』

 冬獅郎はこれ以上持っていれば伝令神機が壊れてしまうと思い、それを床に置くと、ギリギリと奥歯を噛みしめる。

『どこ――っ!』

 一護のその言葉の後に肉を断つ音が聞こえ、浮竹は思わず顔を背け、京楽は痛々しそうな顔をした。

『……う…そ…だろ。』
『ほんま、手加減なしやね。』
『さて、帰るとするか……。』
『ま…て……。』
『おや、まだ生きていたのか、手加減は難しいね。』
『まあまあ、藍染隊長、冥土の土産に教えてもいいんじゃありません?』
『そうだね。』

 クスクスと笑う藍染の声に冬獅郎の霊圧が異常に跳ね上がり、山本は周りを巻き込まないように結界を張った。

『それにしても、死に損ないにこんな力があるなんてね。』
『だれが…しに…そないだ……。』
『君は世界を統べたいと思わないかい?』
『なっ……。』

 山本の眉がピクリと動き、そして、次の一護の言葉はこの場にいる全員が思っていた事を口にした。

『なんで…たいちょう……のくせに……そんな…ことを……。』
『この世界が腐っているからだ。』
『……くさって…なんか……。』
『さあ、もうお喋りは終わりだ、その出血じゃ、もう助からないね。じゃあ、さようなら誇り高い黒崎一護。』
『………とう…し…ろう……ごめん……。』
「――っ!」

 冬獅郎の動揺が高まり、思わず、室内を氷付けにした。

「……先生。」
「山爺。」
「うむ、黒崎一護の命は無駄にはせぬ、緊急の隊主会じゃ。」
「日番谷くん大丈夫かい?」

 心配する京楽に冬獅郎は血が滲むほど唇を噛んだ。

「先生…。」
「うむ、こんな時に主に言うのは申し訳ないが、本日主を呼び出したのは主を空席である十番隊隊長を務めてもらうために呼んだのじゃ。」
「……。」

 冬獅郎はその名にあるように獅子の如く激しい目で山本を睨んだ。

「引き受けてもらうしかないのじゃ。」
「……。」
「分かっておろう。」

 冬獅郎だって山本が急かす理由を理解している、何せ今回謀反を起そうとしているのは三番隊と五番隊の隊長なのだから。
 それらに対抗するために出来れば、隊長格の空席を避けておきたかったのだ。

「本当は君の恋人である一護くんに、俺の副隊長を務めてもらうつもりだったのだが……。」
「……分かった、引き受ける……。」

 冬獅郎の返事に山本は微かに張っていた気を緩めた。

「ただし、一つ頼みがある。」
「何じゃ?」
「藍染は俺が討つ。」
「……。」

 まだまだ発展途上のこの少年がずっと隊長を務めていたあの男に勝てるとは正直山本は思っていなかった。

「……敵討ちか?」
「……違う、ただ単に俺の怒りだ。」
「それならば、認めん。」

 山本の言葉に冬獅郎は黙り込んだ。

「………何故だ。」
「お主は今怒りによってその目が曇っている。お主の力は藍染には勝てぬ。」
「……分かっている。」
「それならば、何故命を捨てるような真似をする。」

 冬獅郎はギリギリと唇をかんだ。

「あいつを失って、俺の世界はもう閉ざされた。」

 一隊の隊長になる男とは思えない言葉に、山本や京楽、浮竹は顔を曇らせるが、冬獅郎の次の言葉を聴き、彼らは貴重な人材を失った事に気づかされる。

「だけど…あいつがこの世界と現世を守ろうと、仲間を守ろうと頑張ってきた、だから、俺はあいつの後を追えない…。」

 一護がどんなにこの尸魂界を愛していたのか知っている冬獅郎は顔を上げた。

「もし、そうすれば、あいつは無理やりでも引き返せ、とか言うからな、だから、俺は俺の役目を果たすまではあいつの後を追えない。」
「そうか。」
「すみませんでした、総隊長。」

 頭を下げる冬獅郎に山本と浮竹は表情を和らげるが、ただ一人京楽だけはまだ厳しい顔をしていた。

「君自身はそれでいいのかい?」
「……どういう意味だ。」
「それは彼女、一護ちゃんの意思であって、君自身の意思じゃない。」
「……ふっ。」

 冬獅郎は口元を歪めたとたん、声を出して笑い出した。

「……。」

 氷のようなと評される少年が狂ったように笑い始め、三人は固まった。

「俺はあいつが守りたいものは守る、それが俺の意思だ。だから、あいつが残したこの世界をあいつが守りたいのなら、守るし、壊して欲しかったら、壊しているさ。」
「……君は。」
「あいつは俺の光だった。ずっと、俺が尸魂界に来てから、ずっと俺はこの容姿や性格で疎まれていた。だけど、あいつは真央霊術院に入ってすぐから俺に声を掛けてきた。」
「……。」
「本当に、あの馬鹿は……。」

 寂しげに微笑む冬獅郎に三人は黙り込むしか出来なかった。

「…俺はあいつが愛したこの世界を守る、そのために隊長になっても構わない。だけど、藍染だけは絶対に俺の手で……。」

 そう決意する冬獅郎を止める人はここにはいなかった。それほど、彼の気迫は三人を押していたのだった。

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あきゅろす。
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