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橙ネコと氷雪の隊長

 一護は体をゆっくりと起こし、そっと冬獅郎を見て淡く微笑んだ。
 今彼女は猫の体ではなく、人間の少女の体をしていた。
 冬獅郎に人間になれる事がばれてから、彼女は冬獅郎の家に居る時は人間の体になっていた。
 その方が彼女だって居心地が良かったし、冬獅郎から言われたので、断る理由がなかった。

「さて、朝食の準備をするか。」

 一護は冬獅郎の髪を撫で、立ち上がる。
 冬獅郎が贈ってくれた浅葱色の着物に着替え、その上に汚れないように割烹着を着て、彼女は台所に立つ。

「今日は冬獅郎の好きな大根おろしのついた卵焼きに、味噌汁は……大根とお揚げでいいか。」

 一護はそう呟くと手早く調理を開始する。
 一護が料理を出来るようになったのはだいぶと前からだ、猫の時もお腹がすいたら山で取ったものを売り、そのお金で色々なものを買って調理をしたのだ。
 そのお陰か、彼女は料理を一通り出来るようになり、最近では冬獅郎が料理の本などを見せてくれるので作れる品数がぐんと上がった。

「お弁当は五目御飯の握り飯に…焼き魚…。」

 一護は頭の中で作るものを考え、同時に手を動かした。
 彼女は朝食だけではなく、冬獅郎の昼ごはんや夕飯まで作っているのだ。
 しばらく台所で忙しくなく動いていた一護は朝食とお弁当を完成させると、冬獅郎を起こすために彼の寝室に向かった。

「冬獅郎、朝だぞ。」

 寝起きのいい、冬獅郎は一護が揺らすだけでその目を開けた。

「ああ、おはよう、一護。」
「今日の朝食はお前の好きな卵焼きだぞ。」
「ああ、起きる。」
「布団はおいていていいぞ、今日は天気がよさそうだから洗濯物と一緒に干しとくから。」
「いつもありがとうな。」

 冬獅郎は体を起こし、猫の一護にやるように彼女の頭を撫でた。

「別に大した事はしてないぜ?」

 一護はニッコリと微笑んだ。
 彼女は尸魂界に来てからずっと冬獅郎の世話をしたいと思っていたので、本望だったりする。

「大変なのにな。」

 冬獅郎はそう言うと顔を洗うために立ち上がる。

「そういえばお昼からまた隊主会だったか?」
「ああ。」
「オレは一応洗濯と布団を干したらそっちに顔を見せるから。」
「分かった。」
「乱菊さんの見張りは任せろよ。」

 一護がニヤリと笑い、冬獅郎もつられたように微笑んだ。

「ああ、頼んだぞ。」

 一護の見張りは意外にも乱菊に効いているのか、今まで逃げようとしても一護に追いかけられ、最後には冬獅郎が捕まえ、乱菊の逃亡は最近では失敗に終わっているのだ。
 一護は頷き、そして、卓に朝食を並べた。

「お、今日も美味そうだな。」
「そう言ってもらえると作り甲斐あるよ。」
「それじゃ、いただきます。」

 両手を合わせて、冬獅郎はお味噌汁に手を出した。

「ん、出汁を変えたか?」
「ああ、この前おいしそうなニボシがあったから、それでかな?」

 一護はご飯を頬張り、美味しそうに自分の料理を食べる。

「一護は本当に料理がうまいな。」

 感心したように言う冬獅郎に一護は微笑み、そして、横に置いておいたお弁当箱、というか、お重箱を冬獅郎に差し出した。

「はい、お弁当。」
「ありがとう。お前はいつくらいに執務室に来るんだ?」
「今日は天気がいいから布団とか洗濯物……あとは最近細かい所は掃除してなかったから徹底的に掃除しようと思っているよ。」
「そうか、悪いないつも。」
「ううん、好きでやっているんだから。」

 一護のやってくれる事は正直冬獅郎にはありがたかった、今までなら間違いなく時間に追われ中々家の事が出来ず、埃だって溜まっていたが、今では彼女のお陰でかなり片付いていた。

「それでも、こっちは助かっている。」
「オレはずっと冬獅郎にこんな事が出来たらいいな、と思っていた事をしてるだけだし、それに長いこと心配していた冬獅郎の食生活の改善が出来たから嬉しいんだ。」
「……。」

 確かに今までの食生活は酷かっただろうが、あの時は時間が惜しいと思ったのだ。

「冬獅郎、さっさと行かないと時間がないぞ。」

 心配そうな顔をする一護に冬獅郎は小さく微笑み、彼女の髪を撫でた。

「ああ、行って来る。」
「後でな。」
「ああ。」

 冬獅郎を見送った一護は食べた食器を洗うために台所に向かった。

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