定めを覆せ
1
――自分は精一杯生きただろうか。
次の瞬間に今の自分が消えるのを自覚した瞬間、彼女はそんな事を考えた。
彼女の隣には彼女の愛する人がいた。彼もまた自分と同じ様に今この世から消えようとしていた。
――すまない……。
彼女は隣の相手に向かって口を開く事なく謝った。
彼には彼女の声が聞こえたのか、ちらりと彼女を見て、その華奢な手を握った。
「冬獅郎…。」
思わず漏れた声に彼は小さく笑い、彼女の耳に囁いた。
「俺はお前と共にあれて嬉しい。だから、心配するな。」
「……。」
彼女は黙り込み、そして、かつて仲間だった者たちの前を通過した時、悲痛な叫びに似た声が彼女に向けられた。
「何故だっ!」
「ル……。」
部下で、親友の少女は彼女に向かって叫ぶ。
「何故わたしを置いていくっ!頼む、わたしも――っ!」
次の瞬間、少女は近くにいた同僚達に押さえ込まれた。
「……。」
彼女はそれを一部始終見ており、悲しそうに首を振った。
「すまない……、オレの最期の我侭を許してくれ、友よ。」
「――っ!」
少女はその大きな瞳をこれ以上ない程見開かせた。
「さっさとしろ。」
「……。」
彼女は自分を急かす、貴族に対し睨み付けた。
「何だ、その目は罪人に癖に。」
「……。」
罪人、それは彼女にしてはかなり不服なモノだった。
彼女はこの死神の基礎を築き上げ、数々の功績を残してきた。しかし、彼女には虚の力が宿っていた。
その事が四十六室には許せなかったのか、彼女は総隊長という役職から引き摺り下ろされ、罪人のレッテルを貼られたのだ。
「……何だ、何か文句があるのか?」
「……。」
彼女は己の手に嵌められている枷を見て、これがあるからこの馬鹿な貴族は自分が優勢だと思い込んでいるのだと、心の中で言葉を吐き捨てる。
彼女にしたらこんな枷、いつでも外せるのだが、彼女と彼には大きな計画があったのだ、それを果たすためにも今彼女はこの枷を外す事をしないのだ。
「黙っていれば、それなりの美人で、おれさまの妾にでもしてやったのにな。」
「……。」
あまりにも屈辱的な言葉に彼女は霊圧を上げかけるが、それよりも早く、隣にいた彼が周りを凍らせるほどの霊圧を発した。
「なっ!」
「黙れ、下種……。」
唸るような声は彼の名に入っているように獅子のようだった。
「…止めろよ、こんなのを相手にするなんて、お前にはもったいない過ぎる。」
「……、良かったな、命拾いして。」
「ひっ!」
彼は最後に彼にだけに対し、霊圧を上げ、枷を嵌める彼女に手を差し出した。
「…ここからは段になっている。」
「悪いな。」
彼女は彼の手を取り、階段を上る。
目の前に大きな扉があった、あれは禁じられた術でその魂が正しい行いをすれば、転生でき、魂が穢れていたら消滅する、そんな扉だ。
「いいのか?」
「ああ、覚悟は出来ている。」
二人は誰にも気付かれないように、そっと互いに術を掛け合う。
「……来世で。」
「ああ、その時はよろしく頼む。」
彼の言葉に彼女はニッコリと微笑む。
彼女たちは同時に開かれた扉の中に入っていった。
そして、彼女たちの姿が光の粒に変わった瞬間、少女は叫んだ。
「一護―――――――――――――――――――っ!」
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