悲しき祈り
1
朝の日差しが一護の顔に当たり、彼女は顔を顰める。
「ん……もう少し…だけ。」
寝返りを打った瞬間、誰かにぶつかり、彼女は薄っすらと目を開けると目の前に銀色の頭が見えた。
「……。」
妹の髪は黒と茶色だったな、と暢気にそんな事を考える、一護だったが、ようやく頭が覚醒し始める。
「なっ!誰だっ!」
思わず布団を蹴飛ばし、一護は後ずさろうとした時、再び誰かにぶつかった。
今度は黒髪の女の子で、一護は自分の状況が分からず、記憶を辿り始めた。
「あっ…そうだ、オレはこいつに。」
ようやく、目の前にいる銀色の髪の少年に助けられた事を思い出し、取り敢えず状況を確認する為に、彼を揺する。
「ん…何だ……。」
「おい、起きてくれ。」
薄っすらと明けられた瞼から見えたのは碧い湖のようなそんな綺麗な目だった。
「……お前っ!」
少年の方もようやく頭が覚めたのか、一護の姿を確認して驚く。
「…ん…シロちゃん……煩い…よ。」
「シロ言うな、つーか、起きろ、雛森っ!」
「う……。」
寝ぼけ眼で少女は目を開け、そして、一護をその視界に映すと目を見張った。
「うわっ、起きてるっ!」
「……。」
あまりにも大きな声に今度は一護が驚くが、この中で一番冷静な少年が少女を睨んだ。
「雛森、叫ぶんなら出て行け。」
「うっ…、ごめんなさい。」
見た目で言えば少女の方が年上そうなのに、少年がしっかりしているので一護は思わず声を殺しながら笑った。
「……おい。」
「悪い……。」
一護が笑っていることに気づいた少年は軽く一護を睨み、一護はすぐに謝るが、笑いがなかなか引かなかった。
「……お前が助けてくれたんだよな?」
「……。」
無言の少年に一護は微笑みかけた。
「ありがとう、あのままだったら、オレは狂っていただろう。」
「感謝を言われる事の程はしていない。」
「そうだよ、それよりもシロちゃん、ごめんなさいは?」
「……。」
何故少年に謝られなければらならないのかと、訳が分からない一護は首を傾げた。
「…すまない、不可抗力とはいえ、お前の胸を見てしまった。」
「へ?」
一護は二、三度瞬きをして、久しぶりに己の体を見ると微かにだが胸の膨らみがあり、彼女は頬を掻いた。
「いや、平気だ、むしろ見苦しいものを見せたんじゃないか?」
「そんな事はない。」
「…シロちゃん…、それ…微妙に変態発言だよ。」
「……。」
少々混乱しているのか、少年は際どい事をいい、少女に呆れられる。
「別にいいよ。」
「そうはいかないよ、いくらシロちゃんが子どもの見た目をしているとはいえ、もう何百歳も言っているんだよっ!」
「――っ!」
少女の発言に一護は大きく目を見張った。
「えっ、九歳くらいじゃ…。」
「……お前、今いくつだ?」
一護の発言に少年はその瞳を鋭くさせる。
「えっ…ここに来ていくつの季節が経ったのか分からないけど、オレのこの体の発育状況を見れば…多分十二くらいだと思う。」
「……。」
「……。」
冬獅郎は同時に視線を交わしあい、冬獅郎がその口を開いた。
「お前は…いつ死んだ?」
「はっ?何を言っているんだ?」
「…シロちゃん…まさか…。」
「………。」
どこか青い顔をする少女に一護は首を傾げる。
「……雛森、落ち着け。」
「う…うん…。」
何とか動揺を隠そうとする少女に一護は怪訝な顔をするが、突っ込む事はしなかった。
「ここがどこか、お前は分かるか?」
「空座町じゃ、ないのか?」
首を傾げる一護に少年は険しい顔をする。
「空座町…って確か浮竹の担当地区だよな。」
「シロちゃん、まさか浮竹隊長を疑ってるの?」
「……。」
少女の言葉に少年は軽く睨む。
「疑ってねぇよ。あいつはそんな奴じゃないのは分かってる。」
「良かった。」
「だが、こいつを誰かが…死神が連れてきたのは間違いないな。」
「………。」
少年の言葉に少女は暗い表情を浮かべる。
「……。」
一護は少女の暗い顔を何とかしたくて、少年と少女の会話に割り込む。
「悪いけど、ここは何処で、お前らは誰なんだ?」
「ああ、まだ言ってなかったなそういえば。」
「わたしは雛森桃、貴女は?」
「オレは黒崎一護。」
「一護ちゃんだね、よろしくね。」
「うん、桃よろしく。」
「で、こっちがシロちゃん。」
「……日番谷冬獅郎だ。」
少女、桃の言葉に少年、冬獅郎は眉を寄せた。
「よろしくな、冬獅郎。」
「ああ。」
一護は冬獅郎に手を差し出し握手を求める。
「ずる〜い、シロちゃん。」
一護と冬獅郎が握手を交わしていると、桃が膨れっ面で冬獅郎を睨んだ。
「あはは、桃も。」
一護は苦笑して桃と握手する。
「一護、ここが何処だと訊いたな。」
「あっ?ああ。」
「驚かないと約束するか?」
冬獅郎の言葉に一護は首を傾げ、小さく頷いた。
「ここはお前たちで言う死後の世界だ。」
冬獅郎の言葉に一護は微かに驚くが、次の瞬間その眼に涙を浮かべる。
「お、おいっ!」
「あ〜、シロちゃん泣かせた〜。」
まさか一護が泣くとは予想していなかった冬獅郎は狼狽し、桃は冷たい目で冬獅郎を睨んでいた。
「ご、ごめん……。」
一護は罰が悪そうに、涙を拭った。
「オレ……死んじまったのかな?」
「……いや、多分お前は生きている。」
冬獅郎の言葉に一護は目を丸くさせた。
「えっ、だって……。」
「お前から感じる霊圧は俺たちとは少し異なっているんだ。」
冬獅郎の言いたい意味が分からないのか、一護は首を傾げた。
「死神、というよりは生きている人間に近い……。」
「分かんない……。」
「だろうな、俺だって分からない、何で生きている人間がこっちにいるんだよ…、多分魂だけ…って事はないだろうから肉体ごとこっちに来たんだろうな……。」
一護は自分の記憶を辿り、そして、あの雨の日の事を思い出した。
「あっ……あいつら。」
一護の呟きに冬獅郎と桃は同時に顔を見合わせた。
「どうしたんだ?」
「いや……。」
急に耳を塞ぎ、一護はがたがたと震え始めた。
「いや…いや…母ちゃん………助けて。」
「一護っ!」
恐怖で顔を真っ青にさせている一護を冬獅郎は抱きしめる。
「大丈夫だ、落ち着け……。」
一護はゆっくりと顔を上げ、冬獅郎を見るとホッとしたような顔をして気絶した。
「……何があったんだよ…、こいつに。」
冬獅郎は無力な自分に腹を立てながら、そっと一護を寝かせた。
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