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悲しき祈り

 一護の戦闘技術は鬼道以外ではめきめきと力をつけていたが、残念ながら彼女の持ち前の霊力の大きさに彼女自身がうまく扱えないのか、鬼道は十回に一回くらいしかうまくいかないのだった。
 冬獅郎は彼女に鬼道が出来なくてもいいじゃないかと、言った事があったが、彼女はめげる事無く、桃から教えを乞うていた。

「隊長〜。最近なんか楽しそうですね。」

 声を掛けられ書類から顔を上げるとそこにはニヤニヤと笑っている乱菊の姿があった。

「そうか、いつもと変わらないが。」
「んー、やっぱり、好きな人と一緒に居るのが一番なのね。」
「……。」

 乱菊の言葉に一瞬一護の事が頭をよぎり、乱菊に彼女の事がばれたのではないかと一瞬焦る。

「誰の事を言っている。」
「えっ?雛森ですよ、雛森。」

 乱菊の言葉に冬獅郎は顔を歪める。
 一護の事はばれなくて本当に良かったと思うのだが、よりによって幼馴染に対しそんな感情を抱いていると思われるのは心外だった。

「あいつはただの幼馴染だ。」
「またまだ〜。楽しそうに一緒に居る所を何度も見ているんですよ。」
「……。」

 多分それは一護の話をする時だ。彼女は結局自分のあてがわれた部屋にいるのだが、週に二、三回は冬獅郎の部屋に上がりこむのだ。
 その為、一護に関連する会話が二人の中で成り立っているのだ。

「共通の話題があるからな。」
「え〜、あたしは騙されませんよ。」
「騙されるも、騙されないも、俺は雛森なんて何とも思っていない。」
「……。」

 冬獅郎の本気が分かったのか、乱菊は肩を竦めた。

「それじゃ、一体誰なんでしょうね。」
「何がだ。」
「…隊長、気づいていないんですか?」

 乱菊は目を見開き、本気で何か驚いているようだが、冬獅郎は乱菊の訳の分からない言葉に顔を顰めた。

「だって、切なそうに溜息を吐いたり、外を見たりするじゃありませんか。」
「……。」

 冬獅郎は自分がそんな行動を取っていたのかと、少し驚く。

「他にも何かと表情が柔らかくなっているし、たまにですけど笑っているんですよ。今まで仏頂面ばっかりの隊長が。」
「……。」

 ここまで自分が言われなければならないのかと、冬獅郎は不機嫌になる。

「そうですね…、隊長の雰囲気が変わったのは…一月ほど前からですね。」

 乱菊の言葉に冬獅郎の脳裏に橙の髪を持つ一人の少女が浮かんだ。

「……そうか。」
「あっ、やっぱり隊長何かあったんですね。」

 目ざとい乱菊は冬獅郎の表情を見て嬉しそうに言った。

「まあ、あったと言えば、あった。なかったと言えば、なかった。」
「何ですか〜それ。」
「つまりはお前に教えるつもりはないという事だ。」
「えー。隊長、ずるいですよ。」
「ほら、さっさと仕事しろ。」
「隊長のいけず〜。」

 冬獅郎は乱菊を無視して、書類の片付けに勤しんだ。

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