天上華 2 「で、教えてくれ。」 夜になり、焚き火をたきながら、一護は冬獅郎に詰め寄る。 「俺は謎の霊圧を調査しに来ただろ。」 「そう言っていたな。」 「それがお前だ。」 「……。」 一護は何の冗談だと眉を寄せるが、どうやら冬獅郎は本気のようだ。 「……その霊圧の持ち主がオレだとして、何が問題があるんだ?」 「お前の霊圧は俺たち隊長格に匹敵するだろう。」 「……。」 「それがばれればお前は強制的に死神にさせられるか、危険だと判断されて消されるかのどちらかだ。」 「そ、そんな……。」 一護は愕然として冬獅郎を見た。 「悪いが、本当の事だ……。」 「…………。」 「俺はお前の事を誰にも話そうとは思ってはいない。」 「――っ!」 いくらこちらに疎い一護でも冬獅郎がしようとしている事が、彼の身に良くない事くらい理解していた。 「だ、だけど、それじゃ、お前は。」 「平気だ、簡単に隊長を殺せはしないだろ。」 「甘いぞ。小僧。」 突然聞こえた低い声に、冬獅郎と一護は警戒する。 「何処を見ておる、こっちじゃ、こっち。」 二人が声の出所が、一護の膝の上に寝そべる猫から聞こえているのだと分かり、目を見張った。 「ね、猫が…喋った。」 「………。」 「と、冬獅郎、尸魂界の猫って喋るのか?」 動揺する一護は思わず、そんな事を冬獅郎に問うてしまった。 「んな分けないだろう、お前は一体何もんだ。」 「そのように殺気立つな、小僧。」 「……。」 冬獅郎は霊圧を下げ、猫を睨んだ。 「ふむ、わしは四楓院夜一じゃ。」 「……。」 「……。」 猫なのに、何故苗字があるのかと二人は疑問に思うが、冬獅郎の方は「四楓院」の名が四大貴族の「四楓院」だとすぐに思い出し、顔を引きつらせた。 「ま、まさか……。」 「おお、やっと気づいたか。」 「……。」 冬獅郎の表情からそれを読み取ったのか、夜一は満足そうに笑った。 「わしは四大貴族の四楓院の夜一じゃ。」 「……四大貴族って、猫なのか?」 猫から全く離れない一護に夜一はその頭を掻いた。 「うむ、それならば、これでどうだ?」 そう言うと猫は人の形になった。 「……。」 「……っ!」 一護は人型になった猫が裸だという事に気づき、今までにないほど早く冬獅郎の後ろに回り来い、そして、彼の目を塞いだ。 「ふ、服を着てくれっ!」 真っ赤になって叫ぶ一護は、女である自分がうらやましいと思うほどのプロポーションを持つ夜一を睨んだ。 「何じゃ、せっかくのサービスなのにの。」 「そんなの要らねぇから、頼むから早く服を着てくれっ!」 「残念じゃ。」 夜一はそう言うと茂みに入り、ごそごそと着替え始める。 「……いい加減に手を離してくれないか?」 「へ?」 冬獅郎の呆れたような口調に一護はようやく自分がまだ冬獅郎の目を塞いでいる事に気づいた。 「あっ、悪い…。」 「いや。」 「……。」 「……。」 特に会話が思いつかず、一護と冬獅郎は黙り込んだ。 「……。」 一護はこの沈黙が嫌で口を開こうとするが、結局声が出なかった。 「……待たせたな、……なんじゃ、この重苦しい空気は。」 服を着た夜一は呆れたような顔をする。 「夜一さん、あんたは人なのか?それとも、猫なのか?」 「わしは人じゃな。」 「…人なのに、猫になれるのか?」 「それは「四楓院」家に伝わる秘術でな。」 「そんな話は後で構わない、一つ聞きたい。」 夜一の言葉をばっさりと遮り、冬獅郎は真剣な顔で夜一を睨んだ。 「何じゃ、せっかちな小僧じゃの。」 「……。」 冬獅郎は子ども扱いされ、苛立つが、彼女にしたらまだ死神になって日が浅い自分には子ども同然なのだと言い聞かせる。 「何が甘いんだ。」 「……ああ、あの話か。」 夜一は思い出したのか二、三度頷き、刃のように鋭い目で冬獅郎を射る。 「お主は四十六室がそんなに甘いとは本気で思っておるのか?」 「……。」 「あやつらは間違いなく自分たちに害を及ぼすと判断すれば、隊長であっても間違いなく殺すだろうな。」 「そ、そんな…。」 一護は夜一の話を聞き、顔を青くさせる。 「それじゃ、冬獅郎は下手すりゃ――。」 「死ぬじゃろうな。」 夜一の言葉に一護の顔は紙のように白くなる。 「……まぁ、それはお主が隊長格の力をあやつらが知ったら、の話じゃ。」 「えっ。」 「わしに一つ考えがある。」 ニヤリと笑う夜一に一護は期待する。 「………それはこいつを巻き込まない話か?」 黙りこんでいた冬獅郎は真剣な顔で夜一を睨んだ。 「勿論じゃ。」 「……なら構わない、聞かせてくれ。」 「わしを連れて行けばいいのじゃ。」 「はぁ?」 「……。」 夜一の言葉で二人はそれぞれの反応を示した。 一護は訳が分からないのか怪訝な顔をし、冬獅郎は何故夜一がそう言ったのか理解し、眉を吊り上げた。 「いいのか?」 「構わぬ、乗りかかった舟じゃしな。」 「そうか。」 「………だから、何なんだよっ!」 ただ一人訳が分からない一護は髪を掻き乱し始めた。 「…………止めろよ、髪痛むだろう。」 「別にオレの髪くらいいいじゃねぇかよ。」 ジロリと一護は冬獅郎を睨み、彼は小さく溜息を吐いた。 「……拗ねるなよ………説明は一度しか言わないからちゃんと聞けよ…。」 「ん。」 冬獅郎が説明してくれるという事で、一護は一旦怒りを抑えた。 「俺がお前を連れて行けば間違いなく、お前の命が脅かされる。だけど、もし、俺が知っていてそれを隠してもいつかはその情報も捕まるだろう。」 「だ、だったら。」 オレを連れて行けばいいじゃないか、と言おうとする一護を冬獅郎は目で制した。 「……。」 「まぁ、それは俺が隊長格に匹敵するような奴を連れて行かず、なおかつ、俺が後ろめたいと思えば早くばれるな。」 「……どういう事だ?」 「わしは昔、護廷の隊長を務めていた。つまり、わしの霊圧を感知させたと思わせとくのじゃ。」 「……その方法じゃ夜一さんが危ないんじゃ……。」 「大丈夫じゃ、わしは四大貴族じゃからな、そう簡単に四十六室がわしを害せるはずがないんじゃ。」 「……。」 「つまり、俺とこいつで一護の事を隠すから、お前は安心して妹を探せ。」 「………冬獅郎とはもう、会えないのか?」 一護の呟きに冬獅郎は苦笑する。 「お前は俺なんかと関わってはいけない。」 「……やだ。」 一護はまるで子どものように頬を膨らませ、冬獅郎を睨んだ。 「一護…。」 冬獅郎は困ったような顔をして、夜一を見るが、彼女は何が面白いのかニヤニヤと笑っていた。 「小僧、腹を括ったらどうだ?」 「どういう意味だ。」 「こやつを手放すなんてもったいない事をするな、という事じゃ。」 夜一はそう言うと先ほどよりも笑みを深める。 「こやつの力でいずればれるに決まっておる。それはどんなに遅くとも何年も持たぬだろう。」 「……。」 「それならば、こやつを目に見える場所で保護するのが一番であろう。」 夜一の言いたい意味が分からないのか、一護と冬獅郎は違いの顔を見合わせた。 「まだ分からぬか?つまり、お主らが夫婦になればいいのじゃ。」 「なっ!」 「何、冗談を言っているんだよ、夜一さん。」 夜一の言葉に二人は顔を真っ赤にする。 「冗談でこのような事は言わぬ。それに、お主らは想いあってあるのだろう?」 「……。」 「……。」 夜一の言葉に二人は思い当たるものがあるのか、黙り込んだ。 「まぁ、すぐに決める必要はないがそれが一番だと、わしは思うぞ。何せ隊長の妻に手を出すやからは少ないに決まっておるからな」 「……。」 確かに夜一の言う通りかもしれないが、二人はまだ知り合ってそんなに時間が経っていないのだ。 「まあ、今日はもう寝るのが一番じゃろう。」 夜一はそう言うと猫の姿になり、丸くなった。 「それじゃ、わしはもう寝る。」 「……。」 「……。」 あまりにもマイペースな夜一に一護も冬獅郎も開いた口が塞がらなかった。 「冬獅郎…どうする?」 「明日も早いし、こいつの言うとおり、寝るのが一番だろう。」 「そうだな…。」 しばらく呆けていた二人だが、しばらくしてから我に返り、眠る事を決めたのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |