橙ネコと氷雪の隊長
4
乱菊は一人外で月見酒をやっていると、そこに少女が来た。
「あんた。」
「ご一緒させていただいてもいいですか?」
ニッコリと微笑む少女に乱菊は特に断る理由もなく頷いた。
「これ、差し入れです。」
少女は手に持っていた袋を乱菊に見せる。
乱菊は袋の中を見て目を見開いた。
それは手作りの酒のおつまみだった。
「あんた、まめね。」
「そうでも、ありませんよ。」
苦笑を浮かべ、少女は乱菊の隣に腰を下ろした。
「今日は月が綺麗ですね。」
「ええ、そうね。」
「……………松本副隊長。」
「何かしら?」
緊張した声に乱菊は不思議に思いながらも、出来るだけ普通の声音を出した。
「猫の一護が来る前の日番谷隊長ってどんなんですか?」
「一護が来る前の隊長?」
可笑しな質問をしてくるな、と思いながらも、乱菊は一護が来る前の冬獅郎を思い出した。
「そうね…、あんまり感情を表に出す人じゃなかったわね。」
「……。」
怒る時は怒る、だけど、それは何処か義務的でだから、ついつい感情を出させるためにちょっかいを出していたのを思い出す。
「一人で何でもこなそうとするし、疲れだって見せないようにして、無茶をしすぎて何度も倒れていたわね。」
「そうなんですか?」
「ええ、だけど、一護が来てから、感情も出すし、自分の体の方も気をつけているようね。」
「………ありがとうございます。」
「えっ?」
何か少女が言った気がしたのだが、残念ながらあまりの小ささで乱菊は聞きそびれてしまった。
「松本副隊長は日番谷隊長が心配なんですね。」
「ええ、そうね、目下の心配は隊長に彼女がいない事かしら。」
「……。」
「それは少しやりすぎでは?」
少女が苦笑する中、乱菊は肩を竦める。
「だって、隊長って戦闘の時、結構自分を盾にしても部下を護ろうという節があるのよ。だから、大切な人を作って、それで、自分の体ももっと気に掛けて欲しいのよ。」
乱菊の言葉に少女はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、日番谷隊長には皆さんがいます。それに微力ながらわたしも手伝いと思っています。」
「あんた…。」
「ですけど、期間が決まっているので、それ以降は少し難しいでしょうけど。」
苦笑する少女を見て、乱菊はこの少女が冬獅郎の伴侶として側にいればいいいのに、と強く思った。
「さ〜て、飲むわよ。」
「程ほどにしてくださいね。」
少女の忠告を無視して、乱菊はがんがん酒を飲んだ。
そして、翌日二日酔いのまま仕事場に行き、冬獅郎に怒られたのは当然の事だった。
三日後、少女の手伝いの期間が終わったのと同時に、仕事の量が元に戻った。
それからさらに何日間かしてから冬獅郎の口から「通い妻」などという言葉が出るとはこの時の乱菊は予想だにしていなかった。
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