悲しき祈り
6
「一護ちゃん、一緒に寝よう。」
少々気まずい食事が終わり、桃は一護にべったりと引っ付いた。
「桃、あのさ…。」
「何?」
一護はある事を思い出し、言いにくそうに口を開いた。
「確か…桃は桃の家があるんだよな?」
「うん、あるよ、五番隊副隊長の個室がね。」
「…いいのか?帰らなくて。」
「……。」
一護の言葉に桃は二、三回瞬いた。
「迷惑?」
「いや、そうじゃないんだけど……ただ、この家って冬獅郎のだろ?」
「うん、そうだよ。」
「何か、冬獅郎凄く睨んでいるし…大丈夫なのか?」
また今日も泊まる気満々の桃に冬獅郎は食事を終えてからずっと桃を睨んでいたのだ。
「大丈夫、大丈夫。」
「でも…。」
「だって、シロちゃんと一護ちゃんを二人っきりにさせた方が心配だよ。」
「えっ?」
「だってさシロちゃん一応男の子だし、一護ちゃんは立派な女の子だから、間違いがあったら大変じゃない。」
「間違い?」
一護は桃が何を言いたいのか分からなかったからか、首を傾げた。
「雛森、俺を何だと思っているんだ。」
「そう思っているけど?」
「……人を飢えた狼のように言うな。」
「………………。」
火花を散らせる二人に一護は困惑する。
「えっ…と。」
「一護ちゃん、シロちゃんがもしセクハラまがいな事をしたらいつでも言ってよね。」
「誰がするかっ!」
「一護ちゃんは可愛いんだよ、くらりと変な感情を抱くかもしれないじゃない。」
「……。」
「あっ、否定はしないんだ。」
桃は何処か冬獅郎を軽蔑したような目で見た。
「仕方ないだろう。」
「あーあ、やっぱりシロちゃんは狼じゃない。」
「うせぇーっ!」
桃の言葉に冬獅郎は顔を真っ赤にさせて怒鳴る。
「えっ…と。」
二人の会話を聞き、一護は訳が分からず、頬を掻く。
「………オレ寝るな。」
一護は二人を止める事は自分には出来ないと悟り、大人しく布団の中に潜った。
「えっ?」
「あっ?」
「お休み。」
「…うん、お休み。」
「ああ、お休み。」
「「………。」」
一護は二人に背を向け、目を閉じた。
「………………おい、雛森。」
「何?」
「今日は泊まる事は許可するが、明日からは帰れよ。」
「え〜。」
「お前な、他の連中がお前を見たらどうするつもりなんだよ。」
「別にいいじゃない、幼馴染なんだし。」
「……お前はオレを男だと思っていないんだな。」
冬獅郎は桃を睨み、そして、溜息を一つ吐く。
「明日朝一で隊主会があるから、俺も寝る。」
「えっ?そうなの?」
「ああ、昼過ぎに急に決まった。」
「そうなんだ…藍染隊長もだよね。」
「当たり前だろうが。」
「一護ちゃんには悪いけど、留守番してもらわないとね。」
「ああ、一応結界は張っていくが、朝起きたら念のために知らない奴が来ても部屋から出ないように言っとかねぇとな。」
「そうだね。」
冬獅郎の言葉に桃も頷く。
「それじゃ、先に寝るな。」
「うん、お休み。」
長い一日が終わった。だけど、これは長い目で見ればまだ最初の方の話だった。
冬獅郎、桃、一護は事件の渦へと徐々に飲み込まれていく。
その事に冬獅郎は気づいていても、その重大さがまだ理解していなかった。
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