白をはためかせて
2
一護は目立たないように十番隊に乗り込んだ。
「…………。」
草むらの影から一護が顔を出し、そして、きょろきょろと周りを見渡していると中から怒声が聞こえた。
「松本〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「すみませーん。」
聞き覚えのある少年の怒声に一護はクスクスと笑いを堪えた。
「乱菊さんも相変わらずだな。」
一護は冬獅郎の声も十分聞けたし、立ち上がろうとした瞬間、こちらに物凄い勢いでやってくる人影を見て慌てて草むらに隠れた。
幸いにも幼い体をしているからか、その人には見つからなかったが、それを追いかける人間には見つかった。
「くそ……どこに逃げやがった……っ!誰だっ!」
一護は物凄く気まずげに顔を上げ、そして、冬獅郎と眼が合った。
「いっ、一護っ!」
「し〜〜〜〜っ、声を抑えて。」
「…お前どうしてこんな所に。」
「…ちょっと寄り道。」
「……。」
呆れる冬獅郎だったが、一護に会えた喜びが大きいので特に叱る事はしない。
「一護、時間はまだあるか?」
「えっ、ああ、あるけど?」
「ならば、少し付き合ってくれ。」
一護は首を傾げながらも、冬獅郎を信頼してか頷いた。
「それじゃ、こっちだ。」
「うん。」
一護は冬獅郎に手を引かれるまま歩き始める。
そして、たどり着いたのはいつかの茶屋だった。
「冬獅郎、何でここなんだ?」
「休憩だ。」
一護はその言葉を聞き、首を傾ける。
「大丈夫なのか?」
「いいんだよ、元々休憩しようと席を立った瞬間、松本が今にもどっかに逃げ出そうとしたから叱っただけだしな。」
「だから、あの怒声が…。」
「………聞いていたのか?」
ばつの悪そうな顔をする冬獅郎に一護はクスクスと笑う。
「あんな大声耳に入るだろう。」
「……お前には聞かれたくなかったな。」
「オレは嬉しいぜ?滅多にこっちの冬獅郎を見れないし、それに、お前が元気な姿を見てホッとした。」
「…。」
冬獅郎はそういえば朽木の妹がこちらの捕らえられたのを今更ながら思い出す。
「向こうで何かあったのか?」
「……。」
冬獅郎の言葉に一護は表情を曇らせた。
「うん、ちょっとな。」
「そうか…。」
「近々こっちにちゃんと来るから…その時は頼んだ。」
「そうか、ようやくなのか。」
「ああ。」
冬獅郎の言葉に一護は頷いた。
「分かった、気を引き締めよう。」
「うん、くれぐれも無茶はしないでくれよ。」
一護の言葉に冬獅郎は苦笑を漏らした。
「無茶をするのはお前の方だろう。」
苦笑いを浮かべる冬獅郎に一護は唇を尖らせる。
「何だよ何かオレがいつも無茶ばかりしているようにしか聞こえねぇ。」
「俺が知らないと思っているのか?」
一護は冬獅郎が何を言っているのか知らず、首を傾げる。
「昔、こっちに来て護廷で始末する虚をやっていただろう。」
「――っ!」
冬獅郎の言葉に一護は大きく眼を見張った。
「な、何でそれを冬獅郎がっ!」
「俺の情報網を舐めるなよ?」
意地悪そうな笑みを浮かべる冬獅郎に一護は肩を落とす。
「絶対知らないと思っていたのに…。」
「残念だったな。」
ニヤリと笑う冬獅郎があまりにも憎たらしく一護は丁度運ばれてきた白玉餡蜜を頬張った。
「おい、一護、そんな急いで食うと…。」
喉につめるぞ。冬獅郎がそう言いかけた瞬間、お約束というか、一護は白玉を喉に詰まらせてしまった。
「い、一護っ!」
苦しげに顔を歪ませる一護に冬獅郎は焦ったような顔をして、そして、自分の前に置いてあった茶の入っている湯飲みを渡した。
「ふっ…ん、助かった。」
「馬鹿野郎、俺の寿命を縮めるきか…。」
「悪い…冬獅郎…。」
冬獅郎は顔を悲しげに歪ませる一護の頭を撫でる。
「頼むから俺の居ないところで死に掛けるなよ。」
「頼まれたって死ぬもんか。」
「ああ。」
黙々と一護が食べ、そして、器の中が半分になった時、一護は口を開いた。
「何でこんな面倒くせぇ事になったんだろうな。」
「一護?」
「表舞台で暴れる事が出来ない、表立って護れない、こんなに辛いものだとは思わなかった。」
今まで好き勝手に動いていたところがある一護は今の状況は正直しんどかった。
「……お前は降りてもいいぞ。」
「えっ?」
驚いて一護は顔を上げ、冬獅郎を見る。
「俺一人でとっ捕まえてもいいんだからな。」
「――っ!駄目だ、主犯を教えていないのに何が出来るって言うんだよ。」
必死な形相をする一護に冬獅郎は眉を寄せる。
「そんなに…主犯が分かりにくいのか?」
「んー…分かりにくい…つーか。腹黒いところを思いっきり隠しているつーか…。」
「……。」
冬獅郎は自分の中で腹黒そうな人物を考える。
「……。」
腹黒いというか、真っ黒いのはある意味四番隊隊長と五番隊の隊長だが、意外な人選でいけばかなり上げられそうだった。
「すげー顔。」
冬獅郎が一護を見れば彼女はクスクスと笑っていた。
「教えてやるのはまた今度、そうだな、こっちにもう一度戻ってきた時にな。」
「一護。」
「それじゃ、オレ行くな。」
あっさりと立ち去ろうとする一護に冬獅郎は引き止めたくなったが、残念ながら何も終わっていないのだ。
「またな、冬獅郎。」
「ああ、またな、一護。」
こうして二人の短い逢瀬は終わったのだった。
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