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悲しき祈り

 冬獅郎はいつものように書類を捌いていると、そこに一匹の地獄蝶が現れる。
 地獄蝶は冬獅郎に連絡をし終えるとひらりと飛んでいく。

「……。」

 いつもより眉間の皺を刻む冬獅郎に珍しく逃げ出していない乱菊は不思議そうな顔をする。

「どうかしましたか?隊長。」
「いや……。」

 歯切れの悪い冬獅郎に乱菊は何か悪い事でも起こったのかと心配になる。

「何かよく無い事でも?」
「そうじゃない、ただ、現世勤務が決まった。」
「はい?」

 思ったよりも深刻じゃない話に乱菊は首を傾げる。

「……隊長は何が嫌なんですか?」
「……。」

 冬獅郎の脳裏に一人の橙の髪を持つ少女を描くが、それを乱菊に教える訳にはいかないので、当たり障りのない答えを口にする。

「この容姿じゃ目立つからな。」
「ああ。」

 乱菊は冬獅郎の銀髪、翡翠のような碧眼を見て納得する。

「確かに目立ちますもんね、隊長は。」
「ああ、流石に今から義骸を変えてもらうわけにはいかねぇし、それに、下手に違うのを使ってどうなるかなんて考えたくもねぇからな。」
「そうですね……あっ、技術開発局に頼むのはどうです!」

 脈絡のない言葉に冬獅郎は苛立っているのか顔を引きつらせている。

「お前…もっと論理的に話を進められないのか。」
「えー、分かりません?」
「分かるわけないだろうがっ!」

 怒鳴る冬獅郎に乱菊は肩を竦める。

「だからですね。技術開発局に隊長の容姿だけを変えるモノを作ってもらうんですよ。」
「成程。だがな…。」

 自分の我侭の為にそんなものを作ってもらうのも、と冬獅郎が考えていたが、乱菊はさも名案だと頷いている。

「何を企んでいる。」
「企んでいるなんて人聞きの悪い。」

 乱菊は咎めるような視線を冬獅郎に向けるが、長い付き合いである冬獅郎は騙されなかった。

「企んでいるだろう。」
「……隊長には叶いませんね。」

 乱菊は溜息を一つ吐いた。

「やはり企んでいたか。」
「企んでいたというか、そういうのがあれば女性死神に喜ばれるんじゃないかと思っただけです。」
「で、金儲けをする…と。」
「あははは…。」

 誤魔化すかのように笑っている乱菊に冬獅郎は眉を寄せた。

「姿を変えるなんて何処が楽しいんだかな……っ!」

 冬獅郎はふっと自分の言葉によってある少女を思い出し、これは使えるかもしれないと考える。

「松本。」
「何ですか?」
「技術開発局に行け。」
「……。」

 黙りこむ乱菊に冬獅郎は無言で霊圧を上げる。

「行かなければ分かっているだろうな?」
「行かせて貰いますっ!」

 すでにマイナスの温度になり、乱菊は逃げ出すように外に出た。

「……。」

 一人残された冬獅郎は表情を少し和らげた。

「そんなものがあれば、あいつも気晴らしに外を出歩けるからな。」

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あきゅろす。
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