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橙ネコと氷雪の隊長

 乱菊は書類を運び終え、トボトボと十番隊に戻った。

「戻りました〜。」
「ああ、そっちの書類を運んで来い。」
「え〜、今運んできたばかりなんですよ。」
「これはお前が隠していた書類だ。」
「……。」
「一番隊だからな。」
「はい……。」

 乱菊は長いお説教を覚悟しながら、重い足取りで数枚しかない紙を運んだ。

「本当に、隊長…仕事馬鹿だから、恋人の一人も出来ないんだわ。」
「……そうだね、お見合いの話を前に振ってみたのだが、見事に振られたよ。」
「へぇ…そうなんです……って、浮竹隊長いつから。」
「今さっきだよ。」

 にこやかに話すのは病弱で有名な十三番隊の隊長である浮竹十四郎だった。

「お見合いの話って本当なんですか?」
「ああ、つい先日にね。」
「……。」

 全く上司から聞いていない話に乱菊は興味を持つ。

「何で断ったんですか?」
「どうやら大切な人がいるみたいでね。」
「えっ!」

 初めて聞く話に耳を傾けるが次の浮竹の言葉に肩を落とす。

「まぁ、一護ちゃんの事なんだけどね。」
「……。」

 また一護かと、乱菊は本気で己の上司が人と付き合う気がないのかと疑いたくなった。

「俺も最初は一護ちゃんだけじゃなく、もっと大切な人を作ればと言ったんだが、日番谷隊長はこう言ったんだ。「こいつがいるから俺は感情を出せるようになった、だから、俺はこいつとの時間を大切にしたいんだ。」と。」
「……。」

 確かに猫の寿命なんて人間と比べれれば儚いものだ。
 だからこそ、冬獅郎は一護とともにいるのかと思った。

「一護が人間ならよかったんですけどね。」
「そうだな。」

 きっと人間だったら気立てのいい嫁になっていただろうが、残念ながら彼女は猫なのだ、と乱菊と浮竹の両者は思っていた。

「そういえば、先生の所にいくんじゃなかったけな?」
「あっ…。」

 乱菊はようやく手に持つそれを思い出し気落ちする。

「また期限切れの書類かい?」
「ええ。」
「君も懲りないね。」

 苦笑する浮竹に乱菊はげんなりする。

「もう、何でこんなに事務的な仕事が多いのかしら。」
「仕方のない事だよ。」

 浮竹はそう言うと、四番隊の前で立ち止まった。

「俺はこれから検診だから。」
「そうですか、失礼しますね。」

 浮竹と別れた乱菊は二時間ほど総隊長の説教を受け、それが終わる頃には終業時刻ギリギリになっていた。

「長かったわ…。」

 トボトボと帰る乱菊は今日は残業だと思ってげんなりする。

「ただいま、戻りました。」
「お疲れ様です。」
「……これに懲りたらもう仕事を溜めない事だな。」

 ニッコリと微笑む少女と眉間に皺を寄せた上司に迎えられた乱菊は己の机に置かれている書類を見て、目を見張った。

「隊長、これ。」
「あとは配ればいいだけだ、配ったら帰っていいぞ。」

 乱菊の机の上に積まれていたのは五番隊に届ける書類だけだった。

「いいんですか?」
「ああ、こいつのお陰で助かった、…だがな、こいつがいるからってサボるんじゃねぇぞ。」

 冬獅郎の言葉に乱菊は苦笑する。

「したいのは山々なんですけど、ついつい誘惑が多くて。」
「ほぉ…そんなにも松本は残業がしたいのか……。」

 ニヤリと笑う冬獅郎に乱菊は顔を真っ青にさせ、すぐさま自分の机においてあった書類を手に持ち逃げ出した。

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