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白をはためかせて

 遊子、夏梨たちが出発する前日、一護は懐かしく、そして、苦い夢を見た。
 夢と言っても、それは現実にあった事で、母親の真咲が死んだ、あの事件の夢だった。
 一護は異様な気配が川原のところから感じ、足を止め、目を凝らすと、少女の姿が見えた。
 だけど、それは虚の作り出した疑似餌。
 一護はこのままあの虚を放っておけば罪ない命が犠牲になると思い、つい自分の今の状態を忘れ、そのまま駆け出した。

「一護っ!」

 一護は霊圧を拳に込めるがそれよりも、早く虚が動く。

「――っ!」

 意外に早い虚に一護は息を呑んだ。

「危ないっ!」

 危険を知らせる声が聞こえ、続いて、肉を断つ音が聞こえたが、一護自身に痛みがなく、代わりに彼女の目に赤い血が花弁のように散った。

「――っ!」

 声にならない悲鳴をあげ、一護は何が起こったのか理解する。
 虚が一護を襲おうとしたのを、母親の真咲がその命で彼女を護ったのだ。
 一護は驚きのあまり、霊圧を爆発させる。
 この時、偶然にも隣町に己の副官がいたのは、本当に偶然だったのだろうか…。

「一護?」

 一護の霊圧に気づいた冬獅郎は瞬歩を使って一護の元に駆けた。
 そして、たどり着いた先に見たものは霊圧を開放している一護の姿であった。

「い、一護っ!」

 冬獅郎は彼女に駆け寄りたかったが、今の彼の霊圧では確実彼女に負けてしまう。

「……。」

 冬獅郎は迷うことなく結界を張った。
 そして、瞬く間に姿を青年の姿に戻す。

「一護っ!」

 青年の姿に戻った彼は霊圧の嵐の中一歩踏み出す。
 霊圧の刃が冬獅郎を傷つける。
 しかし、彼は傷つくことを恐れずに一歩、一歩一護に近づく。

「いち…ご…。」

 手を伸ばす。

「返事を…してくれ。」

 彼女の頬を濡らす涙をその手で拭いたかった。

「一護ぉぉぉぉぉっ!」

 冬獅郎が叫べば弾かれたように一護は顔を上げた。

「………し…ろ?」

 涙をためる瞳にようやく冬獅郎の姿が映し出される。

「一護。」

 手を伸ばされ、一護は無意識に己の力を弱める。
 冬獅郎は一護を抱きしめ、一護はその逞しい腕にすがりつく。

「冬獅郎…冬獅郎…っ!」
「…ああ。」

 己の腕の中で子供のように泣く一護に冬獅郎は愛おしさを感じていた。

「オレ……オレが…母親を殺してしまった…。」
「――っ!」

 一護の言葉に冬獅郎は驚くが幸いにもその動揺は一護に伝わる事がなかった。

「オレが今の自分の力を把握していなかったら、お袋は………。」
「お前の所為じゃない……。」
「う……ああ……。」

 冬獅郎にしがみつくように泣き続ける一護に冬獅郎はどうする事も出来なかった。
 しばらく泣き続ける一護だったが、近づく霊圧を感じ戸惑いの表情を見せる。

「安心しろ俺が何とかする。」

 冬獅郎は一護の頭を軽く撫で、一護は安心したのかニッコリと泣き笑いを浮かべながら意識を閉ざした。

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あきゅろす。
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