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橙ネコと氷雪の隊長

 一護は冬獅郎の休日に来ていた着物や死覇装を一枚一枚、皺を伸ばして干していた。
 幸いにも冬獅郎が住んでいるのは隊長専用に作られたものなので、庭まであり、一護の人型の姿を見られる心配はなかった。

「さ〜て、これが終わったら、布団を干すだろう、それにお風呂の掃除に、部屋の掃除だな。」

 一護は自分がしなくてはならない事を考え、てきぱきと動く。

「今晩の晩御飯は何にしようかな?」

 一護は大何処にある食材を思い浮かべ何が作れるか考え始める。

「和食もいいけど、思い切って洋食…ああ、中華もすてがたい。」

 冬獅郎ならばどんなんでもいいと、言いそうだが、せっかく食べてもらえるなら美味しいものを食べさせたいと、一護は考えている。

「う〜ん、お昼ごはん後に訊いてみるか。」

 せめて冬獅郎が選びやすいように二つか三つに絞りながら、一護は全て干し終わった籠を持つ。

「そういえば、墨がなくなりかけてたな……。」

 一護は夕方に買い物をして帰る事を決め込む。
 冬獅郎の布団を抱え、一護は日のあたる場所にそれを干す。

「今日は本当にいい天気だから、夜にはふわふわの布団で眠れるな。」

 本性は猫なのにどうも一護は所帯じみている。
 布団を干し終わった一護は風呂掃除をして、そして、部屋の片づけを終える頃になると丁度お昼になっていた。

「あっ、冬獅郎の所に行かねぇと。」

 絶対冬獅郎の事だから今がお昼だと忘れ、そのまま仕事を続けていそうだった。
 一護は猫の姿に戻り、十番隊の執務室に向かった。
 途中で十番隊の隊士たちに会い、軽く挨拶代わりに鳴いた。

「一護ちゃん、ちゃんと隊長に休むように言ってくれよ。」
「隊長、今機嫌が悪いから、何とかしてくれよな。」
「一護ちゃん、このリボン似あうんじゃない?」

 色々と世話をしてくれる隊士たちに一護は邪険にする事無く、それでも、早く執務室に行きたいのか、一々返事をして進んでいく。

「隊長〜。勘弁してください。」
「元後言えば松本、お前が悪いんじゃないかっ!」

 また乱菊が何かやらかしたのかと一護は小さく溜息を吐いた。
 そして、冬獅郎の機嫌を戻すべく、一護は他の隊士たちが入る事を躊躇させる圧倒する霊圧の中に入っていった。
 目くじらを立てる冬獅郎に向かって一護は鳴いた。

「一護か?ああ、もうこんな時間か。」

 冬獅郎は筆を置き、肩や腕を動かし強張っている筋肉を解す。

「松本、昼に行っていいぞ。」
「本当ですか!」

 やっと地獄から開放されたというように乱菊は喜色を浮かべた。

「一時間しか休憩を取らんから、ほんの少しでも遅れたら許さないからな。」
「はいっ!分かりました。」

 一目散に逃げるように立ち去る乱菊に冬獅郎と一護は互いに顔を見合わせ、溜息を吐いた。

「冬獅郎、ごめんな、遅くなって。」
「いや、こっちこそ、家事を任せているからな。」
「別に好きでやっているし。あっ、冬獅郎悪いけどリボン外してくれないか?」

 一護の首元に深い緑色のリボンが揺れていた。

「どうしたんだ…これ…。」

 険しい顔をする冬獅郎を不思議そうに見ながら、一護は答える。

「ああ、これ、さっき十番隊の隊士の女の子がくれたんだよ。」
「…女か…。」
「うん、人型に戻って髪に結わえているんなら大丈夫だけど…もし、首のままだったら死にそうだし。」
「……そうだな…ほら、取れたぞ。」
「サンキュー。」

 一護は冬獅郎にリボンを外してもらいお礼を言う。

「どうするんだ?これ。」
「ん〜、せっかく貰ったしちょっと貸してくれ。」

 冬獅郎は一護の口元の近くにリボンを持っていく。
 一護がリボンを咥え、そして、給湯室に向かった。
 しばらくして、カチャカチャという物音がしたので、冬獅郎は卓の上に一護がお昼用に用意したお重箱を開く。

「冬獅郎、お茶。」
「ああ、ありがとう。」

 湯飲みを受け取り、冬獅郎はふと一護の長い髪にあの緑色のリボンがついている事に気づく。

「一護、それ。」
「可笑しいか?」
「いや、似合っている。」
「良かった、これさ、冬獅郎の羽織の裏と同じ色だろ?」

 ニッコリと微笑む一護の言うとおり、確かに一護の髪に結わえているリボンは冬獅郎の羽織の裏の千歳緑と同じだった。

「これ貰って、冬獅郎のものみたいで嬉しかったんだ。」

 真っ直ぐな言葉に冬獅郎は柄にもなく顔を赤く染める。

「あれ…冬獅郎。顔真っ赤だぞ。」
「……気のせいだ。」
「……風邪なら四番隊に行った方が……。」
「大丈夫だ。」

 冬獅郎はそう言うと、すぐに箸を動かし一護の手料理を堪能する。

「美味いな。」
「ありがとう、そういえば今日の晩御飯何がいい?」
「…何でもいいが。」

 冬獅郎の返事に一護は小さく肩を竦めた。

「やっぱりそう言った。」
「……。」
「なら、中華、和食、洋食、どれがいい?」
「そうだな……中華かな。」
「オッケー、なら餃子、エビチリ、八宝菜どれがいい?」
「餃子で。」
「おっけー、後は適当に合わせるから任せてくれ。」
「ああ。」

 さっさと今晩のおかずが決まり、一護の頭の中で今日買い足すものを考える。

「帰りにちょっと買い物するからお金使うな。」
「ああ、大丈夫だ。」

 冬獅郎は正直溜まっていくお金に頓着しておらず、最近では一護のお陰で使うようになったが、それでも、家が三軒ほど建てられるお金が十分にあった。

「今度、休みでお前の小袖でも買うか?」
「別にいいよ。」
「それでも、持ってきた衣が少なくなっているだろう。」
「……。」

 冬獅郎の言うとおり確かに死ぬ前に持ってきた着物の数が減っている事に一護は少し困っていたのだ。
 実際猫から人になる時は、衣が必要なのだが、逆になると回収する事が難しいのだ。

「だけど…冬獅郎…オレと一緒に居て噂されても…。」
「平気だ。」

 一護は小さく溜息を吐く。
 一護は冬獅郎を恋愛感情で好きだが、それでも、他の死神たちが冬獅郎に恋愛感情で見ていることに気づき、最近は己の感情を隠すようになっている。

「俺はお前がいるから、それだけでいい。」

 冬獅郎の言葉に一護の顔が赤くなる。

「……と、冬獅郎、そんな事を言ってたら、いつまでも独り身だぞ。」
「……やっぱり鈍いな。」

 冬獅郎は溜息を吐き、二人は黙々と食事を続けた。

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