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悲しき祈り

「でさー。それで、藍染隊長がね。」
「へー。桃はその藍染隊長が好きなんだな。」
「うん。」

 嬉しそうに微笑む桃があまりにも眩しく感じ一護は目を細める。

「そう言えば、一護ちゃんの初恋、とかないの?」
「無いよ。そんなん。」
「えー、もったいない。一護ちゃん凄く美人なのに。」

 桃の言葉に一護はキョトンとする。

「お世辞でも嬉しいよ。」
「……。」

 一護の言葉に桃は溜息を漏らす。
 桃も一護の性格を理解し始めていた。勿論彼女にはいっぱいいいところがあるが、欠点と言うか、彼女は自分の美しさや、美点に気づいていないのだ。

「もったいないな。」
「?」

 桃の呟きの意味が分からない一護は首を傾げる。

「あっ、そうだ、今度呉服屋に行かない?」
「えっ…でも…。」

 渋い顔をする一護に桃は詰め寄る。

「だって、わたしのお古なんてやっぱり嫌でしょ?」
「いや、十分だし。」
「やっぱり一護ちゃんに合う着物が欲しいから、ね?行こうよ。」
「いや、でも…オレは…。」
「いいじゃん、いいじゃん。」

 勢いがある桃に一護は押されるが、丁度隅で読書をしていた冬獅郎の溜息によって遮られる。

「雛森いい加減にしろ。」
「シロちゃんには言ってませーん。」
「……。」

 冬獅郎は黙って桃を睨み付けた。

「全然怖くないんだからね。」
「…雛森、一応言っておくがこいつは自分の立場をわきまえて言っているんだぞ。」
「えっ?」
「やっぱり分かっていなかったか。」

 冬獅郎は溜息を吐き、一護を見る。
 彼女は悲しげに微笑み、そして何もかも諦めたような顔をしている。

「こいつは本来ならこんな場所に居てはいけない人間なんだぞ。」
「そうかもしれないけど。」
「こいつの容姿は色んな意味で目立つ、誰かに見られてそして、こいつが人間だと分かってしまった時、こいつをこちらに連れてきた者たちがこいつを見つけた時、どうなるか分かっているか?」
「……。」
「こいつは分かっている。」

 冬獅郎はそっと一護の頭を撫でる。

「もし、見つかればこいつはまた閉じ込められるし、下手をすれば殺される。」
「そんなっ!」

 そこまで考えていなかった桃は本気で驚いたような顔をする。

「だけど、こいつが恐れているのはそんな事じゃない。」
「……。」

 冬獅郎の言いたい意味が分からないのか桃は怪訝な顔をする。

「こいつは俺たちが自分を匿っているがゆえに、何らかの罰が与えられるのを恐れているんだ。」
「……。」

 冬獅郎の言葉が正解なのか一護は俯いた。

「本当なの?」
「………だって、オレの所為で二人に迷惑をかけたくない…。」

 いじらしい一護に桃は冬獅郎を押しのけ、一護に抱きついた。

「あー、可愛い、可愛い、可愛い、シロちゃんやっぱりこの子家に連れ帰っちゃ駄目?」
「さっきからお前は……この寝小便桃っ!」
「今はやってないわよっ!」
「はっ、俺よりも長くやってたくせにな。」
「シロちゃんの癖に生意気っ!」
「だから、シロ言うなっ!」

 喧嘩する二人に一護は慣れたのか前ほど取り乱さずに居た。

「……そういえば、藍染隊長ってどんな人なんだ?」

 一護が何となく呟いた言葉それは彼女にとって地獄を思い出させるだなんて誰も分かっていなかった。
 一護の言葉を聞いた桃と冬獅郎がそれぞれ藍染の特徴を言うと一護の脳裏にある人物が思い浮かび、己の体を掻き抱いた。

「いや……。」

 がたがたと情けないほど自分の体が震える。

「一護?」
「だ、大丈夫?」

 心配する二人に微笑もうとするが、失敗に終わる。
 涙が一護の目から零れ落ちる。

「たす…けて…。」

 すがるように冬獅郎を見た瞬間、暖かい腕に抱きしめられた。

「大丈夫、大丈夫だ…。」
「……しろ…。」
「ごめんな。」

 何故冬獅郎が謝るのか一護には分からなかったが、不意に眠気が襲ってきた。

「………ありがとう…。」

 一護には分かっていた、これが鬼道である事を、そして、冬獅郎の優しさを…。

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あきゅろす。
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