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悲しき祈り

 一護は部屋の真ん中で寝転んでいた。

「暇だ……。」

 一護は誰もいない部屋で何もする事もなく、ただただ桃か冬獅郎が帰ってくるのを待つ。
 二人は隊長、副隊長なので忙しいのは一護だって知っている、だけど、何もせずにただ時間が過ぎるのを待つのは彼女にとってあの時を思い出してしまう。
 冬獅郎のお陰で一護があの牢屋から出て来られて早二週間は経った。

「何か…手伝えればいいんだけどな……。」

 一護はごろごろとやっていると、不意に眠気が襲ってきた。

「ふぁ…。」

 欠伸を一つして、一護が一瞬意識を飛ばしていると、彼女の目の前が冬獅郎の部屋ではなく別の世界が広がっていた。

「えっ?」

 一護はビルの窓ガラスの上にただ突っ立っていた。

「ここは…。」
『ようやく来たか。』

 一護は声がした方を向くと、そこには漆黒の衣装を身にまとった男がいた。

「あんたは…?」
『斬月…お前の斬魄刀だ。』
「ザンパクトウ?」

 聞き覚えのない言葉に一護は顔を顰めると、男は真剣な顔でこう問うた。

『お前は何をなすために、そこに留まる。』
「えっ?」
『本来ならば元居た場所に帰れるはずなのに、なぜ、お前を保護した者にそう言わない。恐れているのか?』
「……。」

 男の言葉に一護は、確かに自分は冬獅郎や桃に自分の家に帰りたいと、口にした事がない事を思い出す。

「それは…。」
『帰りたくないのか?』
「――っ!」

 男の言葉に一護は目を見張った。自分は確かにあの牢屋にいた時は帰りたいと思っていた。だけど、今はあの時ほど元の場所に戻りたいとは思わなかった。

『もし、お前がここに留まると言うのならば、力を貸そう。』
「えっ?」
『このままではお前は自分の身は自分で護れないどころか、お前を護るために動くものたちの枷となるだろう。』
「……。」

 一護は男の言葉に黙り込み、そして、しばらく間をおいてから口を開く。

「あんたならオレに力を与えてくれるのか?」
『違うな、お前の力を借り、それをお前が使う、元々お前の力だ。』
「……。」
『どうする、このまま引けばお前は護られるだけの者になるぞ。』

 一護はその言葉にフッと笑った。

「オレは大事な人を護れなかった、なのに、ただ護られるだけなんて、オレの名前に反するな。」
『……。』
「オレの名前は黒崎一護、一つを護る。だから、力を貸してくれ、おっさん…いや、斬月っ!」
『分かった。忘れるな。常にお前の中に答えがある事を……。』

 一護は口元を緩め、そして、現実に戻っていった。

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あきゅろす。
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