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白をはためかせて

「やばいな……。」

 一護は建物に凭れ掛かり、眉間に皺を寄せた。

「まさか、あんな事になるなんて……。」

 少し家を空けていただけなのに、虚がその家を襲うとは思ってもみなかった。

「……しかも、近くに死神の霊圧があれば親父も死神化できなかったし……。最悪な事態になりそうだな……。」

 一護は手首につけてある翡翠色の組み紐を見た。

「冬獅郎…悪い……。」

 本来ならもっと別の作戦で今回の首謀者を捕らえるつもりだったが、今回の事態によって大きく変更になった。

「取り敢えず、浦原さんと夜一さんにこの事を伝えて……。あーっ!クソっ!やる事が山積みじゃねぇかっ!」

 髪を掻き乱しながら一護はジロリと空を睨んだ。

「夏梨と遊子にも十分に気を配って、そんでもって、平子たちにも何とか連絡を取らねぇと…。それにしても……、これもあいつの仕業かよ。」

 まさか結界を張っていた自分の家に虚が入り込むとは予想外だった。だが、そのお陰で今回の事態は人為的なものだと知る事が出来たのだが…。

「一護。」

 低い位置から声が聞こえ、下を向くと黒猫が一匹いた。

「夜一さん、丁度よかった。」
「分かっておる、面倒な事になったな。」
「ああ。だが、お陰であいつがルキアつー、朽木家の養子の少女の中に埋め込む予定の崩玉が目的なのははっきりしたな。」
「そうじゃな。」
「それにしても、どうやって動くか……。」

 本来ならルキアに接触するのは一護のはずだった、しかし、今回の事態で一護は表に出る事が出来なくなってしまった。

「仕方ないな…。」
「どうするつもりじゃ?」
「オレの学校に滅却師や丁度覚醒前の特殊な力を持った奴らがいるから、そいつらと遊子たちに接触させる。」
「……。」
「本当はこんな事をしたくはなかったんだが、流石にオレの妹だけで動かすのは怖いし…、使えるものは使うしかないだろうな……。」
「…一護…。」

 本来の彼女なら間違いなく自分が矢面に立って動くのが多い、だけど、今回はその矢面に立つ事さえも許されなかったのだ。
 だから、妹たちを守る為にも彼らの協力が必要とされたのだ。

「あまり自分を責めるな。」

 夜一の言葉に一護は首を横に振った。

「別に自分を責めちゃいないさ、……夜一さん。」
「なんじゃ?」
「遊子、夏梨を頼む。」
「……うむ。」
「オレは表では手助けできないけど、浦原さんや夜一さんは違うから。」
「分かった。お主の気持ちに応えるように努力しよう。」
「サンキュー。」

 ようやく一護は微笑んだ、だけど、彼女本来の太陽のような笑みではなくどこか翳ったような笑みだった。

「……そう心配せんでいい。お主の妹はそんなに柔な娘じゃなかろう。」
「まあな、なんたってオレの妹だからな。」

 夜一の言葉に一護は口元に笑みを浮かべた。

「でも、出来るだけあいつらには傷ついて欲しくはなかったんだがな。」
「仕方なかろう…思ったよりもあの男はこちらの事を知っておるのだろう。」
「やっぱり…。あいつらが真血だから、狙われたんだろうな。」
「そう考えるのが妥当じゃな。」

 夜一も一護の意見には同意の言葉を言った。

「くそ……、もっと注意しとけばよかった。」
「一護…。」

 何度悔やんでも悔やみきれない、自分よりもはるかに弱い少女たちに背負わせる重荷が正直歯がゆかった。

「……夜一さん。」
「何じゃ、すまないが、一度あいつと連絡を取りたい。」
「分かった、喜助ならば、すぐに用意出来るだろう。」
「明日、夜そっちに行くな。」
「今日は良いのか?」
「ああ、今あいつと話したらみっともない姿を晒す事になりそうだからな……。」
「一護。」

 夜一はそっと一護の肩に乗った。

「お主は背負いすぎじゃ。」
「ははは、あいつにもよく言われた……懐かしいな。」

 たった十五年、死神になってから千年以上生きてきた一護にとって十五年などあっという間のはずなのに、何故だか、百年以上たったようなそんな錯覚を覚えた。

「そう遠くないのにな……。」

 一護の呟きを夜一は技と聞かなかった振りをした。

「それじゃ、一護、明日の夜にな。」
「ああ、また明日。」

 一護は地面を蹴り、自宅の方に足を向けた。

「偶にはわしらを頼ればよかろうに……。」

 夜一は去った一護の背を見ながらそう呟く。

「あやつを支えるのはあの青年だけかの……。」

 夜一はそう言い残すと、闇に紛れていなくなった。

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