悲しき祈り
9
一護は本来の主のいない部屋で一人暇を持て余していた。
「退屈だな……。」
いつもならば冬獅路の帰りを待つのにこれほど落ち込んだ事はなかった。
いつもはウキウキと心が躍っていた。
今日はどんな料理を作って彼を出迎えようか、と幸せいっぱいだったが、今はそんな気がしなかった。
「冬獅郎……。」
一護は畳の上で寝そべり、天井を見つめた。
「一人は寂しい。」
冬獅郎たちと出会う前はあの牢屋で一人っきりでいる事が多かったが、それでも、寂しいと一度も思った事はなかった。
一護は、あの時、いつこの地獄が終わるのかと、死を望んでいた。
今は正反対だった。
生きる事を望んだ一護は間違いなく冬獅郎という人に出会ったお蔭だろう。
「早く帰って来ないかな?」
一護はゴロゴロとしていると、不意に部屋の隅に置かれている黒い布に気づいた。
立ち上がり、布を拾い上げるとそれは冬獅郎の死覇装だった。
ただし、その死覇装は何かに引き裂かれたり、敗れたりしており、彼女は思わず顔を顰めた。
「あいつ…隠してるな……。」
一護は冬獅郎が一護に心配を掛けないため、戦闘で傷ついた死覇装をどこかに隠しているのではないかと考えた。
思い立った一護の行動は早かった。
ひっくり返すかのように色んなところを探る一護の手には一時間が経過した頃には数枚の死覇装が握られていた。
「……あいつ……よくもまあ、こんなにも隠してたな。」
一護は自分の頬か引きつるのを感じながら冬獅郎の死覇装を握り締める。
彼がどんなに危険な仕事をしているのかと、今頃知った一護は冬獅郎の無事を祈る反面怒りを抑える事ができなかった。
「どうすればあいつは驚くかな?」
クツクツと笑う一護は常では考えられないほど黒い笑みを浮かべていた。
「まあ、オレがこれを見つけた時点であいつは驚くだろうけどな。」
一護は何故冬獅郎がこれを隠したのか何となく察しはついたが、それでも、隠されたという事実に怒りを感じた。
だから、彼女は棚の中からあるものを取り出したのだった。
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