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橙ネコと氷雪の隊長

 一護はじっと息を殺し、桃の牢にいた。
 不幸か、幸いか落ち込んでいる桃は一護の存在に気づかない。
 そして、とうとう一護が恐れている事が起こった。
 あの時冬獅郎に渡した手紙と同じ手紙を十番隊ではない隊士が桃に持ってきたのだ。

(……。)

 一護は桃が余計な事を考えなければいい、と思ったが、彼女の中の藍染に対する敬愛は一護の想像よりも強かったのか、彼女は牢屋を破った。
 一護は渋い表情を浮かべ、桃を追った。
 彼女はすぐさまぶつかる二つの霊圧の元に向かった。
 一護は物凄く嫌な予感を覚えた。
 ぶつかる霊圧は二つとも知っている、一つは三番隊の飄々とした隊長のもの、もう一つは一護の愛するもの十番隊長を務める彼のものだった。
 前を走る桃を見ながら一護は顔を歪ませた。

「雛森、来るな、こいつは――。」

 冬獅郎は桃が市丸を追いかけてきたのだと思ったのだろう、しかし、桃の刃は冬獅郎に向けられる。

「雛…森…?」

 驚く冬獅郎だったが、すぐにあの手紙を思い出し、唇を噛んだ。
 冬獅郎は桃の刃を避ける、そして、やりたくはなかったのだが、彼女殴り気絶させた。

「おやおや、十番隊長はんも手荒な人やね。」
「うるせぇ……。」

 膨れ上がる霊圧に一護は桃の元に行き、誰にも悟られないように結界を張る。
 氷の龍が市丸を襲うが、刹那、市丸の斬魄刀が伸びる。
 冬獅郎が避けたのだが、それは真っ直ぐに桃を狙った。
 近くに乱菊の気配を一護は感じていたが、彼女が間に合わないと悟り、一護はその猫の体で桃を庇った。

「一護っ!」

 冬獅郎の叫び声が上がる。
 鮮血が一護の小さな体から飛び散り、彼女は市丸に向かって唸る。

「残念やね、まさか、こんなチビちゃんが助けるなんてね。」
「市丸てめぇ…。」

 怒りでカタカタと震える冬獅郎だったが、すぐに乱菊が到着して状況が変わる。

「隊長っ!――っ!一護っ!」

 己の隊長の霊圧の以上の高さと、一護の体から流れる血を見て乱菊は全てを把握する。

「市丸隊長、お引きください…命が惜しいのならば…。」
「まあ、ええわ、それじゃあ。」

 消える市丸に冬獅郎はすぐさま一護に駆け寄る。

「大丈夫か…?」

 一護は近くに乱菊がいるので猫の鳴き声を出す。

「……市丸の野郎…絶対に許さねぇ。」
「…本当ですよ、猫を狙うなんて。」

 憤慨する乱菊に冬獅郎は首を横に振った。

「いや、あいつが狙ったのは雛森だ。」
「えっ?」
「一護が雛森を庇ったんだ。」
「……。」

 乱菊は信じられないものを見るように一護を見つめた。

「あんたも馬鹿ね。」
「……悪いが、雛森を頼めるか?」
「ええ、任せてください、隊長は一護の手当てを。」
「ああ、すまない。」

 冬獅郎は一護を抱え、己の自室に向かった。

「一護。」
「……悪い、心配かけて。」

 一護は己の失態で傷つく冬獅郎を見たくないので、俯いた。

「……馬鹿…野郎…、何でこんな無茶をするんだ。」
「だって、人間の姿じゃ市丸や乱菊さんに見られていただろうし…。」
「そうかもしれないが…猫の姿は人間よりも死にやすいだろう…。」
「そうかもしれないけど、体が勝手に動いたんだ。」

 笑う一護に冬獅郎は何故自分がもっと市丸の動きを見ていなかったのかと、後悔を覚える。

「大丈夫、すぐ治る。」
「……。」
「今度は、冬獅郎に心配かけさせないように頑張るな。」
「……。」

 一途な一護に冬獅郎はその小さな体を抱いた。

「頼むから…無茶をしないでくれ。」
「冬獅郎…。」

 一護は冬獅郎の役に立ちたいと強く思っているが、自分が頑張れば頑張るだけ、冬獅郎は心配するのだと感じだ。
 しかし、そう簡単に自分の生き方を変えられないのが一護だった。

「出来るだけ…、出来るだけ怪我をしないように頑張る。」
「……。」

 一護の思いを汲み取った冬獅郎は彼女を抱きしめながら、小さく頷いた。

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