橙ネコと氷雪の隊長 2 夏梨、遊子は夜一と共に四番隊の廊下を歩いていた。 「残りは十番隊の隊長さんだけだよね?」 「ああ、そのはずだけど。」 「うむ、お主らは確かすでに六番隊と十一番隊の隊長には会っておるからの。」 「本当、剣八には勘弁して欲しいよ。」 「そうだよね、このままじゃ夏梨ちゃんお嫁にいけなくなっちゃうよ。」 「…いや、別に傷を負うのは別に構わないんだけど、あいつと戦うと本当に命がけだからそう毎回、毎回戦いたくないじゃん。」 夏梨の言葉に遊子は頷き、ふっと前を見ていると金髪の綺麗な女性がいた。 「うわっ、綺麗な人。」 「……まあ、美人だとあたしも思うけど…あの服は規定内なの?」 「うむ、結構融通は女性死神に対しては利いておるの。」 「そうなんだ…あれ、ありなんだ。」 胸元を強調させるように袂を寛がせた美女に夏梨は苦笑する。 「あら、あんたたち確か旅禍の。」 美女がこちらに気づいたのか、立ち止まり、夏梨と遊子、夜一を見た。 「黒崎遊子です。よろしくお願いします。」 「黒崎夏梨です。」 「十番隊副隊長の松本乱菊よ。」 「十番隊の副隊長さんですか?」 「丁度良かった。十番隊の隊長さんに会おうと思って来たんです。」 「あら、そうなの?」 首を傾げる乱菊に夏梨と遊子は頷いた。 「「はい。」」 「それじゃ、案内するわね。」 「ありがとうございます。」 「ねぇねぇ、十番隊の隊長さんってどんなの?白哉みたいに規律に煩いとか?」 「そうね、規律は煩いところもあるけど、臨機応変ね。」 「へぇー。そんな人だろう。」 遊子は首を傾げると、夏梨は別にどんな奴でもいいじゃないかと、肩を竦めた。 「そうね、うちの隊長はあんたたちとどっこいの身長ね。」 「へ?」 「…って、あたしらと同じって…。」 「あら?知らない、うちの隊長は神童とか天才児とか言われているのよ。」 「……知らなかった。」 「仲良くなれるといいね。」 双子なのに全く異なる反応をする二人に乱菊はこっそりと笑う。 「ああ、ここよ、隊長の病室。」 危うく通り過ぎるところだった三名と一匹は中から聞こえてくる話し声に首を傾げた。 『冬獅郎、これからどうする?』 『そうだな…。』 「……先客がいるんだね。」 「そうだね、夏梨ちゃんどうする?」 「大丈夫よ。」 「えっ?」 乱菊は何の躊躇も無くドアを開けた。 「隊長〜〜〜、女の子なんて連れ込んでどうしたんですか〜〜〜〜〜〜っ!」 乱菊の行動に遊子と夏梨だけでなく夜一も絶句した。 「松本っ!人の病室に入るのならノックくらいしろ。」 「いいじゃないですか、あれ?さっき声がしたのに……?」 乱菊は冬獅郎の他に人影がない事を不審に思ったのか顔を顰めている。 「てめぇら、こそで突っ立ってるくらいなら中に入れ。」 冬獅郎はもう諦めたのか、いまだ廊下に居た遊子、夏梨、夜一を招いた。 「お邪魔します。」 「あんたが、十番隊隊長?」 「そうだ、お前らは旅禍だったな。」 「黒崎遊子です。」 「あたしは黒崎夏梨、で、こっちの猫が四楓院夜一さん。」 「……。」 夜一はその目を見開き、冬獅郎のベッドの上に居る一匹の猫を見ていた。 「お主…一護か?」 夜一の言葉に遊子と夏梨は怪訝な顔をするが、一護を知っている冬獅郎と乱菊は夜一と一護がどういう接点があるのかと首を傾げていた。 一護は声がする方に顔を向け、そして、その目を大きく見開かせて、思わず声を出した。 「夜一さんっ!」 「「「――っ!」」」 「……。」 思わず声を出した一護に遊子、夏梨、乱菊は驚く中、一護が喋れる事を知っている冬獅郎は額を押さえた。 「あっ……。」 冬獅郎の姿を見た一護は自分がやってしまった事を悟り、罰が悪そうな顔をした。 「…うわぁ、夜一さん以外の猫さんでもお喋りできるんだ。」 「…というか、もしかして、尸魂界の猫は全部喋るとかそういう落ちないよな。」 何とも順応能力が高い二人はそれぞれの感想を漏らし、ただ一人驚いたままの乱菊は冬獅郎に詰め寄った。 「隊長っ!どういう事ですかっ!」 「……。」 冬獅郎は無言で一護を見て、一護は苦笑を浮かべながら乱菊に話しかける。 「乱菊さんオレから説明するな。」 「一護…、あんたいつから喋れるのよ。」 「んー、そうだな、オレが生きていた時から、そこの夜一さんに教えてもらったんだ。」 「…そうなの?」 乱菊は夜一に訊くと、彼女は首肯した。 「なぁ、冬獅郎、ここまでばれたんだ、全部ばらすか?」 「そうだな、隠していても後々面倒だしな。」 「あんた、まだ何か隠しているの?」 「うーん、隠している、つーか、黙ってた、つーか。」 「……。」 一護の言いたい意味が分からない乱菊は顔を顰める。 「まあ、見たら早いな。」 一護はそう言うと、冬獅郎から毛布を貰い床の上に広げるようにして置き、その中にもぐりこんだ。 刹那、一護が入った毛布からオレンジ色の髪をした一人の女性が現れた。 「――っ!」 猫が人間になれるとは想像もしていなかった乱菊は絶句した。 「まあ、こういう訳です、因みに、何度かお会いしましたよ、松本副隊長。」 一護がわざとそう言うと、乱菊はすぐに、前に書類整理を手伝ってくれたあの臨時の少女を思い出した。 「まさか、あの時の?」 「うん、あの時は黒いかつらを被っていたからな。」 「ねぇねぇ。」 遊子は目を輝かせ、一護の側にやってくる。 「ん?」 「お姉さんは人間なの?猫なの?」 「こら、遊子。」 目を輝かせて訊ねる遊子に夏梨は嗜めるが、一護は笑みを浮かべその柔らかい髪を撫でた。 「オレは猫だな。」 「そうなんだ。」 「ああ、オレは冬獅郎と再会したいが為に、夜一さんから人になる方法とか、人の言葉を喋れる方法とか学んだんだ。」 「へー、猫でもそんな事が出来るんだ。」 「いや、そやつが特別なのじゃ。」 「そうかな?」 夜一の言葉に一護は首を傾げた。 「そうじゃ、猫でも人間でもお主のような稀有な霊圧の持ち主はおらぬし、並々ならぬ努力をしたのはお主だけじゃ。」 「…一体どんな事をやったんだよ。」 呆れる夏梨はふと一護の顔色が悪くなっていく事に気づく。 「どうしたの?」 「……冬獅郎、猫に戻るか?それとも……。」 「松本にばれた時点でもうすでに尸魂界に知れ渡ったのと同じだからな、代えの死覇装に着替えろ。」 「うん。」 一護は頷くと、毛布で体を隠したままロッカーに仕舞っている死覇装に着替え始める。 「隊長、どうかされたんですか?」 「……すぐに分かる。」 完全に疲弊しきっている冬獅郎に一護以外の残りの面々は首を傾げた。 [*前へ][次へ#] |