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悲しき祈り

 彼女の口から漏れた言葉はこうだった。

『空座町っていう町がオレの住んでいた場所で、そのクロサキ院という診療所がオレの実家で今どうなっているか、見てくれないか?』

 冬獅郎はその言葉を聞き、目を見開いた。

「一護。」
「オレや母さんが死んだのを忘れるために引っ越したかもしれないし、まだ住んでいるかもしれない、だけど、今のオレにはそれを知るすべがないんだ。」
「……。」

 冬獅郎は家族と離れ離れに過ごす一護の身を案じる。

「…冬獅郎、そんな顔をしないでくれ。」

 一護は冬獅郎の表情を見て苦笑を浮かべる。

「そんな顔をして欲しくないんだけどな……。」
「一護。」
「オレは今幸せだぞたとえ、もう二度と家族に会えなくたって、今のオレには冬獅郎や桃がいてくれるから。」

 本当に幸せそうに微笑む一護に冬獅郎は自分の方こそ一護に幸せをもらっているのだと思った。

「冬獅郎、だから、必ず帰ってきてくれよな?」
「勿論だ。」

 どこか不安を孕んだ瞳に冬獅郎は愛おしそうにその瞳を見つめた。

「絶対にお前の所に帰ってくる。」
「待っている。」

 微笑む一護に冬獅郎はそっとその顔に手を伸ばす。

「一護、欲しいものはないか?」
「特に…ないけど?」
「……。」

 冬獅郎は物欲の薄い彼女に黙り込む。

「あっ、えっと……。」

 見るからに不機嫌そうな冬獅郎に一護は顔を引きつらせる。

「ちょ、チョコレート。」
「?」
「チョコレートが食べたいかな?」

 一護は自分の好物を口にした。

「ちょこれぇと?」

 聞き覚えのない言葉に冬獅郎は小首を傾げ、それを見た一護は可愛いとか思ったとか…。

「うん、チョコレート、現世でのお菓子でほろ苦くて、甘くて美味しいんだよ。」
「ふむ…。」

 冬獅郎は一護のためにそれを買って帰る事を決意する。

「まあ、モノよりも冬獅郎が無事に帰ってくれさえすればオレは十分だけど。」

 はにかむように微笑む一護に冬獅郎は彼女を抱きしめた。

「ふえっ!冬獅郎?」
「お前、可愛過ぎる。」
「か、可愛くなんかない。」

 一護は冬獅郎に抱きしめられているのと、彼が言った可愛いという発言に顔を真っ赤にして否定をする。

「いや、十分に可愛過ぎる。」
「……。」

 冬獅郎はこんな可愛い一護を放って一人任務に行かなくてはならない己の身を呪ったのだった。

「サボりたい。」
「おーい、なんかさっきら突拍子もない事ばっか言っているけど、疲れているのか?」
「……。」

 心配そうに自分を見つめる一護に冬獅郎は彼女を抱きしめる腕の力を強める。

「はぁ…何で俺が……。」
「冬獅郎が凄いからだろう?」

 一護は軽く冬獅郎の頭を撫でた。

「皆冬獅郎に期待してんだよ。」
「勝手に押し付けられて困るのは俺なんだがな。」

 冬獅郎がそう呟き、一護は苦笑を浮かべるのだった。

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あきゅろす。
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