悲しき祈り
3
「一護ちゃんの家族ってどんなんなの?」
「親父と、双子の妹が二人。」
「へ〜、可愛いだろうね。」
「ああ。」
どこか寂しそうな笑みを浮かべる一護を見ながら、桃は自分の質問が無神経だった、と少し己を呪った。
「桃、そんな顔をすんなよ。」
一護はそう言って、三、四年前に妹たちにやったように桃の頭を撫でた。
「一護ちゃん。」
「ごめんな、迷惑かけて。」
桃はその言葉に目を見開かせ、首を横に振った。
「そんな事はないよ。」
「…ありがとうな、桃…。」
桃は自分が一護の役に立てない、と思い唇を噛んだ。
「……あのさ、頼みがあるんどいいかな?」
落ち込む桃を見かねてか、遠慮がちに一護は口を開いた。
「えっ、何かな?わたしに出来ることならやるよ?」
「髪を切って欲しいんだ。」
「えっ?」
桃はマジマジと一護の綺麗なオレンジの髪を見た。
「流石にこんなに伸びっぱなしじゃ動きにくいしさ。」
確かに一護の髪は立っても床を擦るような長さまであるのだ。
「分かった。」
桃は承諾し、冬獅郎の部屋を物色して髪を切るはさみを手にした。
「それじゃ、動かないでね。」
「ああ。」
ジョキ、ジョキと髪を切り、一護は少しずつ頭が軽くなるのを感じた。
「どの辺まで切る?」
「そうだな……ショートカット?」
「え〜、もったいないよ。」
桃は拗ねたように頬を膨らませた。
「だって動きにくいじゃないか。」
「もったいないよ、せめて腰まで。」
「……いや、それ十分長いだろう…。」
「だって、すごく綺麗なんだよ。」
「……。」
物凄く自分の髪を惜しむ桃に一護は苦笑する。
「わたしに任せてよ。」
「……。」
これ以上何を言っても桃には通用しないと思った一護は小さく頷き、そして、微妙に後悔するなど、この時の彼女が知る由もなかった。
長い間、桃に髪を切ってもらい、そして、一護の前髪は程よい長さなのだが、後ろ髪がなんと腰よりややあるくらいまで残されてしまった。
「……。」
「うん、完璧。」
自画自賛する桃に一護は、これはまたえらく邪魔だと思うのだが、最初よりは頭も軽くなったので、自分で切るよりはマシだと思い込むことにした。
「ありがとう、ございます。」
「いいのよ、こんなに綺麗な髪を切ったのは本当に初めてで、また切る時には言ってね。」
微笑む桃に一護はまるで姉のような人だと思った。
「なあ、桃。」
「何?」
「冬獅郎ってどんな奴なんだ?」
「シロちゃん?」
桃は片付けながら、首を傾げた。
「口うるさい子ども?」
「……。」
絶対に本人の前では言えない事を言う桃に一護は顔を引きつらせる。
「真面目だし、きっちりとしているね、人から氷のようだと敬遠される所があるけど、本当は優しいんだよ。」
桃の言葉に一護はあの時、牢屋に入っていた自分を案ずる声を思い出す。
「そっか……。」
まだ、心のどこかで硬くなっている感情がある、それは信じて裏切られるのではないのかという恐怖だった。
だけど、信じなければ、いけないのかもしれないと思った。
「桃、オレはあんたたちを信じてみる。」
「一護ちゃん。」
桃は一護がまだ自分を恐れているのだと思っていた、だけど、自分から手を出す一護に桃は彼女を護りたいと思う。
「うん、信じて。」
ニッコリと微笑む桃は知らなかった、今後彼女のもたらす情報が自分の足元を崩すという事を――。
この時の彼女は知る由もなかった。
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