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白をはためかせて

 一護はその日、義魂丸に体を預け、少し遠くの虚を倒しに行っていた。
 その時、黒崎家ではこんな事が起こっていた。

「近い…。」
「何が近いじゃっ!」
「夏梨ちゃん。」

 突然壁から現れた少女に夏梨は蹴りを入れ、その少女は目を白黒させていた。

「なっ…貴様、見えているのか?」
「はっ、何言っているんだ、このこそ泥。」
「こ、こそ泥だと。」
「夏梨ちゃん。」
「遊子、黙ってろ。」
「で、でも、変な声が聞こえたよ。」
「声だと?」
「……。」

 首を傾げる少女と、何かが聞こえたのか険しい顔をする夏梨がいた。

「何も聞こえぬ――。」

 少女の声を妨げるように何かの遠吠えのような声が聞こえ、夏梨と遊子は互いの顔を見合わせ、部屋から飛び出した。

「お父さんっ!」
「一姉っ!」
「ま、待て、貴様らっ!」

 駆け出す二人を止めようとするが、夏梨と遊子の方が早かった。
 階下に辿り着いた二人が見た者は血塗れの父親と姉の姿だった。

「親父っ!」
「お姉ちゃん。」
「危ないっ!」

 二人を助けるために少女は己の体を犠牲にした。

「ぐっ!」
「あっ!」
「――っ!」

 化け物の腕によって少女は外へと弾き飛ばされ、夏梨と遊子はすぐさま少女の側まで駆け寄った。

「大丈夫かっ!」
「…貴様ら…こそ…怪我は……。」
「無理しないでっ!」

 遊子がそう悲鳴に近い声を上げる中、夏梨は化け物を睨んでいた。

「何なんだよ、あいつは……。」
「あれは…虚だ…。」
「ホロウ?」
「ああ、あれは貴様らの知っている言葉で言えば悪霊と呼ばれるものだ。」
「……。」
「それを退治するのが、我ら死神の仕事だ。」

 少女が体を起こそうとするが、先ほど食らった攻撃が思ったよりも強烈だったのか、彼女は顔を顰める。

「駄目だよっ!」
「………だが。」
「遊子の言うとおり、無茶はするなよ。」

 夏梨は横目で少女を見て、顔を顰める。

「どうすればいいんだ……。」
「一つだけ…。」

 少女は痛みで顔を顰めながら、口を開く。

「方法がある。」
「本当っ!」

 遊子はすがるような思いで少女の黒い着物の袖を掴んだ。

「わたしの斬魄刀…この刀で胸を貫け。」
「「――っ!」」

 二人は同時に目を剥き、少女をまじまじと見た。

「貴様らのどちらかが、死神となればあの虚を退治する事が可能なのだ……。」
「どちらか、じゃないと駄目なのか?」
「……夏梨ちゃん。わたしが。」
「駄目だ、あんたにやらせるくらいなら、あたしがっ!」
「貴様ら…。」

 少女が二人の間に割り込もうとした瞬間、痺れを切らした虚が鳴いた。

「――っ!」
「夏梨ちゃん。」
「おい、死神っ!」

 夏梨は少女を睨み、そして、彼女の胸倉を掴んだ。

「あたしたちは双子だ、だから、どちらかが欠けても駄目なんだ。」
「……言っておくが、誰でも死神になれる訳ではない…霊力の強いものならば、辛うじてなれるかもしれないという、確率なのだ。」
「…それなら、あたしがなる。」
「夏梨ちゃん。」
「遊子とあたしだったら、あたしの方が強い。」

 少女はそう言い切った夏梨に己の刀を差し出した。

「これを胸に。」
「ああ。」
「……。」
「なあ、死神。」
「死神じゃない、朽木ルキアだ。小娘。」
「小娘じゃない、黒崎夏梨だ。」
「わたしは黒崎遊子。」
「互いの健闘を祈ろう。」
「ああ。」

 そう言った瞬間、夏梨は斬魄刀を胸に突き刺し、そして、夏梨の体から光が発した。

「おい、化け物。」

 夏梨は腰に刀を佩き、黒い単に黒い袴を穿いた死覇装に身を包んでいた。

「よくも家の家族に手を出しやがったな。」

 夏梨は腰に佩いた刀を抜く。

「絶対に許さないっ!」

 夏梨は地面を蹴り、一気に虚を切り捨てた。

「見事だ。」
「夏梨ちゃん。」
「なあ、ルキ姉。」
「ルキ姉?」

 聞きなれない呼び名にルキアは小首を傾げた。

「ああ、悪い、何と言うか、苗字で呼ぶのはあんまり好きじゃないし、ルキアと呼ぶのも慣れなれいいから。」
「「ちゃん」付けは?」
「あたしが「ちゃん」は変だろう?」
「そうかな?」
「そうなの、で、あたしは姉の事を一姉と呼んでいるからルキ姉ってしたんだけど、やっぱり変かな?」
「いや、わたしは構わぬが、貴様はいいのか?」
「抵抗があるんなら別の呼び方をもうしているさ。」
「そうか。」

 ルキアは疲れがどっときたのか目を瞑った。

「ごめん。」
「何だ、急に。」

 急に謝った夏梨にルキアは首を傾げた。

「あたしあんたの力の殆どを奪ってしまったよな。」

 夏梨の言葉にルキアは本気で驚いた、まさか、こんな自分にしたら赤子同然の年月しか生きていない少女に自分の事を悟られたのだから。

「ごめん。」
「貴様の所為じゃない。」
「だが……。」
「わたしが好きでやった事だ、じきに力を取り戻すさ。」
「でも……。」

 夏梨は責任を感じているのか、俯いて刀を握っていない拳を震わせた。

「…夏梨ちゃんっ!」
「何だよ、遊子。」
「わたしたちがこの人の代わりをすればいいんだよ。」
「えっ。」
「……。」

 遊子の言葉を純粋に二人は驚くが、彼女は気づいていないのかそのまま言葉を紡ぎ続ける。

「ルキアちゃん、ルキアちゃんの仕事はさっきの化け物を倒すのが仕事なんだよね?」
「ああ、そうだが…。」
「それで、ルキアちゃんは夏梨ちゃんに力をすべて渡しちゃった。」
「……。」
「それなら、やっぱりわたしたちが手伝いすべきだよ。」
「遊子。」

 何処となく低い声を出す夏梨に遊子はニッコリと微笑んだ。

「何?」
「あんたはこんな事をしなくてもいいの。あんたには何もないだろ?」
「うん、ないね。でも、わたしと夏梨ちゃんは双子なんだよ?」
「……それが?」
「ルキアちゃんから力をもらえたんなら、夏梨ちゃんの力の半分をわたしに頂戴。」
「「――っ!」」

 遊子の言葉にルキアと夏梨は大きく目を見張った。

「何冗談言っているんだよ…。」
「冗談じゃないよ?」
「……遊子…わたしの話を聞いていたのか?」
「失敗する可能性なら、大丈夫だよ。わたしと夏梨ちゃんは二人で一人だよ?大丈夫、絶対に。」

 何を根拠にしてそんな事を言っているのだと二人は思ったが、遊子が譲る気がないのを悟り、どうしようかと頭を捻る。

「命を落とす行為なのだぞ。」
「分かっているよ、だけど、大丈夫。」
「……。」
「……分かったよ。」

 夏梨はこれ以上遊子が譲らないと知っているので、気持ちを切り替えた。

「ほら。」

 刀を遊子に差出し、遊子は躊躇もなく胸にその刃を沈めた。

「――っ!」
「……。」

 遊子の体が先ほどの夏梨と同様に光、そして、その光が引いたら彼女は夏梨と同じ死覇装を纏っていた。

「やった〜っ!」
「…本当になったのか。」
「遊子、これは遊びじゃないんだから浮かれるんじゃないよ。」
「分かってるって、夏梨ちゃん。」
「……。」

 本当に遊子が理解しているのか夏梨は怪しく思ったが、それでも、遊子も無事に死神になれた事が少しホッとした。

「ルキアちゃん。」
「何だ?」
「ありがとう、そして、ごめんね。」

 急に感謝の言葉と謝罪の言葉を言った遊子にルキアは首を傾げた。

「何がだ?」
「わたしたちを助けてくれた事と、力を奪っちゃった事。」

 しゅんとしおれたような笑みを浮かべる遊子にルキアはこの子たちは聡いのだと悟った。

「謝る必要はない。」
「でも…。」
「わたしはこの選択をしたのだ。だから、謝る必要はない。」
「…そうだよ、遊子、これ以上謝ったらルキ姉に失礼だよ。」
「夏梨ちゃん…。」

 腕を組んでいる夏梨に遊子は何か言いたそうな顔をする。

「ルキ姉、これからよろしくな。」
「こちらこそ、頼むぞ。」
「ああ。」
「……頑張るからね。」

 こうして死神代行の二人が誕生した。この時、ルキアたちが感知できない場所でこれを一部始終見ている人物がいた事に三人は気づいていなかった。
 その人物は悲しげな表情を浮かべ、姿を消した。

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