白をはためかせて
2
「い〜ち〜ご〜っ!」
「うざい、おやじ。」
トテトテと三歳の少年に間違えそうな少女が横にいる黒鬚の親父、黒崎一心を睨んだ。
「はやく、こい。」
「う〜、娘が冷たい。」
「……は〜、こんなのが、おれのまえのたいちょうかよ……。」
一護は心底嫌そうな顔をしながら、目的の場所まで急ぐ。
「一護〜、そんなに急がなくても。」
「うっぜーっ!」
あまりにもグダグダとする一心に一護はとうとう切れた。
「もう、しらねぇっ!」
「あ〜、待て一護っ!」
さっさと走り去る、一護に一心は追いかける。
一護は浦原商店と書かれた看板を睨み、そして、中からかなり難いのいい男が現れ、一護を見下ろす。
「おやおや、お客人ですか?」
「テッサイさんどうしたんすか〜?」
「おい、喜助、話は終っておらんぞ。」
さらに下駄を履き、帽子を被った男と一匹の黒猫が姿を見せた。
「ふ〜ん、こいつらか。」
「一護〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
勢いよく突っ込んできた一心に一護はひょいと避け、一心はテッサイと呼ばれた男に突っ込んで行った。
「ばか。」
「お久し振りでございます、一心殿。」
「うぎゃあああああああああああああああっ!」
テッサイとぶつかった一心はこの世のものとは思えない程の叫び声を響かせた。
「はー、ここに、しほういんよるいち、と、うらはらきすけ、がいるときいたが、おまえらか?」
「おやおや、今の小さなお子さんはこんなにも達者に喋るのでしょうか?」
「そんなわけあるか。」
「……お主は一体何者だ?」
「さすがは、しほういんけのひめ、だな。」
「――っ!」
「何故その事を…。」
一護の言葉に黒猫と下駄帽子が驚く。
「なかにいれてくれ、だれにもきかれたくない、はなしだ。」
「……。」
「訳ありなんですね。」
「てめぇらもだろ。」
小さな子どもにしか見えない一護に猫と下駄帽子は互いに顔を見合わせ、一護を中に案内し、気絶した一心はテッサイが中へと引きずりながら連れてきてくれた。
「どうぞ、粗茶ですが。」
「ありがとう。」
座布団にすわり、茶をすする一護は真剣な目で二人を見た。
「おまえらはれいばんたいをしっているか?」
「ええ、と言いたいですが、名前だけお聞きしましたね。」
「わしもじゃ。」
「おれはそこのたいちょうだ。」
「はっ?」
「……。」
この幼い子どもは唐突に何を言い出すのかと、目を丸くさせる二人に一護は溜息を吐いた。
「しゃーねーな。」
一護はポケットに手を突っ込み、そこから一見すると飴のように見える緑色の義魂丸を取り出した。
それを凝視している黒猫と下駄帽子に見せながら一護はそれを飲み込んだ。
刹那、音を立て、幼い少女の近くに十五、六の少女がそこにいた。
「これが本当の姿で、ついでに千年以上は生きている。」
「……真にか。」
「ちょっと待ってください、何故…その義骸はそんなに幼い体を……。」
「こいつは特殊な義骸で、成長するんだ。」
「何と。」
科学者の血が疼くのか下駄帽子は質問を繰り返そうとするが、唐突に現れた褐色の肌を持つ美女に頭を叩かれた。
「喜助、その辺にしとけ。」
「ですが、夜一さん。」
一護は溜息を一つ吐き、すぐに幼い体に入り込む。
「そのへんに、しとけ。」
「もうお戻りになるんですか?」
「ああ、おれのれいあつは、げんせには、どくだからな。」
「……。」
下駄帽子と美女が顔を見合わせる中、一護は自分が何故このような姿でこの場にいるのか説明した。
「――って訳だ。」
「何とも……。」
「最悪じゃな。」
全て話し終えた一護に二人は渋面を作る。
「しかたないが、ぜんぶ、ほんとうのことだ。」
「……。」
「お主はワシらの事を何処まで知っている。」
「あいぜん、というこんかいの、しゅぼうしゃの、わなにはまった。」
「……何故、このような回りくどい事を。」
「しかたないことだ、むこうでは、そのしょうこを、あつめられない、いくら、ゆうしゅうなやつを、むかわせても、しっぽをみせないんだ。」
「つまりは、無理矢理でも事件を起こすのですか?」
「ああ、ついでに、おまえのつくった、ほうぎょく、をみにきた。」
「…ですが、アレは…。」
渋る下駄帽子に一護は溜息を吐く。
「しゃーねーな、んじゃ、おいだされた、たいちょう、ふくたいちょう、とあえるように、とりはかってくれ、ついでに、おれのれいあつが、もれない、ばしょもよういしてくれれば、うれしい。」
「分かりました。」
下駄帽子は頷き、美女は直ぐに猫の姿に戻った。
「それじゃ、ワシはあやつらに話しをつけてくる。」
「よろしくお願いします。」
「うむ、それではな、一護。」
「ああ、またな、よるいちさん。」
珍しくニッコリと微笑む一護に数秒二人は見惚れてしまった。
「どうかしたか?」
「いや、何でも…。」
「天然とは真に、恐ろしいものじゃ。」
「……?」
理解できない一護は小首を傾げた。
もし、ここに副官である冬獅郎がいたならこの二人が見惚れたのだと悟り、美女はともかく、下駄帽子には凍えるような霊圧を浴びせていただろう。
「まぁ、オレがきたりゆうは、それだけだ。ほら、おやじ、かえるぞ。」
父親を蹴飛ばし、一護はそのまま外に向かって歩き出した。
「……夜一さん。」
「なんじゃ。」
「大事に巻き込まれましたね。」
「はっ、何を言っておるお主はそう思っておらぬのに。」
「あはは、やはり分かりますか?」
「無論じゃ。」
「楽しみですね。」
「ああ、あやつがどうなるか、見守っていこうとするかの。」
こうして、一護は現世での協力者を手に入れた。それはまるで運命の歯車の一部分のようで、巻き込み、そして、回っていく。
一護はまだ知らない、その歯車が徐々に大きくなる事に――。
自分だけではなく、その周りまでも巻き込んで大きくなっていく事に――。
運命は回る。
少しずつ……。
そして、それは徐々に大きくなった……。それから、十二年の月日が経ち……。
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