橙ネコと氷雪の隊長
2
冬獅郎が亡くなり、夜一と出会ってから十五回目の春がやってきた。
「夜一さん、どこだ?」
オレンジ色の髪をなびかせ、一人の少女がきょろきょろと周りを見渡す。
「ここじゃよ。」
「あっ、そこか。」
「お主、合格じゃな。」
「えっ?」
少女は小首を傾げ、黒猫の夜一を見下ろした。
「わしが出来るのはここまでじゃ。」
「えっ、何だよ、そんな別れのような……。」
「別れじゃよ、わしは別の場所に移動しなければならないのじゃ、それに、お主はもう立派に人型にもなれ、そして、斬魄刀も手に出来た。もう、向こうに行ってもよいじゃよ。」
「……。」
少女は瞳に涙を溜め、唇をかんだ。
「永遠の別れではない、だから、安心するのじゃ。」
「……。」
少女はコクリと頷いた。
「夜一さ〜ん、行きますよ〜。」
「迎えじゃ、それでは、元気での。」
「ありがとう、夜一さんっ!」
背中を向ける夜一に少女は叫び、夜一はその尻尾を左右に揺らした。
「…………。」
少女は涙を拭い、そして、そっと猫の姿に戻った、そう、少女は一護だったのだ。
「それじゃ、猫としてのオレの寿命はこれまでだな。」
何日も前から、一護は猫としての己の寿命がつきかけている事を知っていた、だから、最近では人型でいる方が多かったが、もう、この世に未練はなかった。
「………。」
一護は最期の力を振り絞って、冬獅郎が美しいといった思い出の場所に行き、そして、静かに息を引き取った。
次に一護が目を開けると、見知らぬ森にいた。
「ここは?」
一護は周りを見渡し、そして、己が人の形になっている事に気づく。
「あっ、やば……、気を抜いたらいつもこうだ。」
人型になるのにはそんなに時間を掛けずに出来るようになったのだが、維持するのに時間を要し、そして、常に人型になっていた所為で、今では気を抜くと人型になってしまうのだ。
「……人間は服を着ないといけないから面倒なんだよな。」
一護は頭を掻いて、そして、一護が人型になれた祝いに貰った腕輪を見た。
これは夜一の友人の喜助と呼ばれる自分物が作ったものらしくて、黒いゴムみたいな塊を出し、そして、一護はそれを地面に叩き付けた。
黒いゴムは弾け、そこには薄紅色の衣があった。
「本当に面倒だな、人間は。」
一護は溜息を吐くと、そのまま着物に手を通した。
「さてと、冬獅郎を探そうかな……。」
一護はそう呟くと、適当に歩き始めた。
森を抜け、そして、民家を見つけ、一護はホッと息を吐いた。
「やっと、人が居る所についた。」
一護はしばらくぼんやりしていたが、すぐに嫌な視線を感じ、それを辿ると人相の悪いごろつきたちがいた。
「……。」
一護は脳裏に夜一の言葉を呼び起こした。
『よいか、人間の中にはお主のような娘に酷い事をする奴らがいるのじゃ、もし、嫌な感じがするのならば、一目散に逃げるのじゃ。』
「……夜一さんが言った事は本当か…。」
一護はそう言うと人気の少ない場所に逃げ込もうとしたが、それよりも早く男たちが一護の腕を掴んだ。
「へぇ、別嬪じゃねぇか。」
「……。」
一護は嫌悪丸出しの表情で男たちを睨んだ。
「おっ、気が強いな。」
「……。」
一護は溜息を吐き、こっそりと夜一に感謝した。
一護は素早く手足に力を込め、それを体術と組み合わせて、男たちを伸して行く。
「はぁ、こんなもんか。」
一護は全員倒し終えたのを確認して、そして、人気のない所に行き、猫の姿に戻った。
「やっぱ、こっちの方が自由に動けるよな。」
一護は男たちを踏みつけ、歩いて行く。
「あっ!可愛いっ!」
丁度、一護が物陰から出てきた時、一人の少女に抱きしめられた。
「うぎゃっ!」
「ふぇ?」
思わず一護が変な声を上げた時、少女は不思議そうな顔をで一護を見てきた。
一護は冷や汗を流しながら、猫の鳴き声を上げた。
「な〜んだ、気の所為か。」
「おい、雛森、こんな所で油を売るな。」
「何よ、シロちゃん、あっ、この子すごく珍しい毛並みをしているよ。」
「……日番谷隊長だ。たく……どんなん…だ…よ…。」
連れの少年の声が聞こえ、少年は少女の腕の中にいる一護を覗き込み、そして、一護はあまりの苦しさで、もがいて顔を上げた時、少年の姿がその目に映った。
「……嘘……だろ…。一護……?」
信じられないものを見たように、少年は呟いた。
一護は少女の腕から逃れ、そして、少年、冬獅郎に向かって飛んだ。
「あっ。」
「一護。」
冬獅郎は落ちかける一護を寸前のところで捕まえ、そして、柔らかい笑みを浮かべる。
「お前は無茶ばかりするな。」
慣れた手つきで冬獅郎は一護を抱き、一護は冬獅郎の頬を舐めた。
「くすぐって。」
「シロちゃん、その猫さんと知り合いなの?」
「日番谷隊長だっ!」
「もう、いいじゃない、呼び名くらい。」
膨れる少女に一護は思わず人間の言葉で話しかけようとするが、寸前のところでそれを止め、猫の鳴き声を出す。
「ああ、こいつは俺の幼馴染だ、死んでから世話になった。」
「日番谷くん、その猫さんの言葉が分かるの?」
「ひ、つ、が、や、隊長だ。……んなもん、何となくで分かるだろう。」
「……。」
呆れ顔の少女に、冬獅郎は一護をどうしようかと考える。
もし、このまま流魂街にいたら、物珍しいとばかりに一護を捕まえようとするだろう。
「……雛森、悪いが先に帰る。」
「えっ?」
冬獅郎は一護を抱きかかえたまま瀞霊廷に足を向けた。
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