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悲しき祈り

 定時に冬獅郎も桃も上がって、一護は食事の準備をしながら冬獅郎たちに訊ねる。

「なぁ、ザンパクトウって何だ?」
「……。」
「えっ?」

 一護の唐突な言葉に冬獅郎と桃は違いの顔を見合わせ、そして、一護にそんな事を教えたのかと無言で会話する。

「……お前、何でそれを知っている?」

 表情の硬い冬獅郎に一護は首を傾げ、今日あった不思議な体験を口にする。

「うん、今日暇でごろごろしてたら急に意識を失って、変な…うーん、そうだな、ビルがいっぱいあんだけど、それが真横に伸びていて、そこに真っ黒な服を着たおっさんに会ったんだ。」
「……。」
「シロちゃん…これって。」
「日番谷隊長だ、……ああ、多分精神世界だな。」
「……精神世界?」
「ああ、自分の中の世界と言うものだ。個人個人の考えが違うように、精神世界も異なるんだ。」
「へー。」
「それで、そこにあった奴から何を聞いた?」

 冬獅郎は険しい顔で訊ねるが、一護は大した話は聞いていないんだけどな、と思いながら口を開く。

「別に大した話じゃないぞ。おっさんが斬月つって、んで己はザンパクトウとか言っていたんだけど、ザンパクトウって何だ?」
「斬魄刀っていうのはこれだよ。」

 桃は己の斬魄刀、飛梅を一護に見せる。

「これが斬魄刀……。」
「うん、自分の半身みたいな存在。わたしの飛梅は始解すれば火の玉を出して相手を攻撃するの。」
「へぇ〜。」
「一護。」
「何?」

 冬獅郎に名を呼ばれ振り返ると彼は険しい顔をして訊ねた。

「お前はどうしたいんだ?」
「……。」
「斬魄刀の名を聞いたという事はお前は死神に一歩近づいてしまった。すなわち、ただの人間にはもどれないという事だぞ。」

 冬獅郎の言葉に桃は目を見開いた。

「オレは……多分もとの場所には戻れない。」
「…一護。」
「オレは何年も多分家族には死んだと思われているだろう、それなのに、ひょこっと帰ってくるなんて…可笑しいよな。」

 寂しげに微笑む一護に桃は無言で彼女を抱きしめた。

「斬月にも聞かれたんだ。『お前は何をなすために、そこに留まる』って。その時言われて気づいたんだ、オレはあんたたちに頼めば時間はかかっても元の場所に戻る事が可能なのに、オレはそうしたくないと思ったんだ。」
「一護ちゃん。」
「なぁ、冬獅郎、桃。」

 真剣な顔で己たちを見る一護に二人はじっと耳を傾けた。

「オレに戦い方を教えてくれ。」
「えっ?」
「……。」
「オレは護られるだけの存在じゃない、オレだって皆を護りたいし、オレを助けてくれた冬獅郎や、オレを気に掛けてくれる桃に恩返しをしたいんだ。」
「一護ちゃん。」
「だから、オレに戦い方を教えてください。」

 深々と頭を下げる一護に桃は困惑するが、冬獅郎は冷静な面持ちで彼女を見ていた。

「お前の覚悟は受け取った。」

 冬獅郎の言葉に一護は真っ直ぐに彼の翡翠のような目を見た。

「稽古をつけてやる。」
「本当か。」
「ああ。ただしお前が弱音を吐いた時点で全て終わりだからな。」
「分かった、やる、やってやる。」

 本当に嬉しそうな顔をする一護に冬獅郎は表情を和らげる。

「俺は厳しいからな。」
「うん、ありがとう、冬獅郎。」
「……シロちゃん、ずるーい。」

 桃は唇を尖らせ、ギュッと一護を抱きしめる。

「わたしだってお手伝いするんだから。一護ちゃんいつでもわたしを頼ってね。」
「ありがとう。桃。」

 一護はようやく自分が大きな一歩を踏み出した、と思った。

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あきゅろす。
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