悲しき祈り
6
一護は自分の取った行動に頭を抱えていた。
「何で中に入るんだよ〜〜〜〜〜〜〜。」
浴衣を持っていったのはいい、なのに、よりによって冬獅郎の鍛え抜かれた上半身裸を見てしまい、一護は無言で出て行ったのだ。
その時顔が真っ赤になっていたのだが、残念ながら硬直していた冬獅郎が気づく事はなかった。
「反則だよ。」
正直、弟みたいな容姿をしていたので、彼女は油断していたのだ。
幼さが強い印象だが、冬獅郎は隊長という立場あって筋肉が程よくついており、それに、整った顔立ちが揃っているので妙な色香があるようだった。
「う〜〜〜〜〜。」
一護はしばらく呻いていたが、すぐに、冬獅郎が風呂から上がるかもしれないと思い、台所で顔を洗う事にした。
冷たい水で顔を洗えば少しは顔の熱さが引いたように感じた。
「はー。すっきりした。」
一護はようやく落ち着き、夕飯を机に並べ始める。
一護が並べ終わって数分してから冬獅郎が上がってきた。
「今上がった。」
「ああ、もう用意出来てるぜ。」
「ああ、ありがとう。」
一護は自分の席に着き、桃が買ってきてくれたフォークを使って器用にパスタを食べる。
一方冬獅郎はフォークなんてものを使い慣れていないので、箸でそれを食べる。
「一護。」
「ん?」
深刻そうな声音に、一護は動きを止める。
「実はな…。」
冬獅郎の口から漏れる最悪の言葉を想像し、一護は唇を噛み、堪えるような仕草を見せる。
「三日くらい現世の勤務があるんだ。」
「へ?」
思ったよりもずっと深刻じゃない内容に一護の口から素っ頓狂な言葉が漏れる。
「それだけ?」
「それだけってな、十分深刻だろう。」
「いや、それなら、桃のところにお世話になればいい話だろう?」
「それはそうだが。」
「大丈夫だよ、たった三日だろ?」
「……まあ。」
「大丈夫、オレはちゃんと冬獅郎の帰りを待っているよ。怪我をしないように祈ってる。」
ニッコリと微笑まれ、冬獅郎は肩を竦める。
「もっと不安な表情をされると思った。」
「多分、冬獅郎しか頼る人が居なかったら、不安だった。だけど、オレには桃もいるし。」
冬獅郎は僅かに、桃に嫉妬心を抱く。
自分しか彼女が頼る相手がいなかったら、彼女はもっと自分を心配するような言動をしたのか、そう思えば、桃に知らせなければ良かったなどと冬獅郎は考えてしまう。
「冬獅郎。」
「何だ?」
「冬獅郎が大変な任務だと分かっているんだけど、一つだけ頼まれてくれないか?」
「ああ。」
緊張したような顔をする一護に冬獅郎は同じように顔を引き締め頷く。
「あのな――。」
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