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悲しき祈り

「なあ、冬獅郎。」
「何だ?」

 別々の布団に入り、一護はそっと冬獅郎の方に顔を向ける。

「ありがとう。」
「何だ?」
「今日の事。」
「別に。」

 そっけない答えに一護はくすくすと笑う。

「でも、桃を脅すのはよくないよ。」
「仕方ないだろう。」

 そう、どちらかを守りたければどちらかを犠牲にするしか道はなかったのだ。
 冬獅郎は幼馴染の桃も大切だが、それ以上に一護を守りたいと強く思うようになったのだ。

「俺がお前を守りたいのは本心だからな。」
「だからって。」

 一護は微かに顔を赤くさせるが、真っ暗な室内ではその顔をは分からなかった。

「一護。」
「何?」
「俺はお前を守りたい、だから、お前を守らせてくれないか?」
「……。」

 冬獅郎はゆっくりと体を起こし、一護を見る。

「重荷になるんじゃ…。」

 ただでさえ隊長という重みを背負っている彼に一護は自分まで負担になっていいものかと顔を歪める。

「重荷じゃない。」
「……十分重荷だよ、しかも、かなり厄介な。」

 一護だって自分がもたらした情報が、彼らを困らせている事を知っていたが、それでも、もし、自分が思っている通りならば、二人には気を付けて欲しかったのだ。

「そうかもしれないが、お前は俺たちを思って言ってくれたのだろう。それが自分を傷つけたとしても。」
「……。」

 一護は暗闇で冬獅郎の顔が分からなかったが、それでも、彼が優しく微笑んでいるのを声音で悟る事が出来た。

「冬獅郎。」
「ありがとうな。」
「…冬獅郎、俺なもう誰も傷ついて欲しくないんだ。」
「ああ。」
「桃も家族も守りたい…。」

 冬獅郎は黙って一護の言葉に耳を傾けた。

「守りたいんだ。」
「…………俺も傷ついて欲しくない。」

 あまりにも真剣な言葉に一護が目を凝らすと闇に慣れたのか、冬獅郎の翡翠の瞳が見えた気がした。

「お前は十分に傷ついた。本来なら家族と一緒に居たのにな…。だから、これ以上傷ついて欲しくない。」

 一護はその言葉に目を丸くさせた。

「冬獅郎。」
「お前が誰かを護るために傷つくのなら、俺はその隣でいいから同じようにお前を護る許可が欲しい。」
「だけど…。」
「お前が俺にも傷ついて欲しくないのは知っている。だけど、それと同じ…いや、それ以上に俺はお前に傷ついて欲しくないんだ。」

 真摯な言葉に一護は目頭が熱くなる。

「冬獅郎。」
「一護。」

 冬獅郎は一護に近づき、その手を握る。

「俺を信じてくれ。」

 冬獅郎の言葉に一護は戸惑いがちに頷いた。

「絶対にお前を後悔させない。」

 自分よりいくつか年下に見える少年が一護にはかなり大きく見えたのだった。

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